第七十六話
「そんな…」
首を失い、倒れ行く龍を見てロイスは絶望していた。
「ドリュア…ス、無事か…」
突如として現れたキマイラだったが体力などほとんど残されていない状態からの化け物への変化。
彼自身、息も絶え絶えであった。
「ああ、助かった。…じゃがミリーが」
「ッ!?」
彼から少し離れた場所、血だまりの中でぼろぼろになって倒れているミリーがキマイラの目に入った。
慌てて駆け寄るが…
「どうじゃ?」
「…まだ息がある」
彼はまた腕に傷を付け、血を飲ませ始めた。
目を覚ますことは無いが少なくとも体だけは再生し元に戻った。
「間に合った…助けてやれた」
「キマイラ…」
彼の瞳には涙が浮かんでいた。
何故だかは全く本人も分かっていなかったが。
彼女の赤毛を慈しむように撫でた後、彼は顔を上げ、まだ眠ったままの彼女を抱き上げた。
「ドリュアス、こいつを安全な場所に連れて行ってやってくれ。俺はまだやることがある」
「ああ。分かった」
「ヴィクトリア様!キマイラが見張りを振り切って逃げました!!」
合流地点に向かう皇帝達。
一人の兵士が血相を変えて走ってきた。
「あの馬鹿が!!」
キマイラが隊列を離れたことで怒り狂ったヴィクトリア…
「馬鹿者が…」
静かにこめかみに血管を浮き出させている皇帝。
「どうする?救援を送るか?何なら私が」
「必要ない。スラウニア海軍に任せるのだ。それで生きていなければそれまでだ」
「分かったよ」
「ハァッハァッハァッ…」
ロイスは這う這うの体で逃げ回っていた。
「………」
迫りくるキマイラから。
(糞ッ!糞ッ!!化け物共が!!ベルガー家の兵器風情が!!)
心の中で悪態をつく。
ほとんど移動を龍に頼りきっていたうえ、彼自身もほとんど体を鍛えていない。
「ぐあっ!?」
岩場に躓き受け身も取れず無様に転んでしまう。
体力の殆どを使いつくしたキマイラにすら結局追いつかれてしまった。
「糞ッ!この化け物が!!ベルガー家風情が!!」
「…貴様は俺を、俺を作った一族を知っているのか?」
先ほどから気になっていたことがあった。
この男はベルガー家、つまりはキマイラ達を生み出した一族の事を知っている。
だがキマイラ自身は龍を扱う魔術師など聞いたことが無かった。
「は、はは!なんだ貴様は!何も知らないんだな!俺はドラクル家、お前達ベルガー家から見て本家に当たる一族だ」
「ほう?」
にわかには信じがたいが。
「まあいい死ね」
「やめッ」
キマイラは聞く耳を持たず彼の首を絞めにかかった。
無論抵抗されるが万力のような彼の手は離れてはくれない。
「かひゅっ…」
無様に最後の息を吐き、彼の腕から力が消えた。
「終わったか…」
「キマイラさん!何でここに居るんですか!?」
「クラウか」
息絶えたロイスを放ると、港の方から見慣れた茶髪の頭が見えてきた。
クラウだ。
恐らくミリーを助けに来たのだろうが彼がここに居るのは知らなかったのだろう。
「…この人は?」
「ドラクル家、そう言っていた。ミリーを攫った張本人だろう」
「ドラクル…セルトラダート家ですね」
「知っているのか?」
彼には一切心当たりがなかったが、クラウにはあるらしい。
さも当然と言わんばかりにそういった。
「魔術師界隈にはことわざにもなるほど有名な一族です。『龍にはなるな』と」
「?」
「かつてこの人たちは旧大陸において覇者ともいえる一族でした。雲霞の如く龍を従え最強の軍団を築いていました」
「それが何故『龍にはなるな』となるんだ?」
「研鑚を怠ったからです。龍の強さにあぐらをかいて他の魔術師が技を磨いていく中強くなろうともせず競争に負けた。噂ではかつて所有していた領地の殆どが奪われたうえ、龍の数も数えるほどしか居なくなったとか」
「…………」
倒れ伏した彼を見る。
灰にならずそのまま死体が残っている。
「…不死の術はおろか、基礎的な魔術すら伝承されていないんでしょう。お陰で死体は残ったまま」
「…可愛そうな奴だな」
「同情は不要です。一旦皇帝の所に戻りましょう。…恐らく怒っていると思いますが」
「…そうだな」
彼女が空間を歪めたのを確認しつつ、キマイラも歪みに入り込んだ。
後に残されたのはロイスの遺体のみ。
誰に埋葬されるだけでもなく、波に攫われて消えていった…
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