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第五十三話

 「ここなら誰にも聞かれなくて済む」


 そう言った皇帝はキマイラに座るように促した後、道端からいくつか小さな枝を持ってきた。


 「ところでそなた、火は使えないのか?」


 「俺が使えるのは毒だけだ」


 意外と不便だな、皇帝はそう言いながら枝を短剣で削って細かい糸くずのようなものを作っていく。


 「…そなたはこの戦争が終わった後、どうする?」


 削りながら、キマイラに問う。


 「どうする?というのは?」


 「また我々人間と争うか?」


 「俺自ら争うことはしない。お前達人間が俺を殺しに来ない限りな。それは後も先も変わらん」


 「そうか…」


 火打石に火打ち金をこすりつけ、火花を出して火種を作る。


 「こちらからも質問だ。皇帝」


 「なんだ?」


 「ギース・ヴォルフという男を知っているか?」


 「いや、知らぬ」


 「俺は…いやこの大陸にいるほとんどの魔術師はそいつを目の敵にして追っている」


 「恨みか?」


 「ああそうだ。俺の大事な、母親ともいうべき人間を殺すように兵士を差し向けた」


 いつのまにやら付いていた火を見ながらしばらく思案するが、皇帝にその人間の名に覚えはない。

 

 「覚えがない」


 「ならエルフリーナ・ベルガーという名には?」


 「無い」


 「橋にいた魔術師は?エイラにクラウは?誰も知らないのか?」


 「あ、ああ…」


 語気が荒くなるキマイラに押されていく。

 心なしか彼自身の紅い瞳の輝きも増しているような…


 「あいつらは全員、大陸での戦争…お前たちが言うところの統一戦争にも参加している。軍事力で他に劣るウッディーネを勝利に導いたのもあいつ等のお陰だ。それなのにお前は知らんというのか」


 「魔術師の存在すら私は知らなかった」


 薪をくべながら話を続ける。


 「…そのギースという男が、そなたが人間を嫌う原因か」


 「奴だけじゃない」


 「ん?」


 「お前の祖先も原因の一つだ」


 「なんだと?」


 その言葉に僅かに眉をひそめる。


 「魔術師達は当初、戦争に参加する意思はなかった。だが仲間の一人が保護の名目で幽閉され、挙げ句戦争参加の交渉材料に使いやがった」


 「…………」


 「お前達の都合でエルや他の魔術師を使い潰し、戦争が終わった途端に手のひら返して魔術師達を狩った。散々助けてもらったにも関わらず疑うことなくギースの口車に乗ってな」


 「………」


 「最終的には情報抹消か…命も存在も功績も住む所も何もかも奪っておいて貴様等人間はのうのうと生きている。俺はそれが許せない」


 「なら、なぜあの娘を助けたのだ?」


 娘…ミリーの事だろう。


 「俺の意志じゃない。あくまでドリュアスに言われたからだ。それに…」


 「それに?」


 「今を生きる人間に罪は無い。復讐すべき人間は選ぶ」


 「そうか…」


 以外だった。

 人間なら見境なく見殺しにしそうなものだが…


 「そなた、何か望みはあるか?」


 「二つある。一つはあいつ等、魔術師への迫害の禁止。もう一つはギースに関する情報がある、または今後得られた場合俺に渡すこと」


 「それでよいのか?金銭の類は?」


 「いらん」


 「いいだろう。この戦争が終われば必ず」


 「頼む」


 キマイラはそう言うが、内心信用などしていない。

 初代皇帝は昔エルフリーナを戦争に駆り出した男で、彼はその子孫だからだ。

 

 「そうだ!忘れるところであった。これを…」


 「何だ?」


 皇帝は細筆とインクを入れた小瓶、それと一枚の羊皮紙を出した。


 「契約書だ。署名をしてくれ」


 「…署名」


 羊皮紙を受け取り、目を細めながら書かれている文字を見るが…


 「どうしたのだ?」


 「読めん」


 「ああ、そうか。火があるとはいえ少し暗いからな。向こうなら松明も多い、行って内容を見てくるといい」


 「いや、そうじゃない」


 「?」


 頭に疑問符を浮べる皇帝。


 「俺は文字が読めんのだ」


 「…ミリーに読み上げてもらうとしよう」


 何故か堂々としているキマイラに彼は呆れていた。


 



 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それでは皆様、また次話にて。

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