第四十七話
驚愕するヴィクトリアが見たのは倒れ伏すキマイラの姿だった。
突如として彼の頭上から雷が降り注ぎ、黒焦げにした。
「よくもやってくれたなッ…」
抱えて逃げようとする彼女の前に、メリザンドが飛び降りてきた。
憤怒に顔を歪ませ、止めをさそうと長剣を抜き放った。
「我々の船団が甚大な被害を受けた。貴様らだけは生きて帰さない」
「てめえが逃げてくれたお陰だ。礼を言うぞ」
軽口を叩いてはみるものの、状況は非常に悪い。
相手は魔術師な上、頼みの綱のキマイラは虫の息。
生きているがとても反撃は出来ないだろう。
絶体絶命の状況…なのだが。
「魔術師と一戦交えるのも面白そうだな」
ヴィクトリア自身はむしろ楽しそうに曲剣を抜いた。
「死ね」
飛びかかってこようとするメリザンド。
だが彼女は一歩踏み出した辺りで動きを止められた。
「あん?」
「なんだこれはッ!?」
二人が同時に疑問符を浮かべる。
氷で出来た壁、それが二人の間にいきなり形成されたのだ。
「お久しぶりですね。メリザンド・ベルナール殿」
黒い頭巾と外套の男がヴィクトリアの前に現れた。
音もなく、いきなり現れた彼。
顔がほとんど見えないが氷の壁を作った張本人なのだろう。
(クラウとかいう魔術師の仲間か?)
「退け、何も極めることの出来ない二流魔術師の分際で僕に勝てると思うのか?」
「ヴィクトリア様、キマイラを連れてお逃げ下さい」
彼女を無視し、顔だけ僅かにヴィクトリアに向けると男はクラウが見せたような空間の歪みを作り出した。
「てめえは何者だ?」
「私が誰かはどうでも良いでしょう?さ、お早く」
「…貸し一つだ。返すまで死ぬなよ」
彼女はキマイラを抱えて空間の歪みに消えた。
「さて、と。何でお前が生きてるんだ?メリザンド」
二人が消えたのを確認してから頭巾を取る彼。
明るいくしゃくしゃの茶髪と、細い目の青年…
エイルバーだった。
「…………」
「お前は確かベルガー家が処刑したはずだ。生きているはずがない」
「黙れ」
彼女が二度目の雷撃を放つと、氷の壁は粉々に砕け散った。
「やれやれ話もまともに出来ないのか?」
「黙れ!!」
叫ぶのと同時に彼女は雷撃をエイルバー目掛けて放つ。
「おっと…」
だが彼女の攻撃は地面から出た氷の壁で防がれる。
その上威力も下がっているのか今度は壁を僅かに削る程度で終わってしまった。
「逃げたほうがいいんじゃないか?普段のお前ならいざ知らず、大技を撃ってマナを消費した後のお前じゃ『二流』の俺すら殺せんぞ」
「貴様ッ…!」
「そらそら、次は炎だ。受け止めてくれ」
そう言いながら、彼は懐から一冊の本を出した。
本はひとりでに浮き上がり、勝手にページが捲られていく。
「ガアッ!?」
短い悲鳴を上げながらメリザンドはその場に膝をついた。
本から炎の玉が飛び出し、彼女を攻撃したのだ。
「まだまだあるぞ。昔と違って、これを読み上げる必要はない。なにせ自動的に追尾して攻撃してくれるからな」
懐からさらに四冊の本を出すと、彼の言葉通り、本は空中を浮遊しながらメリザンドを追いかけていく。
「おのれッ!!」
炎に氷、挙げ句に溶解液の類までもが彼女を襲う。
悔しさに歯噛みしながら、なんとか突進しようとする彼女…
「追いかけてみろ。触れたら景品をやるぞ?」
と、調子に乗っているエイルバーだったが…
「調子に乗るなよ…二流魔術師が!!」
「うぐぁッ!?」
メリザンドが叫ぶのと同時に彼と、空中を浮遊する本に雷撃が襲った。
「なんだ…正確に撃ちぬけるようになったのか…」
地面に膝をつき背中を黒焦げにされながら彼は苦しそうに呻く。
「奴は逃げたけど、二流魔術師、貴様だけは逃がさない」
「残念だが俺は逃げるのにかけては最強だ」
そう言うと彼は空間を歪ませて逃げた。
「…クソッ!!」
後に残された彼女は地面を蹴り上げた。
「キマイラさん!?何があったんですか!!」
戻ってきたキマイラとヴィクトリアの姿を見て、慌ててミリーが駆け寄ってきた。
エイルバーが送った場所は本陣から少し離れていた為彼女が担いで帰ってきたが…
「メリザンドだ…あの女、生きていた…」
彼の回復力によるものだろう、もう口がきけるまでに回復している。
「そんな…二撃目は撃てないんじゃなかったんですか?」
「分らん…ドリュアスは?」
「ここに居る」
木の幹から体を生やすドリュアス。
「変わりなかったか?」
「ここが襲撃された。それと西の国が恐らく落ちるぞ」
「なんだと?」
ドリュアスは二人に説明を始めた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
よろしければ評価、感想をお願いします。




