第七十四話
走り出そうとするキマイラをヴィクトリアが止めた。
「離せ」
「今のお前が行ってどうなる。力が使えないんだろ?」
彼女の言葉に歯噛みする。
今の彼は化け物に変化することも、翼を展開して飛ぶ事もできない。
ただの人間と変わらない。
「それでも行く。俺の仲間だ、俺が助ける」
「どうやって?」
「どうやって…だと?」
「お前の力は知っているが今は力を使えないだろう。ただの人間のお前が、龍相手にどう戦うつもりだ」
確かに今のキマイラは力を使い果たした状態、そんな状態で戦うなど自殺行為だろう。
だが少なくとも仲間を見捨てられるほど、彼は冷静ではなかった。
「何がなんでも行くぞ。止めるならお前を殺す」
「いいぜ殺ってみやがれ」
こういう場合、ヴィクトリアなら笑顔でも浮かべていそうなものだが…
今の彼女は出来の悪い子供を嗜めるような口調と顔をしている。
「キマイラさん、だった私が行きます」
喧嘩か殺し合いが始まりそうな状況を見るに見かねて、クラウが間に入った。
「クラウ…」
「助けるだけなら、私で十分です。陛下、宜しいでしょうか?」
「そうしてもらおう。キマイラよ、そなたの気持ちも分かるが彼女に任せよ。そなたは休むのだ」
「………」
「がっ…っは……」
「流石は化け物だ。こんな様でまだ息がある」
ミリーが連れ去られた場所。
そこはトゥールスの港にある船の上だった。
全裸に剥かれた上、肩にフックを突き刺して吊るされ、無惨な姿の彼女はまだ無事な目で目の前にいる男を睨み付けていた。
「貴方は…一体何者…?」
「知らない訳がないだろう化け物。俺はドラクル家の当主だ」
「………知らない、貴方のような人間」
こうなればこの男の神経を逆撫でしてやる。
精一杯嘲って、笑ってやる。
今の彼女はそんな事を考えていた。
「一騎討ちで弱らない限り手を出せないほど、貴方は弱いんでしょう?早く止めを刺さないと私が貴方を殺すよ?」
「貴様ッ……!」
「さあやりなさい。そうでもしないと貴方は勝てない。それともあの蜥蜴の化け物にやってもらう?」
「そうか、だったらやってやるッ…!」
彼は腰から短剣を抜き、ミリーの心臓目掛けて突き刺した。
身体中に走る激痛、だが彼女は笑みさえ浮かべて耐えた。
「ど…うしたの?肋骨で止まってるよ?魔術師さんは力もないね」
「うるさい!」
短剣を突き刺されたまま、今度は顔面を殴られた。
これに関してはさして痛くもない。
(全く鍛えてないんだなぁ…)
何度も何度も殴られるが正直突き刺さった短剣のほうが痛む。
「ハァッ、ハァッ…」
(息切れしてるし)
そんな彼女の呆れたような視線に気付いた彼は再び拳を振り上げ…
「ロイス様!」
「…ッチ。何だ?」
船の船員に呼び止められた。
「こちらに!」
「ああ?」
ロイスを呼び出し彼も後を付いていく。
そして船員が指差した方向に黒煙を上げる船がいくつも見られた。
「…放火か?」
彼女を助けに来た人間の仕業か、それともただの破壊工作か…
「恐らく!消火を手伝ってください!!」
「お前達でやればいいだろう」
「ロイス様!?」
彼の頭の中には、ミリーをいたぶる事しか頭にない。
他のことなど、周りにいる蛆虫のような人間がやればいいのだ。
「だったらこの化け物をお前が面倒見るか?」
「…もういいです。分かりました」
船員も彼がこう言う事はなんとなくは分かっていたのだろう。
あっさりと行ってしまった。
「さて、再開…」
うっとおしい人間が居なくなった所で彼女の元に戻ると、彼女はそこに居なかった。
「何処に消えた?」
血の付いたフックだけが揺れている。
彼女は手足がもげていたはず、まともに動けるはずがない。
「…ヴァラウール!」
彼の声に呼ばれ、龍が船の上に降り立った。
「血の臭いを辿れ。近くにいるはずだ」
「GAAAAA…」
読んで頂きありがとうございます。
意欲向上の為、評価、ブックマークをしてくれると嬉しいです。
それではまた。




