第八十九話
「『三号兵器』って…」
「俺…か」
キマイラの兵器としての名前、それが三号兵器。
そしてクラウはこの本を種と言った。
「この本はキマイラさん、貴方の製造方法を記載してあります。その上これは本にマナを流し込むだけで本自体が兵器になるように設計されている…」
深刻そうに呟く彼女、だが未だに状況が飲み込めていない人間もいる。
「えっと…クラウちゃん、何が問題なの?蛮族達はもういないし、他に敵になりそうな魔術師なんて…」
ミリーだ。
「…エイルバー」
「あっ…」
エイルバー・マグワイヤ。
クラウの兄にあたる人物で、キマイラと同じくギースを追っていると聞いている。
…過激派だとも。
「あれに嗅ぎ付けられ、本を奪われれば何に使われるか分からない。何としてでも私達が先に手にいれないと…」
「…分かった。俺も行く」
「私も」
二人はクラウと一緒にヴィクトリアの元に向かう事にした。
「来ましたねクラウ、そして皆さん。まずは部屋へ、そこでお話します」
「あ、ああ…」
クラウが魔術を使って移動した先はウッディーネにある王宮。
そこには衛兵に守られながら粛々と待つヴィクトリアの姿があった。
絹と宝石で彩られた豪奢なドレスを着込み、丁寧な口調で話す彼女はまさに皇后にふさわしい。
「貴方達は下がっていてください。クラウもいますし彼等も信用できる」
「…部屋の前で待機しております。いつでもお呼び下さい」
「はい」
彼女は踵を鳴らしながら三人を連れ、部屋の中に入った。
「さあて、お話だ。例の本の話だがな…」
「ああ、戻ったか」
先程からの丁寧な口調はどうにもキマイラからすれば慣れない。
聞いた時には鳥肌がたった程だ。
「話をそらすな、例の本だが詳しい場所は登った人間しか分からん。見つけた奴は分かっているからそこに行ってくれ。それとキマイラ、ドリュアス達他の魔術師は?」
矢継ぎ早にそう言った。
「ドリュアスはテュポーン、エキドナと一緒にギースについて調べてる。エイラは分からん」
「そうか、協力できそうならさせろ。軍は今のところ動かせないからな。任せる」
魔術師が絡んでくる事案、下手に手を出さないのは英断だろう。
ヴィクトリアから住所が書かれた手書きの紙を受け止り部屋を後にしようとした。
だがそこであることに気が付いた。
「…そういえば皇帝は?最近お前しか見ていないし腰巾着の爺も居ないな」
民衆の前に必ずと言っていいほど出張ってくる皇帝。
だが最近はあまり姿を見ていなかったのだ。
ヴィクトリアの口調を諌めていた爺も居ない。
「…お前達にゃ話しとくべきか」
渋々ヴィクトリアは三人を連れて今いる部屋を後にした。
部屋を出るなり衛兵が話しかけてくるが気にも止めず歩いていく。
軍服のクラウ、庶民丸出しの服装のミリー、地面に着きそうな長い白髪の青年という明らかに場違いな人間達が歩いている、当然彼等はじろじろと警戒されることになった。
「着いた。ここだ」
樫の木と鉄で出来た頑丈な扉を開け、先にキマイラ達を入らせた。
そうして中に入ったキマイラ達が見たのは…
「……………」
枯れ木のように痩せ細った皇帝の寝姿だった。




