第四十話
「キマイラさん…無事ですかね」
「心配したところでどうにもならん。今は黙って待っていろ」
キマイラが戦っている間、皇帝達が居る幕舎で不安そうに歩き回るミリーが居た。
目の前でうろうろしている彼女に半ばいらつきながらエイラは諭す。
これでもう10回以上だが…
「外に出て、見回りでもしてこい。見てると腹立つ」
こめかみに血管を浮き上がらせたエイラがついに切れた。
「は、はい。分かりました」
「とはいえ、どうすれば…」
外に出てみるが何をやればいいのかも分からない。
「あの…何か手伝えることないですか?」
とりあえず近くにいた人に話しかけてみる。
「…すまんが話しかけないでくれ」
「え?あの…」
にべもなく言い放ち、そのまま彼は立ち去ってしまった。
よく見れば周りにいた人が離れていっている。
中には嫌悪感丸出しの顔で睨み付けてくる者もいた。
(…ああ、なるほど)
よくよく考えてみれば自分は化け物。
おまけに自衛の為とはいえ兵士達を殺したキマイラの仲間だ。
関わりたくないのは当たり前だろう。
しょんぼりしながら、彼女は幕舎に戻ろうとした。
「どっかで見た面だと思ったら…ミリーじゃねぇか。何やってんだこんなところで」
突然背後から話しかけられ、驚きながら振り返る。
「師匠!」
振り返った先に居たのは長身で痩せた白髪頭の男。
そんな彼にミリーは駆けよった。
「離れろ、鬱陶しい」
「あ、すいません。お久しぶりです。師匠」
「元気そうだな」
「なんだミリー?どうした?」
先程のミリーの声を聞いたのかエイラが幕舎から出てきた。
「仲間か?」
「はい、魔術師のエイラさんです」
「ミリーの知り合いか。中に入ってくれ。せっかくだから話がしたい」
「ああ、そうしよう」
「俺はアンドレアだ。よろしく」
「エイラだ。」
丸太を切って作った椅子に座りながら笑顔で握手を交わす二人。
「お元気そうでなによりです。師匠」
「ああ、まあな」
「それで、師匠というのは?」
先ほどからミリーが師匠と呼んでいたのが気になっていたのだろう。
エイラは興味津々といった様子で彼に聞いた。
「俺は元々軍医でな。退役してウッディーネで町医者をしていたらこの女が弟子入りしてきたんだ」
「当時若すぎて誰も弟子にとってくれなかったのを、師匠が受け入れてくださったんです。感謝しかありません」
「軍も退役していたし。暇だったからな」
「なるほど軍医、だからその首か」
エイラの視線がアンドレアの首に向けられる。
襟で見えにくいが彼の首には斬られたような傷があった。
「その傷、戦闘で出来たものだろう?鋭い刃物で切られた傷、自分で治療したのか?」
「…まあ、そんなものだ」
彼は含みのある声でそう言うと、傷を手で隠した。
(…しまった。要らないことを言ってしまったか)
「ミリーが薬草屋の仕事をしていられるのは貴方のお陰だったんだな。ドリュアスを助けた時の技も」
「ああ、いろいろと教えたよ。薬の調合方法、薬草の見分け方…傷の手当の仕方なんかもな」
「お世話になりました」
少し照れたような顔を見せるミリーと無表情のアンドレア。
親子のようにも見える。
「で、お前がここに居るということは医者としてきたんだろう?少し手伝え」
「…いえ。私はもう医者には」
「どういうことだ?」
俯きながら暗い顔をする彼女に、眉をひそめながら問うた。
「いろいろとありまして。今の私は医者じゃないんです?」
「廃業したのか?詳しく話せ」
表情が次第に険しくなるアンドレア。
「それは…言えません」
「そうか…お前は死ぬまで医療に携わる。そう思っていたんだがな。俺の目も曇った」
「……」
失望、彼の言葉にはそれが混じっていた。
「そろそろ行く。お前がなぜここに居るのかは知らんが、遊びなら早く帰れ」
「師匠…」
「じゃあな」
彼はミリーを再び見ることなく去っていった。
「私…は…」
「ミリーさん。これ」
「クラウちゃん!?いつの間に帰ってきてたの?」
「今です。伝令役ついでに館に寄ってマナを回復していました」
「そうなんだ…その鞄」
「ミリーさんの荷物です。薬品類、道具が入っています。それとこれを…」
ポケットの中から銅の札と指輪を出してミリーに握らせる。
「……」
「いい加減意地を張るのをやめたらどうですか?私たちはともかく、貴女にはまだ理解してくれる人がいるんじゃないですか?」
「…それは、分からないよ。けどありがとうクラウちゃん。持ってきてくれて」
医療に携わる者が持つ銅の札、婚姻の時に付ける指輪。
着けるかどうか迷ったが…
「……ちょっと師匠の所に行ってきます」
指輪と札を革紐でまとめ、首から下げて走った。
「ああ、行ってこい」
エイラに背中を叩かれ、彼女は幕舎を後にした。
どうもどうも、最後まで読んで頂きありがとうございます。
最近キャラクターが増えてきてどう動かそうか悩んでいる毎日です。
出来れば評価と感想をお願いします。
それではまた。




