第七十三話
「ッ!右だ!!」
背中に突き刺ささった槍を抜きながら皇帝が叫ぶ。
彼等の右側、茂みの中から敵が次々と現れている。
「陛下をお守りしろ!」
「神のご加護あれ!!」
敵があまりに近く、せっかく苦労して持ち出した大砲も装填する暇もない。
敵の数は一千程、槍に長剣、弓、斧と統一性の無い装備だ。
「ハイヤァッ!!」
一番に飛び出したのはヴィクトリアだった。
曲剣を振り回し、首をはね、時にはまだ生きている敵を盾にしながら戦う。
「お前は下がれ、それとその短剣借りるぞ」
「待て…そなたは戦えるのか?」
キマイラも彼女の後に続くため、皇帝の腰から短剣を受け取った。
「さして強いわけではないがな。それでもそこら辺にいる人間よりは強い」
「陛下!集結地点が炎上しています!」
「何だと!?」
目を向けると騎兵達がいた場所に赤々と火の手が上がっている。
それどころか周りの守も巻き込んで凄まじい大火事だ。
「第二集結地点に急ぐぞ。恐らくそこに皆集まっている」
「はい!とはいえまずは…」
「目の前の敵の掃討だ!かかるぞ!!」
負傷しながら剣を抜き放ち、他の兵士と共に突進していく皇帝とキマイラ。
(不思議な戦い方をするものだな…)
突撃し蛮族達と戦うキマイラだったがその姿は皇帝の目を引いた。
肘打ちと膝蹴りを主体として戦っていて、受け取った短剣は止めにしか使っていない。
はっきり言って短剣が飾りになっている。
「負けてはいられんか」
「おおおおおおおッ!!」
「ッ!?」
兵士達からの攻撃を受けながら、それでもひるむことなく長剣片手に真っすぐ突っ込んできた蛮族の一人。
捨て身の彼を何とか首に剣を刺して止める。
「グ、ッアガアアア!!」
「ッ!!」
だがそれでも止まらなかった、
刺されながら、後ろから別の兵士に切りつけられながら、彼は手にした剣を叩きつけようと腕を動かした。
「ガッ……」
だが結局剣は届かず、凄まじい形相でその場に倒れ伏した。
「なんという執念だ…」
「今までと違う…必死だ」
味方の兵士も戦慄している。
敵の彼らはどうにも今までと違う。
まるで…
「足止めか、それとも別の意図があるのか。急がねばならぬというのに」
敵は被弾を恐れていない。
槍が真正面にあろうが構わず刺さりながら突撃し剣を突き立ててくる。
剣が折れれば拾い上げた武器や残った剣の柄でこめかみを打ち据える。
「こいつら…死ぬのが怖くないのか!?」
誰かがそう叫んだ。
あまりに無茶な戦い方、腸をぶちまけようが腕が飛ぼうがお構いなし。
そんな戦い方だが確実に帝国側の兵士たちは被害を受けていた。
一人、また一人と敵の凶刃に倒れ、血で大地を濡らす。
「引いたほうが良いと思うぞ…これは」
「出来ると思うか!?」
キマイラはそう言ったが、この状況下で敵に背中を向けて逃げられるわけもない。
追いつかれて刺されるだけだ。
「ッチ…」
キマイラも腕を切りつけられた。
彼にとっては軽微な傷ではあるが、それでも痛みは感じる上に運動機能もいくらか落ちる。
「このまま消耗戦を続けるよりほかにないか」
「そうでもなさそうだ!」
「何?」
蛮族達の後方で悲鳴が上がった。
それと同時に上がる赤い炎…
「あれは…」
「蛮族共!炎弾の魔術師、エイラが相手になるぞ!かかってくるがいい!!」
戦場に彼女の声が木霊する。
それと同時に降り注ぐ炎の弾、轟音と共に地面を抉り、敵を粉々にしながら吹き飛ばした。
「敵の勢いが落ちたぞ!!押し返せ!!」
勢いづいた彼らは敵が後ろに気を取られている間に剣を振るった。
蛮族達は前後両方からの攻撃に対処せねばならず、あっさりと瓦解してしまった。
「…被害は?」
「死亡者は三百程…三分の一がやられました」
「重傷者と生き残りの民間人はスラウニアへ、体力と気概のあるものは私と共に騎兵と合流しウッディーネへ向かうぞ」
エイラの援軍もあり、何とか勝利した彼ら。
生き残った兵士たちは火の手の及ばない場所まで移動、負傷者の手当と次の作戦の指示をしていた。
「トゥールスの港にいる敵はどうする気だ?」
「敵の殆どはどうにも民間人のようだ。そなたの兄、ドリュアスからの報告で分かったが」
「で?」
「スラウニア海軍に攻撃を要請している。大砲で武装した新型の戦艦五隻がいる。それで事足りるだろう」
皇帝がそう指示を出していると、そこに遠くから馬を走らせて来る者が居た。
「…敵か?」
「いや…あれは」
どうにも敵ではなく、伝令の兵士のようだった。
「どうしたのだ?何か緊急の報告でも?」
「ミリエラ殿が攫われ、今トゥールスの港に!」
「何だと!?」
誰よりも早く、その言葉に反応したのはキマイラだった。




