第七十九話
「なんだと?」
テュポーンの言葉に、キマイラは紅い瞳を見開いて唖然としていた。
「嘘ではありません。互いに婚姻の約束まで交わしていた仲のはず。お二人の事は私もよく存じています。ギース様が裏切ったなど、信じられない」
「馬鹿な。なら何故エルは殺された?」
「考えられるのは痴情のもつれ…でしょうがお二人にそんな様子はなかった」
「………」
「キマイラさん。この戦争が終われば私も調べてみます」
「あてはあるのか?」
ギースが姿を消してから五百年以上経つ。
血眼になってキマイラも探していたがそれでも見つかっていないのに、今の今まで姿を消していたテュポーンにあてがあるとは到底思えなかった。
「…心当たりがあります」
「分かった。頼む」
「とにもかくにも今はこの戦争を終わらせないと…」
「そうだな…」
気になることが出来たが、今は目の前のことに集中しよう。
蛮族達の殆どは森の中、帝国軍は皇帝の命令で巨大な半円状に部隊を配備し始めている。
キマイラ達に今のところ指示は出ていないが。
「そなた等は暫く休息を取るのだ。敵の魔術師が出てきた際に迎撃を頼む。長期戦になる」
「長期戦?」
「敵の補給路は既に無い。となれば後は待つのみだ。援軍も合流しつつある」
皇帝が顎でしめす方をみると、旗を翻す騎馬の一団がこちらに向かってくるのが見える。
いや一団だけではない、後から続いて続々と集結しつつある。
長槍兵、騎兵、弓兵、砲兵、大量の食料やその他物資を持って来ている商人まで居る。
「陛下、ウッディーネ陸軍第一大隊只今参りました。申し訳ありませんドレスリンから流れてきた残党狩りに手間取りまして」
「よく来てくれた。礼を言う」
先頭にいた男が馬を降り皇帝の元にあいさつに来た。
「敵は森の中ですか」
「その通りだ。そなた等はウッディーネ側から包囲してほしい。エイラはトゥールス側から向かわせる」
「御意」
「で。彼女達は一体…」
「…………」
皇帝が言っているのはテュポーンの後ろで控えているエキドナ達である。
「最初に出会った彼女と、少し違うようだが…」
まじまじとエキドナを見てみる。
紅い瞳、真っ白い肌と髪、以前見た彼女と瓜二つだが彼女は笑顔など感情があったように感じた。
だが目の前の彼女達にはそんなものは感じられない。
よく言えば美しい彫像、悪く言えば置物だ。
「彼女たちはそう…『子供』です」
「子供…」
「大昔に分裂した母体から生み出された子供の一部です」
「なるほど。クラウが言っていたな。そなた等がそうか」
「ソノ通リ」
「我ラハ『女王』より生ミ出サレタ存在」
「陛下、彼女たちは戦争には参加させません。どうかご容赦を」
「クラウからどうなるかは聞いている。構わぬ」
その言葉にほっとしたような表情を見せるテュポーン。
「さて、では向かってくれ。頼むぞ」
「御意」
「…で、ドリュアスたちは無事なんだな?」
「ええ、無事です。ミリーさんも一緒に行動しているはず。あちらに敵は殆どいないはず。十分安全かと」
キマイラとテュポーンは他の兵士達と共に歩いて森の中を進んでいた。
森と言っても下草は丁寧に刈り取られている。
かなり歩きやすい。
そして戦い傷ついた兵士たちは後方に、今一緒に進軍するのはウッディーネから来た援軍だ。
主に槍、そして大砲を運んでいる。
「予定の場所まであと少しだ。そこに着いたら待つ。いいな?用心棒さん?」
「ああ」
「もちろんです」
森の中、ただ待つ。
戦いの終結まであと僅かであった。
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それではまた。




