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第四話 

 「これより裁判を始める。被告人ミリエラ、前へ」


 「は、はい」


 両手を後ろ手に縛りあげられ、右足には足かせをはめられたミリーが裁判官の前に出る。

 キマイラに村へと戻された翌日の正午、ミリーは村の広場に無理やり連れていかれていた。

 そこにいるのは村人たちと裁判官。


 (どうしてこうなったの…)


 「被告人には化け物の仲間である疑いがかかっている。クルト、証言を」


 「はい、数日この女はどこかに消えていました。そして昨日、例の化け物に連れられて帰ってきたのです。数日前に兵士たちが山に登り、俺と数名の重傷者以外帰ってこなかった。そんな化け物が人間を無傷で返すとは思えない。間違いなくこいつは化け物の仲間です」


 (そんなわけないじゃない)


 ミリーはキマイラの館でどんな状態だったか思い出す。

 首は締められるわ脅されるわ置き去りにされて狼の餌にされかけるわ散々だった。

 うち一つは助けてくれたが…


 「クルトよ、その化け物は確実にミリエラを助けていたのだな」


 「そうです」


 「ミリエラ、これに相違ないか?」


 「違います。私は山で迷っていてそのあとあの化け物に村まで戻されただけです」


 とにかく自分の身の潔白を証明しなければ、何をされるか分からない。

 そして今気付いた。

 弁護人が居ない。


 「ふざけるな!!軍の兵士や村の人間を殺しまくったあの化け物が人間を見て生かして返すだと!?ありえない!!」

  

 ミリーの証言に激高するクルト、それにつられるように集まった村の住人がやじをとばす。

 

 「静粛に!」


 (みんな…何で)


 周囲に目をやる、おびえた表情の女性、怒りに燃える男たち、ミリーが村を離れる前はこんなことはなかったのに…

 裁判官ですら彼女を汚らわしい物を見る目で睨んでいた。


 「クルト、最後に確認する。この女が化け物に運ばれているのを見たのだな?その目で」


 「はい、神に誓って」


 「判決を下す。ミリエラ、お前は化け物の仲間である。それを考慮し火刑に処す」


 「そんな!私は違います化け物の仲間なんかじゃありません」


 「黙れ!!死体は骨も残さず焼却しろ。化け物をこれ以上のさばらせておくわけにはいかん」


 あまりにも短く、そして酷い裁判の後、抵抗するミリーを村人達が力づくで木でできた檻に放り込んだ。






 「あらら、あの娘…ひどいことするもんじゃ」


 中央の広場で裁判が行われているのを少し離れた林から観察している者がいた。

 木の幹から顔だけ出したドリュアスである。


 「…こんなところにいたのかドリュアス、何してる。人間の村なんぞに降りてきて」


 そこに羽を生やしたキマイラが空から現れた。


 「わざわざ探しに来てくれたのか、ありがとう。っとそれはいいから見てみよ。お前さんが送り届けたあの女、焼かれるみたいじゃぞ」


 「何?」


 赤い瞳を細めながら広場に視線を向ける。

 手首と足首を縛り十字架を模した木に磔にされたミリーが今まさに火刑に処されようとしていた。


 「…何故だ?あれはあいつの村であそこにいるのはあいつの仲間なんだろう?」


 「盗み聞きした内容によると、お前さんがミリーを連れて帰ってくるのを見た。きっとミリーはお前さんの仲間に違いない、化け物の仲間だ殺してしまえ。というものじゃよ」


 「馬鹿げている。俺に人間の仲間などいない」

 

 「じゃろうな。だがあ奴らはそう決めつけて彼女を焼く気じゃぞ」

 

 「………」


 




 「止めてェッ!助けてよ!!」


 磔にされたミリーの足元には大量の薪と藁が積まれ、火がつけられるのを待っていた。


 「黙れ!!化け物の仲間のくせに!!」


 「火を放て」


 裁判官が無慈悲に言い放ち、村人が火を放つ。

 

 「イヤァァァァァァぁぁぁぁぁっ!!」


 徐々に大きくなっていく炎に足元からあぶられながらミリーは絶叫した。

 

 「熱い熱い熱い熱い熱い熱ッ!ゴホっゴホッ!!」




 


 「のうキマイラ、あの娘、助けてくれんか?」


 「何故だ?それにもう行ったところで手遅れだろう」


 林からミリーの姿を見続けていたドリュアスがキマイラに向けてそういった。


 「儂の気まぐれじゃよ。それに…」


 「それに?」


 「ミリーの今の状況、お前さんが関わったから起きたことじゃぞ?」


 「…………」


 「行ってくれるか?」


 「…助かるかどうかは分らんぞ」


 「それでもいいさ、行ってくれ」


 「ああ」






 「あ………ああ」


 のどが焼かれ声が出せず、痛みで気絶することもできないミリー、彼女の命は風前の灯であった。

 

 「へっ、ざまあ見やがれ。化け物の味方なんかするからこうなるんだ」


 「そんな人間は俺の仲間ではない。違うぞ」


 「え?」


 立ち上がる煙の後ろから声がしたかと思うとミリーが縛り付けられている十字架を根元から粉砕、吹き飛ばして何かが現れた。


 「あ、ああ」


 煙の中から現れたのは翼を生やしたキマイラ、村人の悲鳴や視線を無視し吹き飛ばしたミリーに目を向ける。

 

 「…まだ息はあるか」


 吹き飛ばされた彼女に目を向けながら彼はつぶやいた。

 その場にいたクルトは青ざめ、しりもちをつく。


 「ば、化け物」


 「そうだ、俺は化け物だ。だがこの女は人間、貴様等と同じ同族のはずだろう?なぜ殺す?」


 「だ、黙れ!!この女はお前の仲間だろうが!!人間じゃない!!」


 全身に火傷を負ったミリーを指さしながらクルトが叫ぶ。

 他の住人はキマイラを見るなりさっさと家に逃げた。

 おびえる住人、同じ村の女が焼かれているにもかかわらず助けない住人、見て見ぬふりの住人…よりどりみどりだ。


 「……本当に、人間は度し難い」


 「なに?」


 クルトの視線をよそにキマイラはミリーに近寄る。


 「おい、お前」


 「………」


 「生きていたいか?」


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