追放されたS級魔道書師が長いタイトルを短くするための話
「お前はいらないんだよ!パーティーから出ていけ!わかったか?!いらないんだよ!」
ども。ルイン・カーネルトです。今、絶賛追放会議中でーす。
急にギルドに呼び出されたかと思ったらこれだもんなぁ。めんどくさい。
「一応訊いておく。理由は?」
キーキーと目の前騒いでいる猿にはため息しか出てこない。
「何で左手でしか戦わないんだよ!余裕ぶってんじゃねぇよ!」
「それが理由か?俺が魔道書師なのわかっていってるよな?フィン?」
俺は魔道書を使って魔法を放つ魔道書師。唯一魔法の使える職業だ。
勇者(笑)のフィンと魔道書師の俺、戦士と薬師。国王によって精鋭が集められたパーティーとして2年やって来たはずなんだけど…
「うるせぇ!とにかく嫌いなんだよ!出ていけ!」
俺は他の仲間に視線を送ったが目をそらすばかりで誰も動かない。皆こいつの性格がよくわかってるのだ。傲慢で頑固なめんどくさいやつとして。
「わかった、わかった。俺としては抜けてやってもいいけど、お前ら魔法無しで大丈夫か?」
「そんなもの無くたってモンスターは倒せるんだよ!早く出ていけよ!」
フィンの叫びはギルドじゅうに響き他の冒険者たちが足を止めては目をそらしてそそくさと消えていく。雰囲気は最悪だ。
「じゃあな、勇者(笑)。今後の活躍をよりいっそう願ってるよ」
笑いを含んだ声でそう残し俺はギルドを後にした。
「これからどうするかな。冒険者を続けていくにしてもあいつと会うたび絡まれそうだしな…」
大通りを当てもなく歩く。一応最上位S級だから冒険者ならば生活していける自身があったが見事にフィンはその選択肢を消し飛ばしてくれてしまっていた。
古びた店の前で足が止まる。見上げるとそこにはこれまた古びた看板に「古書堂ビブリオン」とかかれている。クエスト帰りによく来る店だ。
「魔道書あるかな…」
半ば無意識に呟き中へ入っていった。
「いらっしゃいませー!ルインさん!」
若い女性の声が響く。奥のカウンターから出てきたのは店員のミリー・ビブリオン。一度も外に出たことがないかのような白い肌と髪、エプロン越しからでもわかる均整のとれた体つきにメガネをしていても曇らない美貌を持ちこの古書店の中で唯一輝いている、そんな女性だ。ちなみに歳は俺と同じ18歳。
「やあ、ミリー。今日も、来たよ」
「そんなにすぐには入荷しませんって!」
「そうじゃよ。ゆっくり待つといい」
「おじいちゃん?!ビックリさせないでよ!」
「ところでルイン君。この店を継ぐ気はないかね?」
「私のこと無視?!」
「是非。お願いします。実を言いますとさっきパーティーをクビになって無職だったんですよ」
「それはちょうどいい。今日から頼むぞい」
「今日から?!」
店主の老人はよぼよぼと奥の住居へと帰っていった。
「今日からルインさんと一緒に働けるんですね!同じ本を取ろうとして手が触れたり、カウンターの奥で肩を寄せあったり……ふふふふふ」
「あはは…」
頬に手を当ててニヤニヤしてるんだけど…これから大丈夫かな…
「さてと、まずは。『異世界視点』」
「本が宙に浮いて…えっ?…」
「俺のスキルだよ。この本で1時間位未来のことがわかるんだ」
「すごいですね!題名は『追放された魔道書師が古本屋経営で大富豪になります!あ、もうあのバカなパーティーには戻らないので!』?」
しゃがんで本の表紙を見ているミリーが読み上げるタイトルはざっと50字。長すぎるだろ…
「今の俺の状況に合わせてタイトルが変わるんだよ。……よし。変なことは起きなさそうだな。ちょっと待っててくれ」
そういって俺はビブリオンを飛び出した。移動魔法の魔道書を持って。
30分後―
「本が宙に浮いて…ええええっ!」
俺の後ろで浮いている本の山を見て30分前と同じ反応が返ってきた。驚いて目を真ん丸にしているのが可愛いな。いかん、下心は退散!
「い、家にあったものを移動魔法で持ってきたんだ。まずはこれを売って資金の足しにする。その資金で魔道書を増やすんだ」
「え?いいんですか?」
「拘束魔法とか電撃とか緊急用のは残すけど、俺は冒険者じゃないからね。もう必要ないよ」
「それなら…。あ、手伝いますよ!ってきゃあ!!」
つまずいたミリーのふたつの膨らみが目の前に迫ったかと思うと俺の視界は反転した。
「…大丈夫か?」
主に俺の精神。耐えろよ理性。お前は強いはずだ。
「……すんすん」
「何やってるの?」
「はっ!スミマセン…」
ミリーの理性も崩壊寸前らしい。俺の匂いを嗅ぐくらいには。本当に何やってんだろ?
「本棚に移すから、ほら立って」
ミリーの手を引いて起き上がらせる。
「いやあ、好きな人の匂いっていいですねー!」
「え?」
「え?あっ…その…はい、前から好きでした…」
こんなアホな告白あるのかよ……でも、まぁ悪くはない…
「ありがとう。でも…」
あ、ずるい。目をうるうるさせんなよ。可愛いな。
「いや、俺も好きだったよ」
「やった!ルインさん大好きです!」
ひしっと抱きついてくるミリーを剥がしながら、
「ほら、魔道書入れるよ。手伝ってくれ」
「はいっ!」
ミリーのテンションがいつもの倍は高いな。まぁ俺もだけど。
翌日―
店を出ようとしていたところを外の掃除をしていたミリーにとめられた。
「ルインさん。どこ行くんですか?」
「ギルドだよ。宣伝ポスターを貼りにいく」
「なるほど…魔道書ですもんね。お気を付けて!」
元気に手を振る彼女を背に俺は冒険者ギルドへと向かった。
「あいつはいないか…よし」
ギルドマスターの許しを貰い、ポスターを柱と言う柱に貼っていく。
「なあ……勇者のパーティー最近クエスト失敗してばかりらしいぞ…」
「…マジで?精鋭が集まっているんだろ?」
「魔道書師が抜けたのが原因らしいぞ…」
ざまぁねぇな。あの勇者(笑)今頃地団駄ふんで悔しがってれば良いさ。そのまま地に落ちていけばいい。っとこのくらいで自制しなければ。
俺は噂話をBGMにそそくさとポスターを貼り終え、ギルドを後にした。
帰る道すがら『異世界視点』を発動する。その表紙は「追放された魔道書師が古本屋経営で大富豪になります!ざまぁ勇者(笑)。クエストこなせなくなったんだな」
長くなってしまった。
数日後―
「この店にある魔道書をすべて出せ!買う!」
「いらっしゃい。誰だよ…騒がしいな…っ!」
げっ、とカエルのような音が喉からなった。
そこには勇者(笑)フィンが偉そうなどや顔で仁王立ちしていたのだ。
「なぜお前がいる!ルイン!」
「ここが俺の店だからだ」
ミリーが奥できゃあきゃあ言っているが気にしない。
「いいから売れ!魔道書を出せよ!」
「そんな態度の客に売る本はない」
「客は神様だろ!言うことを聞け!」
「神なら突き当たり左の教会に行ってくれ。ここは人間専用の店だ」
「うるせぇ!さっさと出せよ!」
フィンの偉そうな顔は崩れ今にも泣きそうなそして怒りに染まった惨めな顔をしていた。
「お前に売る本はないと言っている」
「くそ!…ならば決闘だ!」
「接続詞おかしいだろ!」
「いいでしょう!受けてたちます!」
「ミリー?!」
つかつかと俺に歩みよりフィンをきっ、と睨み付ける。
「ルインが勝ったならあなたの入店を永遠に拒否させていただきます」
「俺が勝ったら魔道書をすべて寄越せ。明日。闘技場で待つ!」
そう言い残してフィンは乱暴にドアを開けて出ていった。
「あの方はこの店の脅威です。人目見てわかりました。店を守るためなんですからお願いします」
俺の顔を見つめる彼女の目は真剣だった。恋人にここまで言われて怖じ気づく俺ではない。
「わかった。必ず勝ってくるから」
彼女の頭を撫でる手に力がこもってしまったのは慣れていないせいか。
翌日、闘技場―
「来たな…始めるぞっ!!」
正面から切りきってきたフィンに俺はスキルを展開。相手の動きを見切っていく。
「なんでっ!当たらないんだよ!」
お前の動きが1時間後までわかるからだよ。スキルに俺への脅威として認定されてるからなっ!
「くそ!……っはぁ!」
フィンが攻め疲れた隙を狙い拘束魔法の魔道書に持ちかえる。
「『束縛の鎖』!」
魔道書から放たれた幾本もの鎖がフィンの四肢を絡めとり地面に固定する。
「俺の勝ちだな。フィン」
「くそっ!こんなはずじゃ!」
フィンにとどめの言葉を刺していく。今俺の顔は極悪人か悪魔のような表情だろうな。
「お前勇者名乗ってるけどな、実際弱いんだよ。近接戦闘だったら勝てると思ったか?甘いんだよ。ただのザコ。この事を肝に銘じておけよ」
2、3何か言っていたようだったが無視して闘技場を後にした。
『異世界視点』のタイトルは「追放された魔道書師が古本屋経営のかたわら勇者を倒したそうです」だったような。少し短くなった。
後日―
あのあと勇者を倒したことが広まり、ビブリオンの前には人だかりができていた。
その中には―
「君、もう一度冒険者をやらんかね?!我が王家が全面支援を約束しよう!!」
なんと国王の姿があった。
「ルインさん…冒険者になんて、なりませんよね?どっかいっちゃわないですよね?」
ミリーが涙目で抱きついてくる。こんな顔させたくなかったな。でもミリー、それ全部勘違いだから。
「お言葉は嬉しいのですが、僕には妻とこの店があるので、もう冒険者にはなりません」
「つ、妻って…ルインさんたら…大好きっ!」
しょげ顔の国王前でキスされるなんて一周回ってシュールすぎないか、これ。
とまあそんなこんなで古本屋は大繁盛。ミリーともラブラブのまま幸せに暮らしてます。スキンシップは相変わらず激しいけどね。
今のスキルのタイトルは、
「追放されたS級魔道書師が長いタイトルを短くする話」
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