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第七十八話

 「どうしてなんだ…」


 周りを見ると負傷した兵士達が目立つ。

 森の中を歩くのは蛮族達。

 混戦の最中、崩壊しそうになった軍を何とかまとめ上げ撤退させることに成功した王だったが被害は甚大だった。

 

 「王様…ハーレ様が…」


 「…」


 王の傍らには複数人に即席で作った担架で運ばれるハーレが居た。

 苦悶に顔を歪ませながらかたく目を閉じて眠っている。


 「敵の言葉を鵜呑みにするなら…メリザンド様が討ち倒されたとするならば…魔術師は全滅です」


 「ああ…」


 「おまけに港に居る味方も恐らく支援には来ない。これでは…」


 王は黙りこくってしまった。

 他の生き残りの兵士達も疲労と絶望が色濃い。

 …このまま負けてしまう。

 

 





 「さてどうするか…」


 一方で皇帝たちは頭を悩ませていた。

 蛮族達の一部はテュポーンの言葉に戦意を失い、打ち取られるか投降している。

 無論抵抗するものはかなりの数だったがそれでもかなりの効果はあった。


 「もう一度森を丸焼きにするのは少し気が引けるが…やろうと思えばいつでもできるぞ」


 「ふむ…」


 「私はしばし時間を頂きたい。メリザンド殿との戦いでほとんどの防御術式が剝がれてしまいました」


 「俺も暫くは戦えん」


 エイラとテュポーン、キマイラはそう言った。

 今は森に逃げ込んだ蛮族達の掃討をどうするか考えているのだが…うかつに飛び込んで被害を出すのも気が引けた。

 元々ここで戦闘していた部隊も疲労困憊、治療もしてやりたかった。


 「囲むのだ。大砲とバリスタ…それと土嚢を!海側に追い込め!!」


 「はッ!!」


 皇帝の立てた作戦はこうだ。

 蛮族達が逃げ込んだ森を大砲、弓、バリスタで構築した陣地を作り半円状に囲んでいく。

 後は少しづつ円を狭め、補給を絶ち、敵がジリ貧になるまでただひたすら待つのである。


 「さてと…もういいか?」


 「ああよいぞ」


 今まで不機嫌そうな顔をしつつ腕を組んでいたヴィクトリアが口を開いた。

 待っていましたと言わんばかりにキマイラの元に歩いていき…


 「フンッ!!」


 「ぐふッ!?」


 鉄の塊ともいうべき拳で思いっきり彼の頬を殴った。


 「この阿保が!!勝手に行くんじゃねぇ!!あんなのは戦場じゃ日常茶飯事なんだよ!!」


 あんなの、人質の件だろう。

 鬼の形相で倒れそうになるキマイラの首根っこを掴み、自分の顔に近づけた。


 「傷をつけて放置して、叫び声で敵を引き寄せてより被害を出させる敵の作戦だ。お前は一人で、まともに力も使えない状態で突っ込んで…死にてぇのかボケ!!」


 「俺の仲間だ、俺が助ける」


 何故だか分からないが、今の彼女は普段よりも大きく見えた。


 「仲間ならここにも居るだろうが!私たちも、お前の隣に居る奴もな!クラウが行くと言った!お前はクラウも信用できないのか!?」


 「……」


 「分かったら今後は考えて動け!!返事は!?」


 「あ、ああ」


 「何だって!?聞こえねぇよ!!」


 「分かった!」


 半ばやけくそ、叫ぶように返事をするとヴィクトリアは満足そうに頷き、手を放した。

 

 「ああそうだ。一つ聞かなきゃならんことがある」


 彼をおいてどこかに行こうとした彼女だったが突然歩みを止めて振り返った。


 「ミリーは?無事だったのか?」


 「…瀕死だったが、無事だ」


 「そうか…良かったな」


 彼女は自分の事のように笑うと、今度は振り返らずにどこかに行った。


 「仲間思いなお方ですね。皇女様は」


 「テュポーン…」


 「ミリーさんは兄様が保護しております。問題ありませんよ」


 にっこりと笑ってくるが、正直キマイラ自身は彼の事をよく知らない。

 ドリュアスが信用しているようだから、彼もある程度は信用しているが…


 「エルフリーナお嬢様の面影がある…お嬢様の血を使ったから似たのでしょうか?」


 「エルを知っているのか?」


 「はい、よく存じ上げています。…まさか亡くなられているとは思いませんでしたが」


 「殺したのはギース…ギース・ヴォルフだ。何か知っているか?」


 ギース、その名前を出した途端、テュポーンの表情が変わった。

 信じられない、そう言わんばかりに。


 「そんなはずがない!あの方は…ギース様は…」


 「何だ?」


 「エルフリーナお嬢様と恋仲にあったはずだ!」

 

 

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