サイドストーリー ドリュアスの秘密の畑
ミリーが館に来てから少し経ったある日、ミリーはドリュアスの後ろを追いかけていた。
館にいるドリュアスは時折姿を消すことがある。
それはミリーに見せたように木に同化して消えるのではなく、館の裏の森に井戸から水を汲んで消えていくのだ。
「どこに行くんだろう?」
小さな背中を追いかけていくのだがいかんせん服が引っかかってうまく進めない。
「よっと…」
スカートの裾を手で持ち上げ歩く。
「気付かれてないよね?」
彼からは少し離れた場所にいる。
音も鳥の鳴き声なんかに混ざって聞こえなくなるだろうから、多分気にならない。
…多分。
「ぜえぜえ…」
息も絶え絶えになりながら付いていくと奇妙な場所に着いた。
「なに…ここ?」
ミリーの目の前には木が生えている。
まあそれは森なので当然の事なのだが生え方がおかしい。
常緑樹のトネリコが一定の間隔で、尚且つ何かを囲うように正方形に植えられている。
空いた隙間にはローズマリーが植えられ、囲われた先がほとんど見えないようになっているのだ。
「…入ってみよう」
好奇心に駆られ、中に入ろうとするミリー。
「痛たたたたたたた」
木の枝が思いっきり顔をつついてくる。
顔をしかめながら進むと先には光が差し込む開けた場所があった。
「これって畑…?」
目の前に広がっていたのは何種類かの植物が几帳面に等間隔で植えられた畑だ。
だがミリーの瞳はある一点、この畑の三分の二を占める二つの植物に向けられていた。
「け、芥子…それに大麻…」
どちらも法で栽培を規制されている種だ。
「ヒナゲシ…じゃないよねこれ、蕾の毛が寝てるし。こっちの麻も…」
ミリーは近くにあった麻の雄花を摘んでみた。
「…ねばねばしてる。間違いない。ドリュアス…なんで」
「呼んだかの?」
「…ッ!?」
いつの間にか後ろにドリュアスが立っていた。
少なくとも今一番会いたくない相手だ。
おまけに…
「ドリュアス…それ、何?」
「ん?ああ鉈じゃが?」
彼の手にはここに来るときには持っていなかった錆が浮いた鉈が握られている。
それで何をしようというのか。
わかりきっている。
「…ッ!」
ミリーは踵を返して全力で走った。
「やれやれ…」
「はぁはぁはぁ…」
森の中を走ってはいるのだが逃げる場所に当てなどはない。
キマイラはドリュアスの味方だろうし、エイラとクラウも以下同文。
「きゃッ!」
足を地面から出ていた木の根に引っ掛け、盛大に転んでしまった。
「痛…」
「何をやっとるんじゃ、お主は…」
「ひいっ!?」
転んで顔を上げるとそこにはドリュアス。
呆れたような顔をしている。
「ミリー。何か勘違いしとるようじゃが儂はお主を殺したりなんぞせん」
「ほ、本当?だったらあの鉈は?」
「トネリコの枝を払うためのものじゃ。ほれ掴まれ。あまり見られたくなかったがこうなったら説明してやる」
「う、うん」
先ほど居た畑に戻ってきた。
「この畑は儂が世話をしておる。芥子も麻も鎮痛作用がある薬品が作れる上服や包帯の類も作れる。実用的な植物じゃ」
「うん、知ってる。けど今の帝国じゃこれは違法なんだよ?許可なしでこれの栽培は」
「儂は人ではない。人の法など知らぬ」
確かにその通りだ。
「お前さんに食わせた果物もここに植えてあったものじゃ。ほれ、よく見ろ」
「あ…」
いつぞやの事を思い出し顔が赤くなる。
慌てて視線を移す、梨に林檎、ライ麦も少し植えられている。
だが少々違和感が…
「季節が違うのに実が実ってる…」
「儂の能力じゃ。植物の成長を少しだけ早めたり遅くしたり出来る。それを利用して一年中食料の供給ができるんじゃ」
「そうなんだ」
何でもないことのように言っているがすごい能力だ。
「儂はキマイラと違って人間の食い物しか受け付けん。じゃからこの畑が必要なんじゃ。できれば隠しておきたかったがの」
「ごめんね…」
「構わん。いずれ話さねばならなんだからの。お主も毎日の食い扶持がいるじゃろうし分けてやる。じゃがここにはあまり入るな。儂の畑を荒らされたくはない」
「うん、分かった」
「じゃあ先に館に戻っとれ。儂は少し手入れをしとく」
「なら私も手伝うよ」
「要らんわ。はよう行け」
にべもない。
仕方なくミリーは畑を後にした。
「…行ったか」
一人残されたドリュアスはほっと胸を撫でおろした。
踏み入ってほしくない場所が、彼にはあったからだ。
「さてと…」
畑の中央、ミリーは気付かなかったがそこにはとあるものがある。
花崗岩でできたお墓だ。
彫られている名前は『エルフリーナ・ベルガー』…
「…エルよ。見えたか?あれがうちに来た子じゃ。名前はミリーという」
墓石に付いた落ち葉を払い、話しかける。
穏やかな顔で…
「少し抜けとるが、優しい子じゃ。おまけにエルと同じような仕事をしとったそうじゃ。お前さんが生きとれば…きっと話も合ったじゃろう」
ひとしきり墓石を綺麗にした後、彼は小さな手で墓石に触れる。
「キマイラが初めて招き入れたんじゃ。ひょっとしたらあの子がキマイラを変えてくれるかもしれん。…じゃからエル、見守っていてくれ。儂もいずれそっちに行くからの」
そう言い残し、彼は去った。
数滴の涙で濡れたお墓を後にして…
どうも田上です。
読んで頂きありがとうございました。
今回は本筋とはあまり関係がないssを書きました。
また定期的に書いていこうと思います。
面白ければ評価お願いします。
それでは!




