第五十四話
キマイラと皇帝が二人で話をしている最中、ミリーはヴィクトリアとその他の兵士達に自分が化け物になった経緯をしていた。
「…それで私は化け物になりました」
ミリーが話終わり視線を兵士達に向けてみる。
先程まで敵意を向けてきていた兵士達は俯いて複雑な顔をしていた。
「…まあ、村の人間の事も分からなくはねぇがな。分からない事ってのは怖いもんだ。お前は許せんだろうがな」
「………」
「…アンタにとっては命の恩人なんだな」
「はい。あの人は私を助けてくれました。ぶっきらぼうで愛想のない人ですけど、ね…化け物になった後も彼の館に住ませてもらってますし」
(館はぼろぼろでしたけど…)
「…だが俺達からしてみればアイツは敵だ」
兵士の一人がミリーを睨み付ける。
「それは…」
「だから俺はこの先のアイツを見て決める。アイツがなんの罪も無い人間を無差別に食うようなら…俺は命懸けでアイツに向かっていく。皇帝陛下の意志に背くことになるが…」
「皇族の人間がいる所で反逆宣言か!!面白れぇなおい」
呵々大笑する彼女を見てばつが悪そうに眼を逸らす兵士。
「まあなんだ。ミリー、お前、軍に入る気はないか?」
「軍?」
意外な提案が彼女から飛んできた。
「化け物を放っておくのが不安、私の旦那はそう言っていたが私は少し違ってな。単純にお前が欲しい」
「わ、私がですか?」
「一時とはいえその圧倒的な力は間違いなく役に立つ。キマイラを誘おうと思ったがこっちに来る気はさらさらないようだし。魔術師も私たちに恨みがあるって聞いてる。だがお前はそうじゃないだろう?」
「私は…」
正直に言うと、怖いのだ。
信じていた人々にあっさり裏切られ挙句殺されかけた。
おまけにもう自分は人間じゃない。
「お断りします…私はもう人間ではないですし。それに…私は怖いのです。もう裏切られたくない」
「だったらお前達の事を公表してやる。素性が分かれば多少は国民の恐怖心も消えんだろ」
「それはいささか浅はかですな。御妃様。それと口調が乱れておりますぞ」
食事を持ったマークが現れた。
彼はムッとしているヴィクトリアの隣に座り、続ける。
「自分と異なる特徴があればそれだけで迫害の対象になる。ましてや彼らは化け物で人間とは全く違う」
「そういうもんか?」
「猛獣が隣の家にいて落ち着きますか?」
「…なるほどな」
合点がいったようだ。
「まあなんにせよ。言葉が通じて力があるなら私としては欲しいのに変わりはねぇ。いざとなれば匿って秘密兵器として使ってやる」
「怖くないんですか?私が」
「怖いぞ、見た目には見えないようにしているがな。先陣きって突っ込んでいくような人間が怯えていちゃ話にならん」
真っすぐミリーを見据えながらそう言う彼女に、なにか少し救われたような気がした。
「さて、楽しいおしゃべりは少しお預けだ。マーク、気付いてるか?」
彼女は急に眉をひそめながら道のそばにある茂みに目を向ける。
ミリーも見てみるが誰も居ないように感じられる。
「一人ですな…今気付きました。お妃様の勘の鋭さは大陸一でしょうな。抜剣!」
マークの声で周りにいた兵士たちは腰の長剣を抜き放ち、茂みを警戒する。
「出てこい!それとも槍を投げ込んでやろうか!?」
そう叫ぶと…
「私ハ敵ジャナイヨ」
片言な言葉遣いでひょっこりと顔だけ出してこちらを見る少女の姿。
白髪と紅い瞳…ミリーには見覚えがある。
「…確か、エキドナ?」
「ミリー、お前の仲間か?」
「キマイラさんやドリュアスの兄弟って…確か言っていたはずです」
「ソウダヨ。ケドオ姉チャンハ誰?」
他の兵士たちが警戒する中、構わず歩いてくるエキドナ。
「私は…」
「ウーン…少シダケ私タチト同ジ匂イガスルケド…」
ミリーの返事も待たず、彼女の前に立ったエキドナはふんふんと鼻を近づけて匂いを嗅ぎだした。
「…大丈夫なのか?」
「…みたいです」
「剣を仕舞え」
マークの指示で剣を収める兵士。
「…『種』ッテ表現ガ正シイカナ。オ姉チャン」
「貴女はなんでここに?」
「テュポーンガココニ行ッテッテ言ッタカラ」
「そ、そう…」
恐らく監視役だろう。
同じことを考えているのだろう目の前にいる不思議な少女を兵士達は疑いと戸惑いの混じった目で見つめている。
「陛下と相談ですな。この娘はどうするか。それまで誰か面倒を見てやってくれ」
兵士たちを一瞥するマーク。
誰も面倒を見そうにないが…
「俺がやりますよ。その子の世話」
一人の痩せぎすの兵士が手を上げた。
「良いのか?」
「ええ、大丈夫です」
「なら任せるぞ」
この後皇帝に報告を入れて、また頭を抱えることになった。




