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サイドストーリー 過去の炎 前編

 「……………」


 ある時エイラは夢を見ていた。

 とてもとても昔の、とてもとても忌まわしい過去の夢を……






 蝋燭が灯る部屋の中に私達はいた。


 「正気なのか姉さん!?ベルガー家と組むなんて!」


 夢の中の私は麻の服を千切れんばかりに握りしめている。

 まだベルガー家が大陸の魔術師を纏めあげる前…五百年以上前、戦争直前だろう…

 

 「ええ、私は正気よ」


 目の前では死んだはずの姉がいて車輪の付いた椅子に座り、真剣な表情で喋っている。

 窓から見えるのは雲一つ無い夜空、星を眺めるには良い日だが…


 「このままいけば私達…ハーリン家は滅ぶわ。だから…」


 「だからなんだ!?奴らに私たちの先祖は殺されているんだぞ!今だって邪魔をし続けている!」


 私達は言い争いになっていた。

 当時私の一族はエルフリーナ達ベルガー家と敵対関係だった。

 過去には戦争に発展したこともある。


 「ええそうね。私たちの魔術の研究…実験も規制し始めている」


 「だったら…!」


 「エイラ…私を見なさい」


 「…ッ!」


 私の視線の先には姉の足、生まれつき足が不自由でいつも私が世話をしていた。


 「私は一族の長…けどこの様。まともに動けるのは貴方ぐらい…」


 「…………」


 「他の兄妹達もよ。生まれつき何らかの障害を持った子や、マナが扱えない子だっている。他は自分の名前すら忘れてしまった老人ばかり。こんな状況で戦争して勝ち目があると思う?」


 今思ってみれば、姉さんは私よりもずっと先を見据えて行動していた。

 けど当時の私には姉さんの言葉は理解できなくて…


 「勝ち負けじゃない。私達の一族の悲願を達成するため、誇りのために私は戦う。たとえ敗北しようが奴らに思い知らせてやるんだ!私達の力を!」


 「その結果一族全員殺すことになっても、エイラはそう言えるの?愚かよ…そんなの」


 聞き分けのない子供をあやすように、姉さんはそう言った。

 頭に血がのぼっている私には、どうやっても理解は出来なかったが…

 

 「エイラ、貴女は戦争を知らない。戦うことで失われるものを知らない。だからそう言えるの。分かって」


 「分からんな!臆病者の妄言は!」


 …酷い事を言ってしまった。


 「…ッ」


 ああ、この表情…

 今姉さんが浮かべているこの表情を私は生涯忘れないだろう。

 とても傷ついて、悲しげな表情を…


 「…すまん。少し頭を冷やしてくる」


 自分でも分かる。

 今の私は酷い顔をしているだろう。

 姉さんの顔がまともに見られなくなった私は部屋を飛び出し、自分の村の周囲にある森に入っていった。


 「…ごめん、姉さん」


 村の喧騒が聞こえなくなる所まで進んだ私は、一本の木に背中を預けて座り込んだ。


 「けどどうしても理解できないんだ…」


 両膝を抱きながら、俯く。

 辺りは虫や鳥の鳴き声で溢れ夜ということもあり少しひんやりとしている。

 

 「………」


 私はそのまま瞳を閉じて眠ってしまった。






 「…う…ん」


 煙の臭いがする…

 覚醒し目を開けると妙に周囲が明るい。


 (おかしい、夜明けにはまだまだ早いはず…)


 そして気付いたことがある。

 光源は私の村の方だ。


 「ッ!」


 私の足は自然と村へと向かっていた。


 (火事か!?姉さん達は無事か?)


 心の中で家族の無事を祈っていた。

 炎だけならば一族のほとんどの人間は耐性があるが、焼け落ちた建物の下敷きになれば無事では済まないし煙を吸い込めば関わる。


 




 「な、何だこれは…」


 村にたどり着いた私は言葉を失った。

 村の人間が、姉弟が、家族が殺されていく。


 「皆殺しにしろ!急げ!!」


 見たことも無い鎧姿の兵士達が村の人間を追い回し剣で斬り、槍で突いている。

 私の仲間を、家族を殺している…


 「やめろおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 「ギャアアッ!?何だ!?炎だと!?」


 「あの小娘を殺せ!」 


 向かってきた兵士を炎の弾を投げつけ焼き殺した後、死体が散らばり家に火を放たれ地獄絵図と化した村を走る。

 姉は何処だ?無事なのか?何があったのか?

 頭の中にはそんなことばかりが浮かんでくる。

 そしてやっと見つけた。


 「ね、姉さん…」


 先ほどまで居た自分の家。

 炎に包まれた部屋の中に…


 「…………」


 一言も喋らず椅子に座った状態で、腹を切り広げられて死んでいた…


 「そんな…なんで…」


 突然すぎる死に、私はその場に膝をついて涙を流す。


 「え、エイラ…」


 「姉さん!生きているのか!待ってろ今治癒の魔術を…」


 「ふふ…間に合わないわよ…」


 「うるさい!」


 姉さんの言葉には耳も貸さず、私は治癒の魔術をかけ始める。

 だが傷が癒えるよりも出血して失われていく血のほうが圧倒的に多い。

 本当は助からないなんてわかっていた。


 「ッ!?避けなさい!エイラ!!」


 「なッ!?」


 目を見開いた姉さんが私を突き飛ばす。

 驚愕する私が最後に見たのはもうすでに致命傷を負っている姉さんに剣が振り下ろされる光景だった。

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