第八十二話
「こちらも終わったぞ」
最後の戦いが終わり、エイラと合流したキマイラとテュポーン。
地面にそのまま腰掛けてキマイラ達に手を振っていた。
灰色の髪や白い肌が土や返り血で汚れてはいるものの、彼女は無傷だ。
「敵にもう反撃する力は残ってない。エイラ、テュポーン、礼を言う。結局俺だけじゃ勝てなかった」
「クラウやミリー、それにドリュアスにも言ってやれ」
「ああ、そのつもりだ。迎えに行ってくる。あまり放置するとドリュアスに何を言われるか分かったものじゃないからな」
「少し待て、キマイラよ」
「ん?」
残党狩りに出ていく帝国兵の波に逆らい、皇帝が歩いてきた。
「よくぞやってくれた。そなたらには勲章と褒美を与えなければな」
「…ギースの情報の事か?キマイラ」
「ああ。奴の手がかりが見つかるかも知れないからな」
「そうか…」
エイラは目を伏せながらそう言ってきた。
「ウッディーネにある情報院。そこに帝国に住んでいる、あるいは過去にいた人間の個人情報が集積されている。そのギースという名前の人間の情報も見つかるだろう」
「なるほどな」
「だがこの情報院の個人情報の持ち出し、正式な手続きを踏んでいなければ閲覧も禁止されている」
「お前まさか、法律を盾にして約束を蹴る気か?」
「あー…そなた等には土地をやろう、それと褒美の恩賞もな」
皇帝は彼に近づき、耳打ちしてきた。
(土地も恩賞もくれてやる。だからこのことは黙っていろ。そなたも公にギースを探していると広めたくはないだろう?)
(分かった)
(情報は探させて、写しをその土地に持って行く。これがその場所の地図だ、持って行け。くれぐれも他の人間に見られるな。私の信頼に関わる)
(ああ)
お金を握らせて黙らせ、法律を破り、随分と汚いことをしているが普段からこうなのだろうか?
そんなことを考えているとは微塵も思っていないのだろう。
皇帝は羊皮紙をキマイラに渡し、最後に彼の肩を叩いて他の兵士達と共に行ってしまった。
「さて、今度こそ行ってくる。お前た」
キマイラが言葉を言い終える前に、とんでもない音量で女性のものと思われる咆哮が周囲に響き渡った。
「…なんだ?」
声のする方向に目をやる。
すると…
「退け!!魔術師だ!こっちに来るぞ!!」
「大砲用意ッ!!」
焦った様子で兵士達が森から出てきた。
そしてそれとほぼ同時に、森の木々をなぎ倒しながらそれは現れた。
「ギャアアアアッ!!」
「何だあれは!?」
巨大な死人で出来た赤子。
ウッディーネに向かう蛮族達の護衛をしていた魔術師…
ハーレだった。
「最後の悪あがきか!食らえッ!!」
エイラが炎の弾を次々にぶつけるが、直撃してもすぐさま元の姿に戻ってしまう。
「クソッ!威力が足りない」
悔しそうに歯噛みするエイラ、そして攻撃を受けたハーレは禍々しい咆哮をあげながら真っすぐ突進してきた。
「…遅かったな」
そんな状態であってもキマイラは焦りを浮べることは無かった。
なぜなら…
「フセテッ!!」
金属をこすり合わせたような…そんな声と共にキマイラの背後から巨大な黒い影がハーレ目掛けて飛び掛かった
三つ首の黒い犬、それが巨大な赤子の頭を押さえ、過たずに胸元を食いちぎる。
「ラァッ!!」
黒い犬が食いちぎった死肉を地面にたたきつけると、死人で出来た赤子は崩れ去った。
黒い犬は人間の姿に戻り、誰かから貰ったであろう麻の服を正した。
風になびくのは見慣れた赤髪。
穏やかな笑みを浮かべながら佇むミリーだった。
「ミリー…」
「キマイラさん、ただいま戻りました」
キマイラの元まで来た彼女が少し恥ずかしそうにそう言った。
「ドリュアスと一緒に安全な場所に居なかったのか?」
「すいません、置いてきちゃいました。怒られそうです」
「そうか、それは怖いな」
これでようやく、落ち着いて言葉を交わせる。
いつもミリーには仏頂面のキマイラが初めて彼女に向けて心からの笑顔になった瞬間だった。
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