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第九十ニ話

 「は?」


 キマイラは突き刺された短剣を見て僅かにひるむが、何とか男を蹴り飛ばして距離をとった。


 「…久しぶりだ。刺されるのは」


 刺さった短剣を引き抜いて明後日の方向に投げ捨てた。


 「へへッざまあみやがれ。庇うからそうなるんだ」


 「…どうなるんだ?」


 「は?」


 刺してきた男が素っ頓狂な声を上げた。

 理由は簡単、刺したはずの傷がまるでなかったかのように治癒していたからだ。


 (これより前に刺されたのはミリーだったか…まああの時より傷は酷くない)


 「お、お前…なんで?」


 「さて、お前に聞きたいことがある。断ればどうなるかわかるな?」


 「は、ははははは…」


 指をぽきぽき鳴らしながら、尻餅をつく男に詰め寄った。






 「すみません…」


 「いいから歩け」


 キマイラによってぼこぼこにされた男はキマイラから受け取った紙を見て、歩き始めた。

 

 「それにしてもアンタ、なんでこんな場所に居るんだ?明らかにここに居るべき人間じゃないだろう?」


 「…俺が人間に見えるのか?いいから行け」


 探しているのは本の在処を知っている人間の場所。

 キマイラは住所が書かれた紙を受け取っていたが、文字が読めない彼からしてみればただの落書き。

 ある意味この男を案内役に出来たのは良かった。


 「ここから馬車に乗って北に行くんだ。金は持ってるか?」


 馬車が集まっているところまで来ると、彼はそう言ってきた。

 だがキマイラの答えは…


 「無い」


 即答だった。


 「おいおい嘘だろ?こっから歩いていくつもりか?」


 「俺なら大丈夫だ。歩いていくぞ」


 「無茶言うな!丸一日歩き回ることになるぞ!それもこのクソ寒い中野宿しなきゃならん!死ぬ気か?」


 「…今死ぬか?」


 「行くよ…危なくなったら助けろよ」


 情けない声を上げながら歩き続けることにした男だった。


 「というかアンタなんだってこの男を探してるんだ?」


 「…どうでもいいだろう」


 「登山家を名乗ってる男だ。こいつがいる村じゃこいつは鼻つまみ者だぞ」


 「いいから行け」


 冷たくいい放ち、二人は進んでいった。


 




 「だから言っただろうが!ああクソ!寒い!!」


 暫く歩き続けてみたが、案の定夜になった。

 キマイラと男は宿にも泊まれず雪が残る道の端で野宿をする羽目に。

 周囲に明かりもなく焚き火だけが周囲を照らしていた。


 「たのむから帰ろうぜ!?死んじまうわ!」


 「…黙って寝ろ。夜が明ければまた歩くぞ」


 「寝れるか!」


 うるさい男を放置してキマイラは横になり目を閉じた。

 

 「………」


 暫くはキマイラの言う通り横になっていた男だったが彼は起き上がり…


(冗談じゃねぇ、このままこんな奴に付き合えるか!)


 足音を消してもと来た道を帰ろうとした。


 「…そっちはやめておいたほうがいいぞ」


 「お、お前起きて!?」


 目を閉じたまま、声だけかけるキマイラ。

 それに驚いた男がしりもちをついた。


 「ガァッ!!」


 「ひ!?ヒャアアアッ!!」


 そして男の後ろ…いやキマイラ達を取り囲むようにいつのまにやら狼の群れがいる。

 低く唸り声をあげ、今にも飛びかかりそうな雰囲気だ。


 「襲われたくなければ黙って寝ていろ」


 「ひ…ひい…」


 見ればキマイラは狼の腹を枕代わりにして横になっている。

 彼の元に多数の狼が集まるのを見て、震えながら言う通りに身体を再び横たえ目をきつく閉じる。

 もはや男は考えるのを放棄した。


 読んで頂きありがとうございました。

 意欲向上の為、評価をお願いいたします。

 それではまた。

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