第五十一話
テベレスの石橋、西に向かうため準備を整え兵士達が出発していた。
「ヴィクトリア、爺。行くぞ」
「はい」
「御意のままに」
先頭を行くのは皇帝、ヴィクトリア、マーク…
「将軍、ここは任せるぞ」
皇帝はここにほとんどの戦力を残し、騎兵を百機ほど連れて行く。
道中で特殊攻撃部隊と合流してトゥールスに向かうのだ。
「陛下の御名にかけ、ここは守り抜きます」
笑顔で頷くと、皇帝は兵士を率いて出た。
「ヴィクトリア、本当に大丈夫なのだな?」
「陛下もしつこいですね。私はこの通り大丈夫です」
馬を駆りながら皇帝は彼女の身をあんじていた。
矢を射られたと聞いたからだ。
それも本人からではなく、彼女と共に突撃した兵士から。
「心配なのだ。そなたが死んでしまわないかとな」
「私の力が信用ならないのですか?」
「そんなことはない。そなたの実力は知っている。だが傷ついているのならなぜ言わないのだ?後から大事になったら…」
消極的な彼に半ばいらつきながら、彼女は馬をぴったりと横に並走させる。
そして…
「…っ!?」
「……」
彼の頭を無理やり引き寄せ、キスをした。
「…こ、公衆の面前で一体何をッ!?」
顔を真っ赤にして彼女に怒った顔を向ける皇帝。
「相っ変わらず初心だなあ。でもまあ黙らせるには一番手っ取り早いやり方だろ?あと髭剃れ」
「兵士達もいるんだ。風紀が…」
後ろを振り返った皇帝が見たのはにやにや意地悪そうに笑う兵士達と…
顔の右半分で怒りながら左半分でにやけている器用なマークの姿だった。
「……ヴィクトリア」
「あ?なんだ?」
「口調にはもはや何も言わんが…今晩の食事と薪の量を減らす」
風紀を乱した罰、とはいえ軽い罰だ。
「んなッ!?」
「安心しろ。私も同じだ」
強制的とはいえ自分も同じだろう。
そう思っての彼の判断だった。
「…やるんじゃなかった」
頭を掻きながらぼそりと呟く彼女。
「…続きは戦争から帰ってからだ」
「ん?今なんて?」
「ええい!なんでもないわ!兎に角私は死なん、なんとしてでもウッディーネに戻るのだ。そなたも死ぬのは許さん!私と共に最後の時まで共にあれ!良いか!?」
やけくそ気味にそう叫ぶと、ヴィクトリアは微笑しながら頷いた。
「ん?おい空を見てみろ」
「何だ?」
何かに気付いた様子のヴィクトリア。
巨大な鳥のような影が地面に映し出されている。
「キマイラとミリー!?何でここに?」
「すまん」
翼を畳んで降りてくる二人。
「なんで戻ってきたのだ?三人でメリザンドを倒す算段だっただろう」
「…一人で戦いたいと言われてな。この様だ」
「勝てるのか?」
「これは俺の我儘だ、任せてやりたい」
「我儘…」
皇帝は頭を抱えた。
まさかたかだか数人にこれだけ振り回されるとは…
「もうよい。我らと一緒に来てくれ。ただし今度から『我儘』は無しだ」
「ああ」
彼らが暴れれば手を付けられない、仮にこんな気まぐれが起きたとしても止めることすらかなわないのである。
皇帝は今更それを自覚した。
「全速力で走るぞ!まずは特殊攻撃部隊と合流。その後西の都、トゥールスまで急げ!!」
彼の指示で一気に馬を走らせる兵士達。
「そなた等も行くぞ。替え馬を使ってくれ」
「分りました」
「…屈辱だ」
「キマイラさん…」
馬の手綱を引いているのはミリー。
現在二人は一緒の馬に乗っている。
最初は一機づつで行こうと考えていたのだが…
『うおッ!?』
『ぐふっ』
キマイラが乗ろうとすると必ず馬が暴れ、落馬を繰り返し乗れなかったのだ。
見かねたミリーが自分の前にキマイラを乗せ一緒に走っているのだが…
(全然安定しない…気を抜いたら振り落とされそう)
やはりこの馬も暴れだそうとしている。
彼女が見るに、怯えているようだが…
「ミリー、お前はなんで馬を扱えるんだ?」
「ウッディーネに薬の買い付けに行ったりしていましたから。それに学校でも馬の乗馬訓練なんかもありますから。大抵の子は馬に乗れますよ」
「そうなのか」
「…ちなみにキマイラさん、学校には?」
「行っていると思うか?ちなみに読み書きも出来ん」
「威張られても…」
会話が段々増えてきたはいいが、どことなく子供っぽい。
まあそんなことはどうでも良いのだが…
問題は…
「……」
「…ッチ」
あからさまに嫌そうな顔をした兵士が並走している。
恐らくはキマイラさんに返り討ちにあった兵士であろう。
彼らとの関係も今後どうなっていくのか不安である。
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