第四十二話
ミリーは変化した状態で鋼鉄の縄に拘束されたまま、ただ成り行きを見守っていた。
目の前にいる下半身が蛇の男…間違いなくキマイラの関係者のはずだが…
「私は人間を殺すつもりはありません。ですが私の同族を殺すというなら…私は容赦なく牙を剥く」
丁寧な言葉遣いだか、素人でも明確に分かるほどの殺気を出している。
一方の蛮族達はというとバリスタを向け睨み付け歯噛みしている。
「去りなさい。見逃します」
彼がそう言い放つと、蛮族達はバリスタを置いて森の奥へと黙って消えて行った。
「…行ったようですね。貴女ももう変化を解いても問題ありませんよ」
身体を変化させ普通の人間の姿に戻る彼。
肩までかかる栗色の髪に黒い瞳を持った端整な顔立ちの男性、それが彼の人間の姿。
「ふむ、服などを一度体内に取り込んで戻るときにもどす…基本的な技は会得しているのですね」
「貴方は一体…」
変化を解きながら、目の前の彼に問う。
「傍観するだけのつもりだったのですが。苦戦している様でしたのでお助けしました」
よくよく考えれば変化を解いたら拘束を解けた。
今更になってその事に気付いて頭が痛くなる。
「…えっと、ありがとうございます」
「どういたしまして」
柔和で自然な笑顔を浮かべる彼。
「あの…お名前を聞いてもいいですか?私はミリエラといいます。ミリーって呼んで下さい」
「宜しくお願いします。ミリーさん。私は…ああジョンです。宜しくお願いしますね」
こんなに偽名だと確信できたのは初めてだ。
「ミリー!何処だ!!」
森の中でエイラの声が響き渡る。
アンドレアが呼んでくれたのだろうか?
「ハーリン家のご令嬢…立ち直られたのですね。良かった」
声のする方に視線を向けながら少し嬉しそうに呟くジョン。
「またお会いしましょう。…あ、私の事は他言無用でお願いしますね」
そんなことを言い残し、彼は声とは逆方向に走り去って行った。
「ミリー!無事だったか!良かった」
「あ、はい。無事です。本陣の方は?」
「ああ、片付けてきた。こっちの敵は?どうなった」
「すいません。逃げられました」
「そうか…とりあえず本陣に戻るぞ。槍兵達で守りを固める」
「分りました」
彼が走り去った後を見つめるミリー。
「どうした?誰か居るのか?」
「いえ…」
「なら行くぞ」
彼女達はその場を後にした。
「…これは」
本陣に戻ったミリーが見たのは酷い光景だった。
「……」
物言わぬ死体の群れ、目を覆うように包帯を巻いている人もいる。
折り重なるように倒れた死体は蛮族達のもの、だが彼等の姿は異様なものだ。
どの死体も眉間に寸分たがわず風穴が空いている、矢で射られて出来るような傷ではないが…
「ミリー、無事か」
「陛下!」
声をかけてきたのは皇帝、だがひどい姿だ。
返り血を浴び、顔には細かい傷がある。
「大丈夫ですか?今手当てを…」
「構わぬかすり傷だ。それより他の者を…いや待て、そなたは医療資格は持っているのか?でなければ見張りに集中してくれ」
「………」
資格…彼女自身医療の資格は持ってはいるが…
「…あります。これが証です」
首から下げていた銅の札を見せる。
「持っているのか、すまなかったな。他の者を頼む」
「はい」
彼女は近くにいる負傷者の手当に入った。
「重傷者は任せてくれ。私がやる」
「はいッ!」
エイラは治癒の魔術を使える。
ならそうするのは妥当だろう。
「そういえば私の道具…」
幕舎に置いたままだった…
だが現在、荒れに荒れた今の状態では探すことも難しい。
「…ミリー」
困り果てていると見たことのある男が話しかけてきた。
アンドレアだ。
「師匠…私…」
「二つ聞かせてくれ、お前の心は人間のままなのか?」
「はい…」
「そうか…もう一つ、お前が医療から引いたのはあの化け物になる能力が原因か?」
「…そうです」
「…二つと言ったがもう一つだ。お前はまだ医療の仕事を続けたいのか?」
「それは…分りません」
彼の言葉に俯くミリー…
「なら俺が決めてやる。付いてこい。何かと思えばそんな理由か、くだらん」
「くだらないって…私もかなり悩んだのに…」
少しムッとした、だから言い返そうとして顔を向けた。
だけど…
「んなことで悩んでる暇があるならとっとと動け」
彼はうっすらと笑っていた。
彼なりに気を使っているのだろうか?
「相変わらず無茶苦茶ですね…師匠」
「うるさい。で?来るのか?」
「はい!行きます!」
速足で負傷者の所へ行くアンドレアを追いかける彼女。
昔の話だが、彼女はこうしてアンドレアの背中を追いかけていたことがある。
ミリーはそれを思い出して、少し笑った。
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