第九十一話
「今の帝国は問題だらけだ」
先程の部屋に戻ってきたキマイラ達、そこでヴィクトリアは言った。
「目下深刻なのは跡継ぎ問題、他にもお前達に話した銃の技術の流出、その他細々したのが山のようにある」
「跡継ぎ?」
首をかしげながら聞き返すキマイラ。
「…まあ、いずれ話す。それよりその本の事は頼んだぞ」
キマイラはいつものように、ああ、とだけ返事を返し部屋を後にした。
「で、場所は?」
「サマラスですね。とても寒い場所ですが…平気ですか?」
ヴィクトリアから渡され紙に書かれていた場所、そこはサマラスの北部に位置する場所だった。
サマラスは常に寒い地域。
おまけに犯罪発生率も高く、いまだに奴隷制度が生きているような場所だ。
「キマイラさん、その格好じゃ風邪引きますよ」
ミリーが忠告するがキマイラは相変わらずの白服に裸足。
寒い地域で端からみればただの馬鹿にしか映らないだろうが…
「大丈夫だろ。それより早く行くぞ。クラウ」
「大丈夫なんですかね…」
「ああそうだ!すいません。私はドレスリンに戻らないと。患者が居ます」
ミリーは足を怪我した少年の事を思い出していた。
消毒や抜糸もしなくてはならない。
「そういえばそうだな。クラウ、一人で行ってくる。ミリーを送ってやってくれ」
「いいんですか?」
「ああ」
分かりました、そう答えたクラウは空間を歪ませ、ミリーと一緒にドレスリンに向かった。
「俺も行くか…」
ミリー達が行ったのを見届けたあと、キマイラも翼を広げサマラス方面へと飛んでいった。
「寒い…」
暫く飛び続けサマラスの地へとやってきたキマイラだったが、彼は自分の短慮さをとても後悔していた。
刺すような冷気が襲ってくる。
身体自体は無事ではあるが、それでも寒いものは寒い。
「…降りるか」
眼下に見える都市に向かって翼を折り畳み、落下していく。
キマイラはサマラスを訪れたことがなかった。
ギースを捜索する時には主に動物の力を借りていて出ていく必要がなかったからだ。
「…靴ぐらい履いて来るんだったな」
降りたったのは人気のない路地。
道端には雪がちらほら残っており、道は凍結している。
そんなこともあってかかなり辛い。
「おいアンタ、どうだい?買わないか?」
「…なんだ?」
あまりの寒さに腕を擦っていると後ろから声をかけられた。
「何だこれは?」
振り返って見てみると紙を折ったものを持った男がいた。
見れば見るほど不潔な見た目をしている。
元々白かったと思われるシャツは茶色く薄汚れ、髭と髪は全く手入れされていない。
言動から察するに何かを売ろうとしているのだろうが全く買う気になれなかった。
「買ってくれよお、旦那」
「何を売ってる?」
「へへへ、最近出回り始めた薬でさあ。天国に行けるぜ?」
折られた紙を開いて中身を見せてくる売人。
なにやら白い粉末が入っていた。
「またやってやがるのか!このクソ野郎が!!」
「ひ、ひいいいいッ!」
にこにこしながら薬を見せてくる売人だったが、横からとんでもない声量で怒鳴り付けながら走ってくる男がいた。
「うちの縄張りで好き勝手に薬捌きやがって!ふざけんじゃねぇ!!」
男は薬の売人に飛びかかり馬乗りになると顔面を全力で殴り始めた。
「おいやめろ」
骨が砕ける音が聞こえてくるなか、キマイラは冷めた口調で止めに入った。
「何だてめえ?こいつを庇うのか?だったらてめえも死にやがれ!」
男は今まで使っていなかった短剣を胸元から出し、キマイラを突き刺した。




