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第六十二話

 「酷い…」


 ミリーがクラウ、そして護衛のタイラーと共にウッディーネ前にたどり着くと、すでに戦闘が始まっていた。

 鳴り響く砲撃の音に叫びながら弓を放つ兵士達。

 辺りは鉄と火薬の臭いに満ちている。


 「指揮官にお目通りできます!こちらに!」


 「はい!ミリーさんも早く!」


 「は、はい…」


 戦場の空気に圧倒されながら、彼女達は指揮官の元に向かう。






 「テメェ等が報告にあった化け物か!?俺はサマラス陸軍の小隊長、ユーリだ!よろしく頼む!」


 砲撃の轟音にかき消されまいと彼は大声でそう言った。

 だが彼の言葉にクラウとタイラーは違和感を覚えていた。

 

 「…どう見ても味方の数は大隊以上。なぜ小隊長が指揮官に?」


 「ウッディーネの将軍は最初の敵の攻勢で死んじまったんだよ!軒並みな!!」


 彼が指さす場所には並べて置かれた将軍とみられる者の遺体が置かれている。

 どの遺体も激しく損傷している…


 「血気盛んな他の上官たちは突撃していきやがった!こっちは何とか押し返せている!あんたは魔術師がでばってくるまで待ってろ!」


 「わ、分かりました!」


 「何だッ!?デカイ声で言え!」


 「分かりましたッ!!」


 「流石は勇猛で謳われるサマラス兵だ」


 砲撃の音にかき消されまいと大声で叫ぶ。

 不安そうに見守るミリーを見て、なにやらユーリは苛ついているようだが…


 「ミリーさん、私は一度館まで戻ってエイラをキマイラさんの元に連れて行きます。タイラーさん!」


 「はい。ミリーさん、私が護衛につきます。…正直貴方に私の守りが必要とは思いませんが」


 「ありがとうございます」


 「今は成り行きを見守りましょう」


 「ええ…」


 彼女が視線を送る先には迫りくる蛮族達とそれを迎え撃つ兵士達。

 彼らの頭上を飛んで、後方の敵を狙う砲弾と矢と岩の雨…

 それらを潜り抜けた蛮族が築いた陣地に飛び込もうと肉薄し槍や剣で鬩ぎ合う。

 倒れた兵士から溢れた血が乾くより早く、他の兵士や蛮族達の血で上書きされる。

 死んでいった仲間を想う間もありはしない…


 (今まで見たどの戦場よりも酷い…)


 「おい誰か!こいつを助けてやってくれ!!」


 そんな風に思っていると負傷兵を担いで兵士が現れた。


 「衛生兵は出払ってるぞ!」


 「どうすりゃいいんだ?」


 腹部を槍で刺され、頭を腕で守ったのだろう、左腕が斬られて三分の一を残しぶら下がっていた。


 「私がやります!医者です!」


 首から下げていた銅板を見せ、共に兵士を担ぐ。

 

 「道具はありますか!?」


 「ああ!後ろに連れて行きな!!物はある!」


 ユーリが指さす場所には木箱がいくつか無造作に置かれている。

 開けてみると大量の医薬品が詰まっている。

 包帯、手足を切断するための鋸、芥子、大麻から作った薬…

 多種多様だ。


 「これなら十分できる」


 「おい!大丈夫なのか!?こんな餓鬼で」


 「餓鬼ですがそれでも医者です。安心してください」

 

 (今は私に出来ることをしないと…)






 「………」


 ウッディーネ前で戦闘が続く中、エイラがいるドレスリンは静かなものであった。

 海岸の敵は一掃しているし、テベレスには既に部隊配備が終わっている。

 あとはテュポーンがメリザンドを討ち取れば終わる。


 「エイラ、迎えに来たよ。回復は?」


 「クラウか…そろそろだ。馬がいるから、私はそろそろ行くぞ」


 「次はキマイラさんの所だから、私といこう?とはいえ私もマナが尽きたから。暫くここに…それでも馬よりは早いはずだから」


 「そうか…」


 現在エイラとクラウがいるのはキマイラの館。

 地脈の上に作られたその館は、魔術師にとっては極上の補給地点になる。


 「暫く見ないうちに、ここも変わった」


 「…うん」


 館のそこかしこには蛮族に襲われた傷跡があり、窓も割られている。

 蛮族の死体が山と積まれていたはずだが…地面が焼け焦げた跡がある、どうやらエイラが焼いたようだ。

 そんな有様ではあるが、変わらず空は青く、のどかに鳥が鳴いている。

 不思議なものだ、まるで戦争などないように感じてしまう。


 「そういえば提案者のお前に聞きたいことがあったんだ。結局、人間と手を組む必要なんてあったのか?人間が仲間だったとしてもテュポーンがいなければ手の打ちようがなかったぞ」


 「…そうだね」


 「クラウ、まさかとは思うがお前、キマイラを人間と仲良しこよしさせるために仕組んだんじゃないだろうな?」


 「……」


 少しだけクラウは悩むように顎に手を当てて、その後胸元からあるものを出した。

 手のひらよりも大きいそれは鉄の筒に木の柄が付いた物、弩のように引き金もある。

 見慣れないものに彼女は頭を悩ませた。


 「これは?武器か?」


 「『銃』というもの。トゥールスで発明されて今改良が加えられてる最中だったの」


 「ふむ」


 「引き金を引けば鉄の弾が飛んで行って敵を殺傷する。弓よりも真っすぐ飛ぶし、力の劣る人でも使える」


 「これがどうした?」


 不思議そうな顔でクラウを見る。

 言ってみれば弓の代わりのようなものだろう。

 別段気にするようなことも無いだろうに…


 「今戦場に配備されてる大砲といい、これといい。昔の戦場では存在しなかった強力な武器が今作られ始めてる」


 「……」


 「エイラの魔術に匹敵するような兵器もいずれ出てくると思う。そうなったら数で劣る私達が人間に勝てる?」


 「……」


 「キマイラさんの居場所、ここもばれてる。敵はいずれギースだけじゃなくなるわ。そうなったらこれまでのようにはいかない」

 

 「だから借りを作って人間の仲間にしよう、か…うまくいくかな」


 「分からない。けど何もしないよりはマシ」


 二人は少し向かい合ったまま、何かを考える。

 

 「私は…もう死んでいく仲間を見たくない。だから打てる手は打っておくよ」


 「…そうか」


 青い空を眺めながら含みのある声でエイラはそう言った。

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