第五十八話
スタトゥニテが誇るものの一つに『皇帝の道』と呼ばれるものがある。
歴代の皇帝が莫大な時間と金額をかけて作られた首都ウッディーネ、都市間をむすぶ国道である。
これにより各都市への行き来が容易となった。
「我々にとってはこれほど便利な道も無いな」
そんな皇帝の道…トゥールスからウッディーネへとつながる道を進む蛮族達が居た。
とはいえ彼らは傷だらけ。
中には片足を吹き飛ばされ槍を杖代わりにして歩いている者もいる。
「王様、トゥールスに敵がきてる。恐らく軍」
先頭を歩く蛮族達の王の元に黒い外套を纏った女性が近づいてきて低く冷淡な声でそう言った。
彼女はとても強い芳香を放っていて近づいてきた瞬間、王は顔をしかめた。
「ハーレか…我らがウッディーネに着くまで持たせられるか?」
「貴方の伏兵と私の死兵がいれば問題ないと思う」
「そうか分かった。下がってよいぞ」
「それよりも言いたいことがある」
彼女の顔は仮面で隠されていて表情は分からない。
だが語調が少し荒くなっている、恐らくは怒っているのであろう。
「貴方は魔術師を信用していないの?」
「何のことだ?」
思い当たる節があるのかはぐらかそうとする王。
「最初の攻勢からおかしい。ドレスリンを攻撃するときあの娘…メリザンドに任せていれば貴方の大事な民が傷つくことも無かった。彼女は元々多対一の戦闘が得意だから」
「………」
王は少し俯きながら黙り込んだ。
「その後のトゥールス戦もよ。私の死兵を使っていれば被害は出なかった。トゥールスの人間に反乱されたとしても死なないんだから」
「……」
「むやみやたらに兵士を突撃させて…死者を増やして…貴方は死んでいった仲間の家族にどう詫びるの?」
「…そなたらは我らの切り札だ」
「質問の答えになってないわ」
「切り札は最後まで取っておく。そなたらを失っては我々に魔術師と戦うだけの戦力は無い。だから…」
「私たちの使う魔術はマナを使う。でもそれは時間経過で回復するわ。それと違って失われた命は戻らない」
「……」
「何故信用してくれないの?私たちが魔術師だから?」
「いや、そうでは…」
彼女の責めるような口調に王は思わずたじろぐ。
「もう少し私達を頼って。私達は仲間なんだから」
「…ああ、分かった」
彼女は最後にそう言うと、その場を立ち去った。
「よろしかったのですか?言いたい放題言わせて」
「事実だからな…」
彼女の代わりに側近が来た。
「ウッディーネまで急ぐぞ」
「はっ!」
「暴れるな」
一方のキマイラ達。
トゥールスの都市から市民を連れて脱出している。
「放せって言ってんだろうが!この化け物!」
咥えられたまま暴れる男に鬱陶しく思いながら、キマイラは前を見る。
ゆらゆらとそこかしこから現れる死人の群れ…
(…どこかに操っている魔術師が居るだろうが、今は探すのは無理だな)
爪で引き裂き、突進しながら押し進み、彼は皇帝たちが居る場所を目指す。
「見て!もう少しでここから抜けられる!」
「喜んでいる場合か!?こいつに殺されるぞ!」
城壁が見え、歓喜している子供。
「ッ!?」
あと少しでこの地獄から抜けられる。
そう思っていた。
だが…
「きゃあああッ!?」
突如キマイラ目掛けて矢が降り注いだ。
彼自身に影響はないが、掴まれている人間にはたまったものではない。
「クソッ…」
よく見れば死人の群れが弓に矢をつがえている。
細かな動作もどうやら出来るようだ。
「おい!大丈夫か!おい!!」
一人が負傷して血を流している。
「突っ切るぞ」
急激に速度を上げ走るキマイラ。
「おい止まれ!傷を…」
「治す暇があると思うか?」
周囲を見れば次々と矢を射かけてくる死人たち。
こんな状態で止まればいい的だ。
「………」
「分かったなら黙っていろ。耳障りだ」
「…帰ってきました!!キマイラさんです!」
皇帝が待つ場所ではミリーをはじめ全員がキマイラの帰りを待っていた。
「帰ったか…」
「誰か乗せています…人間…?」
凄まじい速度で走りくるキマイラ。
ついにミリーの目の前で止まると掴んでいた人間を放し、変化を解いた。
「ハァッ…ハァッ…ハァ」
荒く息を吐きながらその場に膝をつくキマイラ。
「大丈夫ですかキマイラさん!?」
「…俺はいい。ミリー…そいつを治してやってくれ」
「そいつ?」
先ほど放した人間に目をやる…
「おかあさん!」
「大変!」
子供の母親が矢を受けて負傷している。
急いで駆け寄るミリー。
「全く…面倒な…」
彼女が駆け寄るのを見届けるとキマイラはその場に倒れた。




