第六十九話
「ドリュアス、指令が出たぞ。『兵站を破壊せよ』だと」
「ここには僅かな人間しかいないというのに…お主らの皇帝は無茶苦茶じゃな」
トゥールス領の港、そこにドリュアスと兵士はいた。
蛮族達の船を調べながら、弱点を探している。
蛮族達の家族と見られる人間とも接触し情報収集は順調だ。
「それともうひとつ指令だ、『海図』を奪取しろ」
「海図?」
きょとんとしながら聞き返す。
「奴等が俺達の国に来るには海を渡らなきゃならない。だがそれには正確な海図が必要なはずなんだ。それを奪う」
「なるほどな…」
「まずは食料庫だ、火を放つぞ」
「ああ、わかっ…あれは?」
「なんだ?」
不意にドリュアスが空を見上げ、兵士も彼が視線を送るところに視線を向けた。
「…龍か?」
「魔術師か?」
空を飛ぶ巨大な影、龍。
背中に人間を乗せ船の方へと飛んでいく龍、足には何か…肉の塊のようなものを掴んでいるように兵士には見える。
だがドリュアスには何を掴んでいるのかはっきりと見えていた。
「ミリー!?ええい捕まりおったか!!」
「ミリー…お前たちの仲間か?」
「ああそうじゃ…どうするか…」
人質が居て、恐らく敵わないであろう龍が居る。
この状況で作戦を実行するのは気が引ける。
だが…
「ドリュアス。行くぞ」
「正気か?」
「ああ、任務は絶対だ。救出不可能なら見捨てる、いいな?」
全然良くは無いのだが…
彼にとってミリーは仲間ではない上任務にも入っていない。
仕方のないことなのだろう。
「…俺は船から出来る限り離れた場所で火を放つ。あいつがそこに行けばそのすきに助けろ。ああやって連れて行くってことは暫くは生きてるはずだ」
「ああ、分かった」
「海図の奪取も忘れるなよ。救出が終わって可能なら船の舵を壊しておけ」
「行ってくる」
「ああ、幸運を」
ドリュアス達が港で破壊工作や救出やらに尽力している最中、キマイラの方は…
「行くぞ」
「キマイラが周りの敵を蹴散らしたら運び出せ!民間人を護衛しつつ撤退するぞ!!」
トゥールスの地下から大砲と弾薬を運び出そうとしている最中だった。
地下の工房にはこれらの武器を運び出すための巨大な通路が存在する。
今現在は頑丈に煉瓦を積み上げて塞いであり、それを大砲で撃ち、崩して脱出しようとしているのだ。
しかし、ヴィクトリアも皇帝も眉をひそめていた。
「…本当にそれは使えるのか?」
怪訝そうな顔つきでヴィクトリアは運び出そうとしている大砲を見る。
最初に見た時も砲身が違ったり長さが違ったりしていたのだが…
「問題ありませんよ皇后様」
「そうはいってもなあ…本当に火を使わずに大砲が撃てるのか?」
トゥールスの技師が出してきた砲弾を見て唖然とした。
元々使っていた砲弾とあまりに姿かたちが違っていたからだ。
「なんなんだこの砲弾は…三角錐…とは違うな少し丸みがある」
今現在帝国で使われている砲弾は球状で、発射するには砲の発射口から火薬と弾を入れて点火するもの。
だが今使われているのはどれも当てはまらない。
弾は曲線がかった円錐型で、発射するときには後ろから弾を込めて発射するという。
おまけに火薬を手作業で詰める必要もないという。
「で、どうやって撃つのだ?」
皇帝の方はある程度興味はありそうだったが、期待はしていなさそうである。
緊張感の欠片もなく髭をいじっている。
「この砲弾を砲身の後ろにある扉を開いて入れます」
「火薬は?」
「弾の中に入っています。この砲弾は大きく分けて三つの部品から出来ています。砲弾、火薬、真鍮の外皮…ああ忘れていました一番重要なものを」
「ふむ?」
技師はポケットから銅製だろうか?
何かの部品を取り出した。
「何だ?それは?」
「砲弾の火薬に点火するための装置です。これと新型の火薬を発明しなければこの大砲は作れませんでした」
自慢気に話ながら壁に砲口を向ける技師。
「行きますよ…」
「キマイラよ、準備を」
「ああ」
皆が固唾を飲んで見守る中、地下工房に僅かに唸り声のような音が聞こえてきた。
「死人共か…下水道から出てきたかあるいは…」
「考えてる場合か!さっさと壁を破壊しろ!後ろは私達に任せな!」
「はい…耳を塞げ!!発射!!」
皆が一斉に耳を塞いだのを確認し大砲に付いている発射用の取っ手を引き、発射。
地下に凄まじい音が響き渡ると共に、砲口から放たれた砲弾は煉瓦の壁をいともたやすく粉々に粉砕した。
「お、おお…」
「行け!キマイラ!へばったらまた私が担いでやる!暴れてこい!!」
「ああ」
巨大な獅子の姿へと変化した彼。
技師達が大騒ぎする中、瓦礫を踏み砕きながら全力で駆けた。
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