第八十四話
蛮族達との戦争が終わり、5年の月日が流れた。
捕虜となった蛮族は国へと帰され、賠償金と彼等の土地を帝国は得ることになった。
その際、彼等の国の民が反乱を起こしたがなんとか鎮圧。
少しずつ平和を取り戻しつつあった。
そして、キマイラ達は……
「こ、怖い…」
「大丈夫だから」
キマイラの館の麓にある村、ミリーが昔住んでいた村に二人は来ていた。
鉄で出来た円錐形の容器に針がついた珍妙な器具を持ったミリーが少年に笑顔で迫っている。
隣で見守るキマイラと少年の親も不安そうだ。
「これを打てば痛みが抑えられるの。その傷じゃ縫う時かなり痛むから」
「本当に大丈夫なのか?」
少年はふくらはぎが縦にぱっかりと裂けていた。
肉が剥き出しでかなり深い傷だ。
見ていてかなり痛々しい。
「じゃ、打つよ」
「ああ、神様!」
ミリーは針を刺し、暫くしてから怪我の周辺をつねってみた。
「どう?痛い?」
「…全然、触れられてる感覚はあるけど」
「良かった、効いてる。傷自体に汚れはないからこのまま縫うね。見ない方がいいよ。卒倒しかねないから」
「わ、分かった」
そう言って彼女は傷を縫い始めた。
「はい、終わり。頑張ったね」
包帯を巻き終わり、彼女は他の道具を鞄に詰めていた。
「お、終わった?」
不安そうに聞く少年。
「うん。暫くは走っちゃ駄目だよ?転んで縫合後が開いたら大変だから。あと消毒するから暫くはこの時間にここで待っててね」
「うん!分かった!」
「後、足を水に浸けないようにね。それじゃ」
ミリーは立ち上がると、少年の親から幾らかの硬貨をもらった。
「ありがとう、ミリーちゃん」
「暫くは大人しくさせてくださいね」
「それにしても…道具も変化が早いねぇ」
少年の母親が興味深そうにミリーの鞄を見ている。
「そうですね。戦争以来、確実に色んなものが発展していってます。あれとか」
窓から見える村の大通りでは、人が屋根のない馬車のようなものに乗っている。
しかし馬はどこにもおらず乗っている人間が鉄の棒を操作する事で動いている。
「『車』っていうらしいね。速度は馬より遅いけど馬と違って疲れないからいいわ」
「あとは、それとか」
今度は家の中にある金属製の針が二つ付いた板を見る。
「『時計』ね。火時計や砂時計より随分正確に時間が分かるわ」
「時代は移り変わり、色々なものが変わっていきます。私も…」
「ミリーちゃん…」
「さて、私達は戻ります。それじゃ」
「わざわざ付いてこなくても大丈夫だったんですよ?キマイラさん」
館へと帰っていく道中、二人は歩きながら話をしていた。
館へは道が整備され、村への行き来が楽になっていた。
「心配だったからな。お前が最近になって医者に戻って村に行きだしてから。確かに俺は人間の所に戻ったほうがいいと言ったがよりによってあの村に行くなんて…」
「…まあ、そうですね」
自分が殺されかけた村でまた医者を始める。
端から見ればただの馬鹿にしか映らないだろう。
だが今のミリーには何故か、そんなことはどうでもよく思えた。
「キマイラさんの方はどうなんですか?仕事は」
「まずまずだ」
キマイラは最近、仕事を始めた。
それというのも…
『やいキマイラ!お前も帝国に住むなら税金払え!』
『俺は化け物、人間の法なんぞ知らん!』
『これが法典だ、よく見やがれ!どこに人間限定なんて書いてある!?』
『『帝国に籍を置く者』…?』
『お前がドレスリンに住み、自分の土地だと主張するなら税金払え!嫌なら館差し出せ!』
と、ヴィクトリアに脅されたからである。
「あの女…」
「大人しくキマイラさんが従ってるのにも驚きですけどね」
「仕方なくだ。クラウをけしかけるなんて言われればな」
「あははは…」
そんな風に話をしながら、木漏れ日と鳥のさえずりが聞こえる山道を登って行く二人。
あと数歩で到着、というところでキマイラが立ち止まり顔をしかめた。
「どうしました?」
「門が開いている…」
「あっ…」
何とを察した様子のミリー。
「…入るか?」
「一応…」
二人は肩を落としながら入っていった。
「ようキマイラ、ミリー」
「……………」
「……………」
中に入ると、まるで自分の家のようにくつろいでいるヴィクトリアが護衛と一緒に待っていた。




