表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/119

第四十三話

 「あれが噂の化け物か…」


 平原を馬で駆ける一団がいた。

 先頭を行くのはヴィクトリア。

 かなり離れた所ではあるが、村だった場所では化け物と化したキマイラが蛮族相手に暴れまわり戦場と化している。


 「………」


 そしてヴィクトリアの後ろには曲刀で武装した騎兵達…

 だが彼等の表情は暗かった。

 というのも彼等はほとんどがドレスリンから集められた兵士達なのだ。

 中にはキマイラと交戦した兵士も混ざっている。


 「…あれは本当に仲間なのか?」


 つまるところ怖いのだ。

 あの圧倒的な力が自分に向けられるのではないのか…と。


 「やれやれ、私が軍を離れて暫くたちますが…」


 呆れ顔になるヴィクトリア。

 そんな彼等に向け、彼女は大声で叫んだ。


 「貴様等は誉れある擲弾騎兵だろうが!!各部隊から選りすぐられ認められた勇猛果敢な兵士のはずだ!!違うか!?」


 「い、否…!」


 「擲弾騎兵というのは化け物ただ一匹に恐れをなして逃げ帰るような臆病者の集まりか!?」


 「否!」


 「ならば前を見ろ!胸を張れ!我等帝国兵の力を!勇猛を!不埒な蛮族共に見せつけてやれ!」


 「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」


 「旗を掲げよ!」


 彼女の声に合わせ、旗が翻る。

 彼女の威容と、激励に兵士達は鼓舞され目の色を変える。

 そこにいるのは先程までの弱腰の彼等ではなく、百戦錬磨の英雄達であった。






 「そろそろ頃合いか…」


 ひとしきり暴れたキマイラは敵陣真っ只中からヴィクトリア達がいる方角を見ていた。


 「ば、化け物…め……」


 足元には下半身を食い千切られた蛮族。

 こんなになってもまだ息があるのかと、彼は関心していた。


 「俺は行く。後はあいつらに可愛がってもらえ」


 「なん…だ…と?」

 

 段々と近づいてくる音がある。

 馬蹄の音と鬨の声…


 「す、スタトゥニテ擲弾兵団…」


 「そんな名前なのか、あいつらは。まあいいさらばだ」


 翼を生やし、一気に上空に飛び去るキマイラ。

 彼の羽音を消すように、彼らは来た。


 「突撃ィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」


 雄たけびにも似た号令。

 それと共に、何かが炸裂したのだろう、爆音がそこかしこから鳴り響いた。


 「に、逃げろ!!はや」


 「ハイヤァッ!!」


 這う這うの体で逃げ出そうとした蛮族が、突っ込んできた一騎の騎兵によって首を切り落とされた。


 「恐れるな!!我が背に続け!!」


 そう叫ぶのは皇后ヴィクトリア。

 血に濡れた曲剣を掲げ、逃げる蛮族達を打ち取ろうと迫る。


 「皇后様に続け!!死なせるな!!」


 「我らの怒りを思い知れ!!」


 馬蹄で踏みつぶし、剣で斬り、猛進していく騎兵達…

 相手に対して明らかに数で勝っているにも関わらず、蛮族達は逃げるのに精一杯であった。


 「先頭のアイツを打ち取れ!あれが敵将だ!!」


 そんな中、極一握りの蛮族達は冷静にヴィクトリアに対して弓で狙いを定めていた。

 

 「撃て!!」


 一斉に放たれる矢、それらの一部が彼女に命中した。


 「ハハッ!テメェ等が相手か!?上等だ!!」


 だが彼女は横腹や肩に当たった矢を力づくで引っこ抜くと、弓を射ってきた彼ら目掛けて突撃した。


 「ギャアアッ!?」


 「アッハッハッハ!!」


 高笑いをしながらすれ違いざまに首を刈るヴィクトリア。

 傷など、痛みなど存在しないとでも言わんばかりにただただ突っ込む。

 ひるみもしなければ痛がる素振りすらない彼女の姿、縦横無尽に駆けながら次々仲間を襲う他の騎兵達…

 僅かに残っていた蛮族達の思考を奪うには十分であった。

 

 「追撃は要らん!この場に残った敵のみ片付けろ!!」


 ほとんど一方的な虐殺は、一刻ほどで終結した。






 「…確かキマイラとか言ったっけか?いい働きだ。私の部下にならねぇか?」


 「断る」


 ヴィクトリアの誘いを人間の姿に戻ったキマイラが拒否する。

 ここは折れた矢や剣が墓標のように乱立する蛮族達が拠点としていた村…

 馬から降りた兵士たちはある者に怒りの視線を送っている。


 「………」


 たった一人残された蛮族の生き残りだ。

 縛り上げる縄など持ってきていないので腕と足を折っている。

 将軍が代表して尋問をしているが捕虜となった彼は答えない。

 なぜこんな面倒なことをしているのかというと…


 「この村にいた人間達の姿が一人も見当たらん。貴様らが連れて行ったのだろう?」


 「………」


 こういうことだ。

 将軍には、いや帝国軍の軍隊たちには時間がなかった。

 逃げた蛮族達が仲間を呼んでくるだろうし、メリザンドが戻って来ないとも限らない。

 他の兵士達も苛立っていた。


 「…舌まで切り取った覚えはないのだがな、やむを得ん。おい!こいつの腕を切り落とせ!!」


 「将軍!ヴィクトリア様!こちらに来てください!!お早く!!」


 「ええい…見張っておいてくれ。キマイラ殿」


 「…分かった」






 「こちらです」


 「…これ…は…」


 兵士に案内されたのは村の裏側、そこにはアマルフィア海岸に続く道と、崖があるのだが…


 「やってくれたなッ…蛮族達めが…」


 将軍の語調が荒くなり、ヴィクトリアの表情が険しくなる。

 彼が見たもの、それは…



 首を斬られ、崖から突き落とされた村の住人達であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ