第六十三話
「ええい…どこまでも邪魔をしてくれる…」
蛮族達の王は歯噛みしている。
理由は自軍の前方に見える敵のせいだ。
「大砲をどうにかして黙らせろ!三千の部隊を二つ、左右に展開して攻撃に迎え!」
「御意のままに!」
轟音と共に降り注ぐ砲弾を潜り抜けても次は投石器から放たれた岩の雨、さらにそれを潜り抜けても矢が降ってくる。
彼らからしてみれば厄介でしかない。
「ハーレよ。魔術で死体の軍を作れないのか?」
「無理、魔法陣を書かないといけないけど、彼らの陣地まで行かないといけない。使えないわ。私にできることがあるとすれば…」
「なんだ?」
不気味な仮面の魔術師は敵を見据えながら無機質な声でつぶやいた。
「私自身が単身で乗り込む」
「何だと?」
砲弾と岩の雨が降り注ぐ場所、兵士ですら苦戦するそこに彼女は行こうといった。
だがそんなもの、彼はすぐさま否定する。
「駄目だ!行っても死ぬだけだ」
「…分かってないわね」
彼女は仮面を外して素顔を見せる。
彼の反応はまるで怪物を見たようなものであった。
「…ッ!?」
「どう?私の顔」
彼が見たのは顔の左半分が腐りはて頭蓋骨が露出したおぞましい姿…
本来目がある場所には眼孔だけがあり残った右半分の顔も血の気がない死人のような白い肌が見えているだけ。
「顔だけじゃない、体中この様よ。私はもう死んでいるの。これから失うものなんて無いわ」
「あ、ああ…」
「自分の仲間を大事にしなさい。王様」
彼は狼狽しながら合点がいっていることがあった。
彼女の強い芳香…鼻が曲がりそうなそれを使っているのは自身がはなつ腐臭をごまかすための物だったのだろう。
しかしあんな状態で何故生きていられるのか?
そんなことを思っている間に彼女は仮面を付けなおし敵に向かって歩いていく。
彼は止めようとしたが、声が出てこなかった。
「くそったれ!弾が尽きるぞ!」
「弓を取れ!」
弾薬の集積所にはもうすでにほとんど弾も火薬も残されていない。
にもかかわらず蛮族達の数はほとんど減っていないように感じる。
「敵はまだ万単位の軍を残していると思われます」
「だがここから先に行かせたらウッディーネが落ちる。城壁も無ければ駐屯している軍の数も少ないからな」
「くそ…援軍はまだなのか!?」
苛立つ声がそこかしこから聞こえる。
下手をすれば全滅しかねない状態に、彼らは焦りを覚えているのだ。
「私が突撃して…」
「ミリーさん、貴女はここに居てください。動いては駄目だ」
「ですが…」
「…最後の最後まで待ってください。側面の防御は貴方にかかっているのですから」
「……」
立ち上がって戦おうとするミリーをタイラーが腕を掴んで止めた。
彼女自身も半ば焦っている人間の一人であったが彼は冷静だ、それこそ波紋一つない湖の如く。
「私達を信じてください。ここに居るのは国を守らんとする勇士たちだ。今出て行くのは、彼らにとって侮辱でしかない」
「……分りました」
「おい!もうすぐ出番だ!!敵が本体から部隊を二つ作って送り出した!両側面から来るぞ!!」
「どうやら出番のようです。ミリーさん。ご武運を…」
「はい!」
「…酷いものね」
倒れていく兵士達を横目に、ハーレは一人敵陣に向かって歩いていく。
遠目になにやら敵が叫んでいるが彼女には聞こえていない。
「…ごめんなさいね。少し貴方達の身体を借りるわ」
「ハーレ様!危険です!下がって下さい!」
兵士の制止も聞く耳持たず、倒れた兵士に触れる彼女…
異変はすぐに起きた。
「な、なんだッ!?」
「死体が…」
倒れた兵士の死体がひとりでに彼女の元に集まっていく。
「ハーレ様!何を!?」
「時間はさして無い。私が道を開くわ。続きなさい」
集まった死体が彼女を覆い、形を成す。
そして出来たのが…
「なんだ…これは」
家屋程の巨大さを誇るとんでもなく醜悪で不恰好な巨人である。
「さあ、付いてきなさい」
赤ん坊のように四本の死体で出来た足で這いながら突き進む。
すぐさま大砲の弾が飛んでくるが、そんなものは今の彼女に関係ない。
弾が直撃しても辺りの死肉がより集まりすぐに再生してしまうのだ。
「お、お…ハーレ様」
「早く、時間が無いわ」
「承知、貴様等!ハーレ様に続け!我々の勝利の為に!!」
彼女のその威容に士気の上がった兵士が続いていく。
「俺達に流れが来てるぞ!もうすぐ両翼に展開している部隊が到着する!攻め続けろ!」
黒い濁流の如く、彼等はスタトゥニテ帝国軍へと猛進していった。
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