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第六十話

 「……………」


 神妙な面持ちでクラウは黙りこんでいる…


 「どうなんだ…」


 「術が解ければ…元に戻ります」


 「そうか!良かった!」


 「…致命傷を負って、死亡した状態です」


 「……………」


 僅かに喜んだ皇帝だったが、クラウの言葉に大きく肩を落とす。


 「…申し訳ありません」


 「…いや、良いのだ。ともかくトゥールスにはびこるあれを掃討せねば…」


 「彼らはウッディーネに向かったと言っていました。そちらは…」


 「ウッディーネに駐屯している軍、そしてサマラス軍が食い止めるように伝令を出してある」


 「敵の中に魔術師が混ざっているかもしれません。そうなれば…」


 表情を曇らせながらそう呟く。

 困り顔でクラウは周りに目をやる。

 戦力にはなるキマイラ、短時間しか稼働できないミリー、空間を移動できるものの単純な戦闘力で劣るクラウ自身…そして。

 

 「フンフンフーン」


 馬に乗ったまま無邪気に鼻歌を歌っているエキドナ。


 「…誰を行かせるべきなのか」


 「エイラはまだ回復中です。となれば…」


 「俺が行こ『駄目です』」


 キマイラが言い切る前に、クラウが遮った。


 「…何故だ」


 「キマイラさんは限界でしょう。ここまでまともに回復していませんし疲労のせいで先ほども気絶していたじゃないですか」


 「大丈夫だ。行ける」


 「彼は外そう」


 皇帝もうなずいた。

 

 「おい」


 「すまぬが不安要素はなるべく外したい。そなたはここに居てくれ。それと…ミリエラよ」


 「はい」


 「これが命令書だ。これを持ってウッディーネに向かってくれ。クラウ。任せられるか?」


 「はい、必ずや」


 「待て、こいつ『ミリー』…ミリーはわずかな時間しか戦えない。不適切だ」


 言葉を遮られながら、キマイラは半ば怒りながら語りかける。

 

 「だが他に遅れる魔術師がいないだろう?」


 「私ガ行コウカ?」


 会話に割って入ってきたのはエキドナ。

 背中から生やした羽をぴくぴく動かしながら、さも嬉しそうに聞いてきた。


 「そなたは」 


 「絶対に駄目。行かないで」


 皇帝が言い終わるのを待たず、クラウが否定した。

 

 「あった時から思っていたが何が問題なのだ?彼女も仲間なのだろう?力があるのだろう?」


 「…陛下、少しお話を」


 「…?分かった」






 「ここまでくればよかろう。それで何が問題なのだ?」


 兵士達、というよりエキドナに話を聞かれないように距離を取った。


 「彼女は確かに強いです。『最優の兵器』とまで言われていました」


 「最優?」


 「最も優れた兵器…彼女は確かにそう呼ばれていました。ですが彼女単体でははっきり言って弱いです。魔術を使えない普通の人間にも場合によっては負けるでしょう」


 「なら別に優れているわけでも、強いわけでもなかろう」


 「『単体』ならです。彼女の武器は圧倒的な繁殖能力です」


 「繁殖だと?」


 「はい。彼女は卵生、胎生…あらゆる繫殖方法を用いて一晩でおよそ一億程にまで増殖します」


 「なっ!?」


 「その膨大な数でもって死も厭わず敵陣に飛び込み、敵を食らいつくす。それが彼女の戦略」


 「…なんと。だがそれだけ聞くと特に欠点は見当たらないが…」


 「彼女は生存にマナを消費しません、ですが食事をとります。キマイラさんもミリーさんもそうですしドレスリンで会ったテュポーンさんもそうです」


 「ふむ、生物である以上それは避けられないのか」


 「ええ、ですが人間台の大きさの生物が摂る食料…それも一億人分なんて誰が用意できるのです?」


 「……」


 「大昔に起きた戦争ではそれが元で草木や家畜、猫、犬は勿論共食いや死体を食べるなんていう行為が横行。人間もかなり食い殺されています…鎮圧にも多くの犠牲が出る始末です」


 「そなたが止めたのはそういう訳か」


 クラウは黙って頷いた。


 「ふむ…数を縮小して出撃させることはできないのか?」


 「数を繰り出すのが彼女の戦法です。半端な数では戦いになりません」


 「そうか…あい分かった」


 「すいません」


 「そなたが謝ることではない。では、戻るぞ」






 「ミリー、行くな」


 皇帝とクラウが行った後、キマイラは必死な顔でミリーに詰め寄っていた。


 「お前はほとんど戦えない。俺に任せてここに居ろ。少なくともクラウも、エキドナも居る」


 「いえ、行きます。彼らに復讐するため」


 「死ぬぞ。復讐が終わる前に」


 「覚悟のうえです。それに…」


 「それに?」


 「…私のように大事な人を失う人がこれからも出るでしょう。せめて少しでも救ってあげたいんです」


 彼が安心できるよう、ミリーは穏やかな表情でそう言った。

 だが…


 「同じだ…」


 「え?」


 彼の顔は苦虫を嚙み潰したように険しくなった。


 「あいつ…エルも同じようなことを言って館を出た。そしてその後、命を落とした」


 「……」


 「ミリー…俺はお前に死んでほしくない。確かに最初お前を助けたのは仕方なくだった。だがお前はドリュアスを、俺を救ってくれた。生きていてほしいんだ」


 

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