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第五十五話

 「………」


 キマイラと共に帰ってきた皇帝が頭を抱えている。

 

 「オジサン…大丈夫?」


 不思議そうに首をかしげているのはエキドナ。

 恐らく初めて見るであろうキマイラは警戒している。


 「…キマイラよ。この子は連れて行っても大丈夫なのか?」


 「分からん。俺もこいつとは初めて会う」


 髪の色と瞳の色は完全に一致していて、なおかつ同じ化け物ではあるのだが、片言でしか喋れないエキドナの方が喋りやすく感じる。


 「そなたを信用しても良いのか?」


 「付イテイケッテテュポーンガ言ッテタ。私ハソレ以外何モシナイ。約束」


 そう言って小指を出してくるエキドナ。


 「…う、うーむ」


 「…?」


 目の前にいる少女の表情は純粋そのもので、人を騙そうという意志は微塵も感じられない。

 だが…


 (…これ以上化け物を懐に入れて良いものなのか?)


 「エキドナ、と言ったかな?」


 「ウン、ソウダヨ」


 全く恐れ入る様子もないのにはキマイラや他の魔術師でもう慣れた。

 だが彼女のこれは子供の無邪気さ故…なのだろうか?


 「ひとまずそなたは連れて行くが…我らに危害を加えないと約束してくれ。でなければ我が軍が総力を挙げてそなたを討つことになろう」


 「分カッタ。約束」


 再び出された小指に皇帝は応じた。


 「約束だ…」


 「おい、あれはお前の部隊か?」


 少しの間エキドナを見つめていた皇帝は、キマイラの言葉で顔を上げ、彼が向いている方を見る。


 「ああ、あれだ!間違いない!」


 先頭で馬に乗り走ってくるのは革鎧に身を包んだ兵士。

 隣にはクラウも馬に乗ってこちらに来ている。


 




 「よく来てくれた」


 「陛下。ご無沙汰しております。特殊攻撃部隊一千。ただいま参上」


 馬から降り、跪く隊長。

 キマイラから見た彼らは、目つきからして他の兵士達とは違うような気迫に満ちている。

 

 「キマイラさん。ただいま戻りまし…え?」


 「クラウオ姉チャン久シブリ!」


 馬から降りたクラウに勢いよくエキドナが飛びついた。

 先程とはうってかわって無表情だった彼女の顔は笑顔になっている。


 「え、エキドナ…ちゃん?」


 「ウン!久シブリ!」


 クラウの方はと言うと、久しぶりの再会を喜ぶでも突然現れた彼女に驚くでもなく…

 ただただ怯え、震えていた。


 「なんで貴女が…」


 「テュポーンガココニ行ケッテ」


 クラウは抱きつかれたまま、視線をミリーに向けてくる。


 「ええと…」


 「クラウ、この子は戦力になるのか?」


 彼女の事を知っているであろうクラウに皇帝は話しかける。

 だがそれを聞いた瞬間、クラウの表情は一変した。


 「絶対に駄目です!!エキドナを戦わせないでくださいッ!!」


 とんでもない形相でクラウはその場にいる全員に聞こえる程の声量で叫んだ。


 「…ッ」


 「…申し訳ありません陛下。しかしこの子を使うことがあれば国が滅びます。どうか…」


 周囲の視線に気付いた彼女は語気を戻した。


 「…彼女の扱いはどうする?」


 「テュポーンさんが管理していたのであればまだ安全ですが…今この子の手綱を握れるのは一人も居ません。…正直連れていくのも気が引けますが…」


 「置いておけば尚危険か。変わりなく連れていくことになるな」


 「エキドナ…大人しくできる?」


 「ウン。大丈夫ダヨ」


 子供のように無邪気に笑いかけるエキドナ。

 

 「…トコロデオ兄チャンハ誰?」


 キマイラの方を見ながら指差す彼女。

 

 「…俺はキマイラ。…エルに、作られた」


 エル、その名を出すのを少し躊躇いながら彼は答える。


 「エル…エルオ姉チャンノ事?」


 「ああ…」


 「ソッカ!ナラ私ノ弟ダネ!」


 「弟?」


 「ウン!ダッテ私ノ方ガ先ニ産マレタモン!」


 「…そうだな」


 「ネェッ!オ姉チャンッテ呼ンデ!」


 クラウから離れた彼女は今度はキマイラに抱きついた。

 意外にも彼は振り払ったりせず、彼女にされるがままになっている。

 彼と同じ紅い瞳で見上げながらじゃれつく姿は普通の人間の兄弟のようだ。


 「…見た目も中身も幼い。良くて妹じゃないのか?」


 彼の言葉にあからさまに頬を膨らませる。


 「私ハオ姉チャンダヨ!弟ノ癖ニ生意気!」


 「…分かった。……………………………………………………………お姉ちゃん」


 とんでもなく長い間を開けて、キマイラはそう言った。

 彼女もそれに満足したのか無邪気そうに笑っている。


 (猛獣使いだなぁ。エキドナちゃん)


 「とりあえず夜明けには出発する。それまで休息をとれ」


 「承知いたしました。陛下」


 トゥールスに向かう道中での束の間の休息だった。

 

  

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