第七十五話
「安心せぇ…ミリーよ」
「もが…ごぼっ…」
吊るされていたミリーを助けたのはドリュアスであった。
船の上ではロイスと龍が目を光らせ彼女を探している。
「息を大きく吸うんじゃ」
「あ、おぶっ」
背中に彼女を担いだ状態でそういった。
とはいえミリーは半ば混乱している、手足が無い為自力では泳げない。
おまけに口に水が入るわ傷口に海水が染みるわ痛みと苦しさが凄まじい。
「ご、ごばっ、がふっ」
「…………」
ドリュアスは兵士に火を放って人目を引き付けたあと彼女がさらわれた船に乗り込んだのだ。
「流石に厳しいのう…泳ぐのも久方ぶりじゃ」
見張りの目をかいくぐらなければならないが彼女を背負っていることに加え彼が子供の身体というのも相まって中々泳ぐ速度が上がらない。
「ごはっ…ドリュアス…ありがとう」
「礼を言うのは早いわ。ともあれ岸まで上がるぞ…」
かなり遠回りして、ようやく岸に上がった二人。
ごつごつとした岩肌に鋭く尖った貝殻が背中や足に突き刺さる。
だがそれでも先程ロイスから受けた拷問に比べれば何倍もましに思えた。
「…ドリュアス、大丈夫なの?」
「何がじゃ?」
打ち上げられた魚のように寝かされたミリーがあることを思い出した。
「貴方は木なんじゃ…塩は駄目じゃないの?」
「たわけ。儂がそこらに生えとる木に見えるのか?問題なんぞ無いわ」
どうやら心配は杞憂だった。
「で、お前さん足は生やせるか?」
「うっ…ん…」
ドリュアスに言われ慌てて今は無い手足に力を込める。
すると少しずつ彼女の足が再生していくではないか。
「どうにかなりそうじゃな。すまんが少し引きずるぞ、許せ」
ここは岩で隠れやすいとはいえ見つからないとも限らない。
せめてもう少し離れておくべきだろう。
そう思っていた矢先…
「見つけたぞ、化け物」
「…ッ!!」
ロイスの声が聞こえ、二人は上を向いた。
龍がその巨大な羽を羽ばたかせ宙を舞っているのだ。
「逃げるんじゃ!早く!!」
「ドリュアス!!」
爪を振りかざし襲い来る龍、対してドリュアスの方は武器もない。
(このままじゃやられる!!)
なけなしの力を振り絞り、迫りくる龍に向かってミリーは半ば這いずりながら変化を始めた。
「やめろミリー!!死ぬぞ!!」
「少シ…ダケナ…ラ」
変化を終えたミリー、しかしその姿はとても戦えそうにはなかった。
下半身と三つあるうちの二つの首が腐り落ちている。
そんな状態で、彼女は龍の攻撃を受けた。
「GAAAAAAAAAAAAA!!」
「マケナイッ…」
残った一つの首で龍の足に食らいついていくミリー。
鮮血が噴き出し、龍は苦悶の声を上げているが全く無抵抗という訳ではない。
「ヴァラウール!!」
「GAAA!!」
お互いの身体に牙を突き立て、激しい土煙と血飛沫を上げながら喰らい合う。
しかしそんな戦いも長くは続かなかった…
「止めを刺せ!」
龍の背に乗ったロイスがそう叫ぶと同時に、龍はミリーを投げ飛ばした。
「あ…あ……」
元の姿に戻ってしまった彼女だったが、今度は完全に沈黙してしまった。
「ミリー!!」
ドリュアスの呼びかけにも反応が無い。
「次はお前だ。やれ、ヴァラウール」
「GAA…AA…」
「ッチ…ダメージが大きいか…ここは一旦」
弱弱しく呻く龍を見て彼女の方に視線を向けるロイス。
「この化け物を連れ帰るだけにしよう」
「させんぞ!」
そう叫んでミリーの前に出てはみたが、彼が龍に対抗する手段は無い。
武器も無ければキマイラのように変化する能力も無いのだから。
「用があるのはそのベルガー家の兵器だ。消え失せろ」
「ならば儂も連れ帰らねばならんのう?龍使いのセルトラダート家、『なりそこないの魔術師』よ」
「貴様…」
眉間にしわを寄せながら激昂するロイス。
龍と共に飛び掛からんとしたその時だった。
「阿呆が、周りが見えていなさすぎるわ」
「何?」
「Arrrrrrrrr!!」
突如として巨大な獅子が龍に向かって飛び込み、押し倒しながら首に噛みついた。
「ヴァラウール!?何だこいつはッ!?」
龍から振り落とされ、地面にたたきつけられた彼。
肺を強打して呼吸が出来なくなる。
だがそんなことよりも彼が気にしたのは龍の事だ。
「…………」
すでに物言わぬ肉塊になっていた龍をロイスが見ている中、獅子は首を力任せに食いちぎった。
「あ、ああ…」
「俺の仲間に手を出すな」
「全く、来るのが遅いわ…」
獅子は変化を解き、元の人間の姿に戻る。
長い白髪をたなびかせる青年の姿へと。
「馬鹿弟が…」
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