第四十五話
地獄の釜を見た時の心中とはこういうものなのだろう。
無造作に、埋葬されることもなく投げ捨てられた人々を見て、ヴィクトリアは見た目だけは平静であった。
「…お前も、痛かったろう。苦しかったろう」
死体の山に、生まれて間もない赤ん坊まで居た。
彼女はその子を抱きかかえ優しく頭を撫でると将軍と共に捕虜の所に戻った、。
「ヴィクトリア様…」
「…死体の山を見た。一応聞くが、もう一つの村に生き残りは居るか?」
「…お前たちは死ぬ」
赤ん坊を抱えながら戻ってきたヴィクトリアは捕虜に対して再び尋問を開始した。
手足を折られてもなお捕虜の男は周囲の兵士達やヴィクトリアを挑発するような視線を送っている。
「俺たちの仲間はもうお前の家族を殺しに行ったぞ。女は犯して、男は殺してやるとも」
「貴様らの兵士たちの総数は?何処から来た?」
「もっと近づいてみろよ。キスしてやるよ」
話にならない。
下卑た視線が彼女を舐めるように向けられていてとても不快になる。
「…見てきたぞ」
そんな時だった。
少し離れた場所からキマイラがやってきた。
他の兵士にばれないようにするためだろう。
「もう一つの村にも死体の山があった。殺されてる」
「…見張りをしていろと言ったのに。まあいいなら私たちがここに居る必要もないな」
「どうしますか?ヴィクトリア様」
「この部隊は将軍、貴方のものです。貴方が決めてください」
「そうですか。ならば」
将軍は腰の曲剣を抜き放ち、横一文字に腹を切り裂いた。
「あッ…グウッ…」
うめき声を上げる捕虜。
「死ぬまでは時間がかかる。それまでせいぜい懺悔でもするんだな。予定通り撤収する!!全員急げ!!」
「先に行っていてください。将軍」
「ヴィクトリア様?」
兵士たちが馬に乗り次々と去っていく中、彼女は少し離れた場所でしゃがみ込み、剣の鞘で穴を掘り始めた。
「何をしてる?」
意図が見えない行動に、キマイラは問うた。
「この子の墓だよ。せめて一人だけでもな」
「…手伝おう」
彼は素手でヴィクトリアと一緒に穴を掘り始めた。
「化け物でも人間の情があるのか?」
「お前が早く帰らなければエイラの『星』の発動が遅れる」
「かわいい奴だなテメェは」
彼女は少しほほ笑みながら、キマイラを小突いた。
「急げ急げ!!攻撃が飛んでくるぞ!!」
全速力で馬を走らせ、村から離れていく兵士達。
「本当に魔術師とかいう奴は役に立つんだろうな?」
「あの化け物の仲間だ。信じる価値は十分にあると思うぜ」
「あのクソッタレ共を消し飛ばせるなら手段は問わねぇさ!悪魔に魂売ったっていい」
馬上で大声で会話する兵士達。
そんな彼らの前方…本陣がある場所に違和感を覚えた。
「なんだあれは?」
「太…陽…?」
遠い場所にあるためよくは見えないが、赤く輝く光源が確かに見える。
「あんなもの見たことない。きっとあれが魔術師の言ってた魔術だろう。お前ら急げ!」
「問題ないか!?エイラよ!」
皇帝が星の準備を進めるエイラに話しかける。
「ああ、大丈夫だ!私は炎弾の魔術師とも言われた人間だ。さっきので少しマナを使ったが、発射に支障はない!」
本陣ではエイラが『星』の準備を進めていた。
両腕を発射する方向に向け、巨大な炎の玉を形成していく。
「とんでもない熱だな…炉のそばにいるようだ」
「そろそろ下がっていてくれ。火傷程度じゃすまないぞ」
「分かった」
皇帝が離れたのを確認し、エイラは更にマナを送り、炎を強める。
周囲の草木が一瞬で灰になり彼女の足元は熱で溶岩のようになり始めた。
「エイラ!!村に行っていた兵士達は十分離れた!いつでも撃て!」
偵察から帰ってきたドリュアスがエイラに向かって大声で叫ぶ。
「了解した」
強烈な熱風が周囲に吹き荒れる。
だが炎の玉は見る見るうちに小さくなっていき…
「なんだ…?消えた?」
皇帝はそうつぶやくが、正しくは消えていない。
手のひらに収まるほどの小さな青く輝く玉になっていた。
「『星』起動!我が手に勝利を!!」
そう叫んだ彼女は蛮族達のいる村目掛け、轟音と共に放った。
青く輝く、まるで流星のような美しさを持つそれは鳥が飛ぶそれよりもはるかに上空を飛んで行き…
「着弾するぞ!!」
村と海岸の間で爆裂。
聞いたこともないような凄まじい爆音と共に太陽が目の前に出現したような、目を潰すような光が辺りを包む。
爆発の衝撃波が本陣の近くの木をなぎ倒す勢いで押し寄せた。
それが収まった後に見えたのは遠くからでもはっきりと見える…
茸にも似た巨大な雲だった。




