第七十二話
「危ねぇッ!!」
「オジサン!?」
エイラが放った炎から逃げる最中、呆然と立ちすくんでいたエキドナに向かって蛮族の一人が突進してきた。
だがすんでのところでお守りの兵士が馬と共に曲剣片手に突撃、彼女を助けた。
「逃げるぞ!早く!!」
血に濡れた手でエキドナを引き上げ、自分の前に乗せる。
「ウ、ウン…」
「やぁッ!!」
馬の腹を蹴り一気に走り出した。
そこにエイラの炎を抜け、敵が前に立ち…
「逃がさんぞ!!」
槍を突き出した。
「っぐ、ヤァッ!!」
何とか曲剣で斬り倒すと、一目散に馬で逃げ出した。
「ハァッ…ハァッ…」
暫く他の兵士達と共に走り続けていると異変が起きた。
「オジサン!?大丈夫ナノ!?」
「あ、ああ…大丈夫だ…」
エキドナが後ろを見ると片手で手綱を、そして片手で腹を押さえて荒い息を吐いていた。
押さえる手からは大量の血があふれ出している。
「おい!大丈夫か!!」
他の兵士も異変を感じ取って馬で並走してきた。
「槍デ刺サレタノ!助ケテ!!」
その言葉に兵士は思わず舌打ちをした、馬上では治療など出来ない。
(出血量もまずい…こいつこのままじゃ…)
「もう少しで集結地点だ!そこまで走れ!!でなけりゃ医療品も無い!!」
「ああ、分かった…先に行け」
「…幸運を!!」
伏目がちにそう言うと、彼は走り去っていった。
「オジサン!手綱ヲ放シテ!飛ブカラ!!」
「何だって?」
馬の上で器用に立ち上がった彼女。
その背中に翼を生やし、彼を抱え上げる。
「お、おお…」
「私ハテュポーンミタイニ速クナイケド…ソレデモ馬ヨリハ速イ!」
「騎兵の俺からしたら複雑…だな…」
馬を置き去りにして飛び上がり、兵士たちが集まっている場所を目指す。
そこに行けば傷の手当てが出来る、彼を助けることが出来る。
彼女はそう信じて必死に翼を羽ばたかせた。
「見エタ!オジサン!モウ少シダヨ!!」
「…………」
少し離れた場所に騎馬から降りて手当をしている兵士達が見える。
あと少し、あと少しで…
「誰カ!オジサンヲ!!」
「こっちだ!!早く連れてこい!!」
軍医がわりの兵士が傷口を縫っている場所、そこに全速力で飛んで行った彼女は急いで診せた。
「オ願イ!助ケテ!」
「……神よ、どうかこの者に安息を」
「ネェッ!早ク」
「お嬢ちゃん…こいつは死んだ」
彼女に降ろされた兵士を見て、彼は顔を伏せた。
簡易的だが祈りも捧げて。
「エ…?」
「お前の家族に形見を渡すのは御免だって言ったのに…大馬鹿野郎が…」
うなだれる彼らの元にクラウが負傷者を連れてきた。
「亡くなったんですね…どうか安らかに」
「クラウオ姉チャン!オジサンヲ治シテ!」
彼女の姿を見るや否や必死に縋り付くエキドナ。
だが彼女は首を振るだけ、死者は治せないからだ。
「ソンナ…」
死んだ兵士と彼女を置いて、二人は別の負傷者の所に行った。
負傷したのは彼だけではない、クラウ自身も治癒の魔術で救える命は救わなくてはならない。
「…人じゃない奴も、泣けるんだな」
「彼女は元々感情がありませんでした。泣けるようになったのは…恐らく最近」
「そうなのか?」
「製作者はあえて感情を入れていない、そう言ってました。理由は今わかりました」
後ろを振り返ると兵士の側で咽び泣く彼女の姿…
「あんな姿を見るのなら感情なんて要らない、そんな風に思ったんでしょう…」
「……………………」
「キマイラ、大丈夫か!?」
「ああ…」
キマイラ達はトゥールスを抜け、騎兵の待つ場所へと歩いていた。
死人の群れは後を付いてくることはなく、トゥールスにとどまっている。
そのお陰で、その場にいるほとんどの兵士が安堵の息を漏らしていた。
「大砲も弾薬も全部無事だ。皆よくやってくれた」
皇帝も誇らしげにそう言った。
「陛下…」
「…この戦争が終われば、トゥールスの復興に尽力する。そのためにはまず失われた命の対価を、奴らに払わせねば」
何の罪もないドレスリンの民、新兵器であるこの大砲を死守したトゥールスの民…
挙句の果てにはウッディーネにもその手を伸ばそうとしている。
敵と交渉する気も今の皇帝には欠片も無かった。
枯れ木も残らない程完膚なきまでに叩き潰す。
そう思いながら彼は拳を握りしめた。
「…さあ、騎兵部隊の元に向かおう。次はウッディーネだ。スラウニアからは援軍を…」
「陛下!?」
皇帝は強制的に黙らされた。
彼の背後から飛んできた槍によって…
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