第五十九話
「のう坊ちゃん。尋ねてもよいか?」
「何だ?というか坊ちゃん?」
トゥールス領の港、そこには蛮族達の船団が停泊している。
ドリュアスたちはそこで偵察を行っていた。
「儂らは偵察が役目じゃが…破壊工作はやっても良いのかのう?」
「余計なことはするな。命令が来るまで待て」
「あい分かった」
偵察をしているのはドリュアスと、隣にいる男性兵士のみ。
蛮族の着ていた服を奪い、変装して港を回っている。
「それにしても妙じゃのう」
「何がだ?」
「見てみよ、あれを」
「うん?」
ドリュアスが顎で指す先には子供がいる。
隣には母親らしき人物も。
「普通戦場に女子供を連れてくるかのう?」
「…他にもいるな」
彼女らの他にも周囲には何組も親子のような人間、そのほかにも老人、足が無く他の人間に背負われているような障害者も居た。
「どう見ても戦闘員じゃないぞあ奴ら」
「確かにな…護衛の兵士もいるはずだ。ドリュアス、探すぞ」
「あいよ」
「う…」
うめき声を上げながら体を起こすキマイラ。
場所は皇帝たちのいるトゥールス前。
気絶していたようだ。
「大丈夫ですか?キマイラさん」
「…あいつらは?」
「無事です」
そばにいるミリーが指さした場所。
そこには先ほどキマイラが掴んで連れてきた人間がいる。
「あ!お兄ちゃん!気がついたんだね!」
駆け寄ってくる少女。
「おいやめろ!そいつは化け物だぞ」
「でも、助けてくれたよ?私も、お母さんも」
「……」
「ありがとう」
そう言って手を出してくる少女にキマイラも手を出そうとしたが…
「…俺は化け物だ、仲良くする必要はない」
「え?」
出しかけた手を引っ込め、立ち上がって皇帝のところに速足で行ってしまった。
「お兄ちゃん…」
「ごめんね。悪い人じゃないの。ただ不器用なだけ」
寂しそうな顔をする少女の頭を撫でながら出来る限り優しくそう言うミリー。
「なあ…アンタも化け物なのか?アイツを知っているような口調だが…」
「…はい。私もそうです」
「そうなのか…」
化け物の仲間、そう分かった瞬間、彼の表情が複雑なものになった。
「でもこの力のお陰で、私は復讐をすることができます」
「復讐?」
こくりと頷いたミリー。
遠慮がちに説明し始めた。
「私を育ててくれた人間を、蛮族達が殺したんです…だから…」
「そうか…」
「確かに私たちは人間じゃありませんが…それでも、少なくとも今は仲間でいられるはずです」
「…………」
彼はばつの悪そうに黙り込むと、そのまま去っていった。
「彼らの話と、キマイラの持ってきた情報を合わせてみるとですな…」
皇帝とマーク、そしてキマイラが話し合っている。
先ほど帰ってきたキマイラが報告し、これからどう動くかを決めるのだ。
『トゥールスの人間は一人の人間が殺されたのを皮切りに武器を持ち戦った』
キマイラに救出された彼らはそう言っていた。
「結果的にそれで追い出すのに成功したそうですが…被害は甚大…」
「俺が行った時に見えた生き残りは少なくともあいつ等だけだ。それと問題なのは…」
「死人…だな」
彼がトゥールスを偵察した時に襲ってきた死人の群れ。
彼らが居る限りおちおちここを離れられない。
「放っておいても問題ないものか…」
「生き残りの救出もある…どうしたものか…」
頭を悩ませていると笑顔のエキドナに両脇から抱きかかえられたクラウが来た。
「クラウ…お前…」
「…すいません、彼女、離してくれなくて」
げっそりした顔でそう言った。
恐らくキマイラがいない間に散々おもちゃにされたのだろう。
「クラウオニンギョウミタイデカワイイ」
「…クラウよ。私は魔術というものが分からぬ。何か突破口は無いのか?」
「人間を操る…というなら大きく分けて二つほど手段があります。一つは…」
彼女は何故かキマイラを指さした。
「…?」
「キマイラさんのように魔術をかけて自立稼働させる場合。魔術をかけるときにマナを使いますがそれ以外ではマナを使わないので負担が少ないです。かなり手間ですが」
「ほう…」
「そしてもう一つは…魔法陣などを用いて一定の範囲を操る場合。これは魔法陣などを壊されない限り効果があります。その範囲を出ると操れなくなるという欠点はありますが。恐らくこちらの可能性が高いでしょう」
「それは何故だ?」
「前者はいちいち魔術をかけなければならないので、かなり手間がかかるんです。我々がここに到着するまでの間に都市の人間全員に魔術をかけるには時間が足りません」
「そうか…二つ質問がある。彼らは大丈夫なのか?」
皇帝が指さす先に居るのは助け出された人間がいる。
「何か条件があるんだと思います。例えば死人しか操れない…などです。そうでなければ今頃我々もそうなっているはずですから」
「もう一つ。術を解くことができれば、彼らは…救えるのか?」
皇帝は悲痛にそう言った。
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それでは、次話にて。




