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第五十六話

 キマイラ達がトゥールスへと向かう道中、テュポーンはエイラが焼き払って出来た荒野を歩んでいた。


 「エキドナは無事かな」


 彼の後ろには白髪をなびかせながら歩くエキドナ達。

 周囲に視線を向け警戒している。


 「『女王』ハ皇帝ノ所ニハ着イタ。例エココデ皆死ンデモ、私達ノ志ハ継イデクレル」


 「すまない…君達まで巻き込んで」


 彼女の澄み切った声とは裏腹に彼の心中は複雑だった。


 「私達ハ望ンデ貴方ニ付イテキテイル。心配要ラナイ」


 「…ありがとう」


 表情が一切変わらない彼女たちを見て、テュポーンは表情を曇らせた。


 (…もう何十、何百年と色々教えてきたけど、皇帝の元に送ったあの子以外、感情に乏しい…)


 「テュポーン?」


 「ああ、ごめん。…今は彼女に集中しないと」


 彼の悩みの種は他にもある。

 メリザンドの事だ。

 今のところ一番の問題だろう。


 「テュポーン。右前方ニ人ガイル」


 彼女の視線を追っていくと、溶けて冷え固まった岩に身体を預けて座り込んでいる人間がいる。


 「…君達はここにいて。私だけで行ってくる」


 「分カッタ」






 「………………」


 テュポーンがその人間の所に着くと、彼は唖然とした。

 すやすやと寝息をたてながら眠っているのだ。


 「メリザンド…殿…?」


 黒い髪に、中性的な顔立ちの女性…

 間違いなくメリザンドである。


 「……」


 彼女がテュポーンの声に目を開くと…


 「遅かったですね。テュポーン殿」


 「ええ、お待たせしました」


 少しだけ驚いたような表情を見せた後、死を覚悟したであろう彼女は穏やかな笑顔を浮かべてそう言った。


 「僕はもうマナの大半を失っている。殺すなら…今」


 「『次があればきっちり決着をつけよう』貴女はそう言いましたね。それでは…」


 懐から短剣を取り出すと、彼女に手渡した。

 象牙で出来た柄に彫られている彫刻…それはどこか彼女に似ている。


 「…雷を操りマナを蓄える我が一族の秘宝、『召雷の短剣』…持っていてくれたんですね」


 「ええ、再びお会いできることを願って」


 「でも良いのですか?これを返さなければ、貴方は確実に勝てたでしょうに」


 「私は対等な戦いを望んでいます。ですから…これをお返しします」


 「そうですか…」


 彼女は試しとばかりに少し離れた地面に小さな雷を落とす。

 力を使った瞬間、短剣は雷光を帯び始めた。


 「上々…では早速」


 「「殺し合いましょう」」


 お互いに距離をとり、そうつぶやいた二人。

 雨あられと降り注ぐ雷をものともせず、テュポーンは彼女目掛けて猛進した。






 「始まったか。おー痛い痛い」


 かなり離れた場所で雷鳴を聞きながら、地面にそのまま座り込む人間が二人。

 癖のある明るい茶髪の男性、エイルバーと…


 「だから関わるべきじゃないと言ったんです。我々には損しかない」


 じとっとした目で彼を見るベッファだ。

 メリザンドの雷で撃たれたエイルバーの手当をしている。


 「共闘は断られたが…せめてキマイラだけは助けたい」


 「キマイラだけ、と言いつつ。これはなんです?」


 ベッファが取り出したのは一枚の羊皮紙。

 

 「油漬け、塩漬けの肉二百樽。葡萄酒、水をそれぞれ二百樽。槍、剣、挙句馬の飼料に至るまで二束三文で帝国軍にたたき売りしろという命令書。それも我々の組織から…これじゃ大赤字です」


 「……」


 「我々にとってしてみれば人間がいくら死のうが関係ない。どっちが勝とうが負けようがです。損をしない道を選ぶべきだ」


 「…俺はこの戦争が終わった後の事を考えているのさ」


 「終わった後?」


 「テュポーンがあの通り戦っている。そばにはエキドナまで居る。そのほかにもキマイラ、エイラも居る。メリザンドがいくら強くても十分勝機はあるさ。帝国を勝たせて、その後俺たちの下部組織が軍需物資の仕入れを牛耳れば利益になる」


 「…そう上手くいくのですか?」


 「うるさい。黙って俺についてこい」


 不服そうな彼を半ば強制的に黙らせ、エイルバーは立ち上がる。


 「ともかくその命令は必ず実行する。従わない奴は俺の前に連れてこい。それと偵察だ。ひょっとしたらギースの奴があぶりだされてくるかもしれんからな」


 「…分りました」


 今の今まで、ギースが出てくることは無かったのに何を言っているのかとベッファは内心そう思っていた。

 だったら違うことに金と手間をかけた方がいくらか良い。


 (…こいつをとっとと見限ってやりたいが。強いうえに発言力があるからな)


 「どうした?行くぞ」


 「はい」


 いつの間にか空間を歪めこちらを手招きしているエイルバー。

 不服だったが、彼はエイルバーと共にその場を後にした。

 

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