第四十九話
「えーというわけで。連れてきました」
キマイラ達のいる幕舎にミリーが戻ると、ドリュアスが口を開いて目を見開いて驚いていた。
クラウも同じである。
「………」
「テュポーンさんです」
「お前…」
「…ただいまもどりました。兄様」
苦笑しながらドリュアスに近づく彼…
そんな彼の顎目掛け、ドリュアスは下から拳を振りぬいた。
「がはっ…」
「ドリュアス、いくら何でもやりすぎじゃないのか?」
キマイラも少し引いている。
「兄様…」
「心配ばかりかけおって…」
大粒の涙を流しながら、ドリュアスは彼に抱き着いた。
「どこをほっつき歩いとったんじゃ…この馬鹿弟が」
「すみません。兄様」
少しだけ微笑みながら、テュポーンは彼の頭を撫でた。
「それと…貴方がキマイラ君だね」
「俺はあんたの事は何も知らないが…」
その黒い瞳がキマイラに向けられるが、彼はキョトンとしている。
正直なところ、彼は面識すらないので感動しているドリュアスの心境が理解できていないのだ。
「私は君が設計されるところまでは知っています。とはいえお互いに会うのは初めてですね。テュポーンです。どうぞよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「感動の再会もいいんだが…私も会話に混ざっても良いか?」
そんな彼らの間に入ってくる皇帝。
ドリュアスは少しむっとしていたが、構わず話を続ける。
「そなたがテュポーンとやらか?エキドナという名の者も居ると聞いているが…」
「…エキドナは確かに居ます。しかし居場所はお教えすることは出来ません。ご容赦を」
「そうか。一つ聞くがそなたは魔術師が相手に戦えるか?」
「可能です」
はっきりと、彼はそう答えた。
「しかし、一体相手は誰なのですか?」
「メリザンドとかいう魔術師だ」
「………………」
「知ってますよね。テュポーンさん?」
クラウは咎めるような口調で尋ねた。
「魔術師同士の戦争が終わった後、貴方は彼女を処刑したはずです。なのになぜ、彼女は生きてるんですか?」
「………」
「テュポーン…」
「私が逃がしました。旧大陸へと」
その言葉に彼女以外のその場にいた全員が唖然とした。
「逃がした理由は私の個人的な感情によるものです。本当に申し訳ない…」
皇帝は頭に手を当てた。
次の質問をしようとしていたが頭の中から内容が抜け落ちてしまっている。
「…そなたに頼みがある。メリザンドを撃破するのだ。あれを残してはならん」
「…御意のままに」
来るのには少し渋っていた彼だが、メリザンドの件に関してはすんなり受け入れた。
負い目があるのだろう。
「宜しく頼む」
テュポーンはキマイラ、ミリーと共に雷鳴が鳴り響く方角に飛んでいった。
「無様だな。お前」
表面が溶けて固まった岩にメリザンドは背中を預けて座っていた。
ここはほんの半刻まで村があった場所だが、今は跡形もない。
居るのはメリザンドと龍に乗ったロイスだけだ。
「ロイス、君は敵の場所を上から偵察していたはずだ。これだけの規模の魔術、撃つ前に気付いてただろう?」
嘲笑するロイスを眉を吊り上げて睨み付ける。
「なぜ僕を戦場から遠ざけた!あのまま居れば戦況は」
「変わらんだろう。魔術を使ってあの化け物もろとも消し炭だ。それよりもっと喜べよ。助かったんだぞ」
憤慨する彼女に対して冷静なロイス。
メリザンドが船から出撃する時と逆の構図。
「喜べだと?ふざけるな!味方が大勢死んだんだぞ!あれだけ居た人間が一人も生き残れなかったんだ!僕達を信じて付いてきたのに!君は何も思わないのか!?」
「思わんな、所詮は人間だ。俺は西に行く。こっちのいけすかない王は死んだからな」
吐き捨てるように言うと、彼は龍と共に西に向かって飛び去った。
後に残された彼女は周りを見渡し、肩を落とした。
「彼等は…死んでいった人間のほとんどは兵士でも何でもないただの一般人なんだぞ…西で戦っている兵士の家族だっている。僕はその人達にどうやって侘びればいいんだ」
血が滲むほど拳を握り、下唇を噛む。
そんなことをした所で意味は無い。
理解はしているが、悔しさをぶつけるには丁度いい。
「傑作だったな。あいつのあの顔」
空を飛ぶ龍の背、そこでロイスは一人笑っていた。
「煩わしい人間共も消えて、あいつを精神的に追い詰めることもできた。後は向こうでメリザンドは敵前逃亡して味方を見捨てた。とでも言えば完璧だ」
下品ににやけた顔をなんとか戻そうとするがほとんど出来ていない。
彼にとってメリザンドを貶めるのが今何よりも楽しみなのである。
「西に行くのが楽しみだ」




