第五十七話
「…酷いな」
トゥールスにたどり着いたキマイラ達が目にしたのはそこかしこから黒煙を上げ炎上する都市の姿だった。
「遠眼鏡を」
「こちらに」
皇帝はマークから遠眼鏡を受け取り、トゥールスに向ける。
「城壁もぼろぼろだ。砲撃でもされたのか?しかし蛮族は砲の類を持っていなかったはずだが…」
「おおかたトゥールスの物を鹵獲したのでしょう。となるとまずいことになりますな」
「そうだな」
「あの…何が問題なのですか?」
おずおずとミリーが聞いてみる。
「あの都市では兵器の生産が盛んだ。それと同時に新兵器の製造にも力を入れている。そんなものが敵の手に渡れば…後は言わなくても分かるな?」
「…はい」
「キマイラとやら。偵察に行って来てくれ」
マークの命令を聞きいれ、彼は翼を広げた。
「ああ、分かった」
「…生存者は、いるにはいるな」
トゥールス上空を飛ぶキマイラ。
眼下に見えるのは破壊しつくされた都市の姿だ。
動いている人間の姿もいくらか見えてはいるが…
「降りるか」
翼を畳んで急降下、都市内部に着地する。
「おい、大丈夫か?」
近くにいた男性に話しかける。
「………」
振り向いた彼の顔に表情は無く、死人のように顔色が悪い。
ぼろぼろの服は血痕や土埃で汚れている。
「今どうなっている?俺は帝国軍の人間だ。安心…?」
違和感に気付いた。
周りの血の匂いで気が付かなかったが目の前の彼から漂ってくる臭い…
死臭だ。
「お前…」
「ガアアアアアアアアアアッ!!」
いきなり彼は歯をむき出しにして襲い掛かってきた。
「何だこいつ…?」
難なく素手で殴り飛ばし、拳を構えるが…
(ッチ…どこからともなく湧いてくる。まさか都市の人間全員がこれか?)
物陰からゆらゆらと現れる彼ら。
剣や槍で武装しているトゥールスの民に兵士、中には敵である蛮族達すらいた。
「…魔術師の技か?だがこんな術は見たことがないな」
「グゥアアアア」
唸り声を上げながら取り囲む彼ら。
殴り飛ばした彼、その服の下には深々と剣で斬られたような傷が見えている。
普通なら致命傷で間違いないだろうが…
「この程度なら特に問題はないが…数が増えれば厄介だな。ひとまず生き残りを探すか」
群がる死人の群れを振り切って空に舞い上がるキマイラ。
上空から見下ろしてみるが、どこもかしこもゆらゆらと徘徊する死人ばかり。
「…生き残りは、居なさそうだ…ん?」
一点、おかしいところがあった。
一つの家に死人が群がっている。
「あそこに何かいるのか?」
「扉を守れ!!」
「駄目だ!砕けちまう!」
「お母さん…」
キマイラが見下ろしている場所、死人が群がっている場所に、彼らは居た。
トゥールスの市民、その生き残りである。
扉を押さえている男達と、抱き合っている親子の五人だ。
「耐えるんだ!じゃないと外の奴らみたいになるぞ!」
そう男が叫ぶが…
「きゃあああああ!?」
「クソったれ!」
扉が壊され、一斉に雪崩れ込んでくる死人の群れ。
扉を押さえていた男は下敷きになり、踏み潰されて死んだ。
「逃げろ!早く逃げろ!!」
そう叫ぶが逃げ道は一つ、死人が入ってきた場所だけである。
「俺が行く!お前ら逃げろ!」
折れた木材をやみくもに叩きつけようとする彼。
「…退け」
そんな時、その場にそぐわないほど冷静な声が聞こえた。
「なんだ!?」
声の後に続いて、蛸の足のようなものが死人を一斉になぎ倒した。
「…お前たちは話は出来るか?」
死人の次に現れたのは長い白髪に紅い瞳の青年。
キマイラだった。
「なんだ…お前は…」
普通の人間のようにしていれば怖がられることも無かっただろうが、今は腕を蛸の足に変えている。
その場にいる人間全員が怯えた。
「…お前たちはあいつ等とは違うんだな。だったら付いてきてもらう。来い」
「ふ、ふざけんな!お前も蛮族どもの仲間だろう!
「…面倒だ」
キマイラは姿を変化させていく。
巨大な獅子の姿へと。
「あ、ああ…」
「来い…」
獅子と化したキマイラは大きく口を開けると、男の一人を咥え、残りの人間を体から生やした虫の脚で捕まえ凄まじい速さで走った。
「放せ!放しやがれクソッタレ!!」
じたばたと彼らは暴れてみるがびくともしない。
(…しかしこいつらは何なんだ?)
死人を蹴散らしながら、キマイラはミリーたちがいる場所へと帰っていった。
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