第七十一話
「ぎゃあああ!?」
「クソ!離れやがれ!」
キマイラが倒れてから暫く、死人の群れは休むことなく皇帝達に襲いかかった。
帝国が誇る精鋭部隊といえど顔には疲労の色が濃い。
既に何人かの兵士が死人に食らいつかれ死亡している。
「頑張れ!あと少しで出口だ!!」
「技師よ!今度は車輪も改良しろ!瓦礫や死体で動きが鈍る!」
「考えておきます!とびっきりの改良をしてやりますとも!」
味方を叱咤し、出口へあと少しという場所まで辿り着いた彼等。
だがそんな彼等を待ち受けていたのは……
「おい上だ!」
「何ッ!?」
「放てェッ!!」
建物の上から矢を射かけてくる蛮族達だ。
死人になっていない所を見るに置いていかれた者達だろう。
数人が登ってくる死人を叩き落とし、他が矢を射っている。
「馬鹿な!自分たちも死にそうな状況で我々に攻撃するなど」
「それだけ必死ってこった。お互いな!」
皇帝が技師達を大砲の影に隠れさせるとすぐさまかんかんと大砲に矢が当たり火花を散らした。
他の兵士も皆建物の影や落ちた屋根の板などを盾にしながら様子を見る。
「あいつらも襲われるんだな。無差別だ」
「細かい制御は出来ないと見えるな」
暫く周りの死人に警戒しながら蛮族達を観察する。
そうしていると一人、また一人と食われ徐々に彼等は死んでいった。
「…我々が相手する必要はないな。行くぞ!」
「あいよ!!」
「クソ!待て!!」
蛮族の最後の一人にも死人は取りついた。
弓を盾にして顔や首への攻撃を防いでいるが無駄だろう。
既に足から食われている。
「急げ!奴等のようになるぞ!」
「グフッ…ゴフッ……」
「…ッ!?被弾してるぞ!」
普通の咳とは違う音に振り返ると技師のうちの一人が胸に矢を受けてしまっていた。
「死ぬなよ!外に出たら治療してやる!それまで生きろ!!」
この状況では悠長に治療している暇は無い、だが少なくともそれまでは持たない。
それを悟ったのだろう。
脂汗をかきながら技師はある一点に視線を向けていた。兵士の腰に下げてある爆薬に手をかけた。
「おいやめろ!!希望を捨てるな!」
技師は血走った目で兵士の腰に下げてある爆薬に手をかけ、死人の集団目がけて走り抜ける。
今の街はそこかしこで小さな炎が上がっている、そこで導火線に火を付け…
「…武運をッ!!」
誰も引き留めることが出来ず、皇帝たちは彼の特攻を見送った。
爆薬が炸裂、周囲の死人を吹き飛ばし飛び散った血と肉片が彼らに降り注いだ。
「彼が命を懸けて作った道だ!!進め!!何人たりとも無駄にすることは許さん!!」
「走れ走れ!!」
結果として彼の死がその場に居る人間の士気を上げた。
半ば限界に近かった体に鞭を打ち今まで以上の速度で突き進む。
「出口付近に大量に湧いてるぞ!!」
「爆薬を!!」
「必要ない…とっておけ」
「ッ!?」
爆薬に点火しようとした兵士の脇を何かの影が駆け抜けた。
それは死人の群れに一直線に飛び込んで巨大な腕を振るった。
「キマイラ!?動けるのか!?」
苦しそうによろめきながら死人を薙ぎ払うキマイラだ。
「…僅かだが、それでも十分だ」
「…わかった。行くぞ!」
キマイラに場を任せ、次々脱出する兵士と技師。
大砲も弾薬も、血を被っているが無事だ。
「報いはくれてやるぞ…蛮族共ッ…」
眉間に皺を寄せ、近くに転がっている死体をみた。
「エイラ!治癒の魔術をかける!」
「ああ!」
キマイラ達が脱出していく中、トゥールス前では戦闘が始まっていた。
槍や剣で戦う蛮族達も必死である。
ここを持たせることが出来なければウッディーネ方面の本隊と合流されてしまうからだ。
「クソッ…奴等森に隠れて矢を放ってくる!」
エイラの魔術は破壊力はある。
だが森の木々に阻まれ思ったように攻撃が届かない。
「エイラ!右!」
「ッチ」
森に隠れている敵に集中していたせいで近くまで来ていた敵を見逃していた。
エイラは槍を横腹に突き刺され苦悶の表情を浮かべる。
「こうなれば…皆退け!!」
「なっ!?」
怒り狂ったエイラが手を蛮族達の方へかざし…
「焼け死ぬがいい」
手から放射状に炎を放って攻撃。
近くにいた敵は勿論、森の中に隠れている敵までまとめて焼き払った。
「逃げて下さい!炎にまかれる!」
「しかし陛下達が!」
混乱する兵士達。
しかし早く逃げなければ焼け死ぬことになってしまう。
彼女の放っている炎は特殊だ。
石畳に落ちた炎をよく見れば何か粘着性の液体のようなものに火がついているようだった。
これのお陰で一度当たれば消火が困難になっている。
「私は平気だ!置いていけ!」
「エイラ!!」
炎が広がり完全に姿が見えなくなったエイラを置いて、クラウ達はその場を離れた。
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