第三十四話
「すいません。本当なら私の魔術で移動するんですが…」
変化したキマイラの背に乗りながら、クラウが申し訳なさそうに言った。
今回は体から蛇やら山羊やらは生えていない。
ただの獅子のような形態、問題はそれが家屋のように巨大な体躯であるということだが。
「構わない。お前はマナを温存していてくれ」
「…しかしまた皇帝と手を組むことになるとはな」
いつもと違う、奇怪な鎧を着たエイラがそう漏らした。
溶岩が冷え固まったようなものが鉄板の前部分に張り付いている。
鉄板が見えているところも傷だらけだ。
「確かキマイラさん達は統一戦争時代に参加していたんですよね」
「…おいクラウ。一体どこまで話したんだ?」
今のキマイラは獅子、表情は見えないが恐らくむっとしているのだろう。
語気が少し荒い。
「話したというか…見せたというか…」
「…もういい。もうすぐ着くぞ」
彼が走る先に、騎兵の集団が集団が見える。
翻る旗は赤い生地に黄金の弓と矢、スタトゥニテ帝国の旗だ。
「騒いでるな」
「そりゃそうじゃろうて」
こちらに向けて矢を放ってきそうな勢いだ。
「おい待て!撃ってきたぞ!!」
「心配ない」
「お前はな!!」
何発か矢がキマイラ達の頭上に降り注いだ。
キマイラ自身は矢をはじき返す肉体だから良いとして、その上に乗っているミリーやエイラ達にはたまったものじゃない。
「これじゃ近づけない!」
「あれは…」
しばらく走り回りながら避けていると矢をつがえている兵士たちの前に誰かが急いで馬を走らせてきた。
黒い髭を生やした男…皇帝だ。
「矢が止まった。近づくぞ」
「大丈夫なんですかね…?」
ドリュアスを抱きしめながらミリーは不安そうに呟いた。
「すまぬ。まさかそんな姿で突撃してくるとは思わなくてな」
顔を引きつらせながら皇帝はキマイラ達と握手を交わした。
キマイラは既に人間の形態になっており、白い髪をたなびかせていた。
「動きながら話すぞ。我らも時間が惜しい」
「分った」
「陛下に対してその返事は何だ?もうすこし…」
返事の仕方が気に入らないのだろう、マークが口を挟んできた。
「よい、爺。そんなことよりもどう敵を倒すかだ」
「陛下…」
「で、聞きたいのだがもしや女子供まで戦争に参加させるつもりなのか?」
不満そうな顔でミリーとエイラを見る。
「私の事を言っているのなら、無用な心配だ。これでも魔術師、火力なら十分だぞ」
「そなたは…確かミリエラといったかな?」
「私も戦う覚悟はあります」
「覚悟だけでは駄目だ」
「問題ありません」
服の袖から巨大な烏賊の触手のようなものを出すミリー。
それを見た皇帝は眉をひそめた。
「…本当に、化け物だったのだな」
「ええ」
「…分った。では戦力の確認だ。そなたらはどのように戦うのだ?」
「私は炎を使える。使い方は多岐にわたるが…一番使うのはこれだな」
エイラは炎の玉を出現させ、道端に投げつけた。
瞬間、炎の玉は炸裂し轟音と共に地面を抉った。
「見事な威力だ。だが次撃つときは言ってくれ」
音のせいで周囲の馬たちが暴れていた。
何人かは落馬している。
皇帝とマーク、ヴィクトリアの馬は不思議なことに微動だにしていないが…
「耳に栓をしておくといい。砲兵隊はそうしているだろう?」
「ああ、そうしよう。で、そなたは?」
皇帝の目がクラウに向けられる。
「私は…任意の場所に瞬間移動できます」
「あの時見せてくれたものだな。一つ聞くがその能力、食料、火薬の類を運搬することは出来ぬか?」
「いえ、私が同時に移動できるのはせいぜい人間にして5人程です。しかも距離が縮まります」
「そうなのか」
「…ごめんなさい。役立たずで」
しょんぼりしながら肩を落とすクラウ。
「何を言うのだ。十二分に使える能力だぞ。誰よりも早く伝令をこなせる。偵察だってお手の物ではないか」
うなだれているクラウを優しく慰めた。
「ありがとうございます」
その言葉に顔を上げて穏やかにほほ笑むクラウ。
皇帝もその反応にうんうんと満足そうに頷いた。
「良いな、やはり子供はそんな風に笑っている姿がよく似合う。だが、まさかそんな子供まで戦争に投入しようとは…」
「…言っておくがな。そこにいるクラウは1000歳を越えているぞ?」
「なッ!?」
「ちなみに私は500を越えている」
慌ててミリーを見る皇帝。
「わ、私は16です」
その言葉をきいてほっとした。
「わ、分った。とりあえず移動しながら話そう。これからの事をな」
その場にいる全員が頷いた。




