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第三十三話

 「キマイラさん。クラウちゃんが帰ってきましたよ」


 「分った。すぐに行く」


 ミリーが彼を呼びに行くと、彼の周りに狼の群れが居た。

 少し警戒するが、どうやら敵意は無いようである。

 

 (…どこかで見たことあるような)


 既視感を覚えながら、目の前の狼を見る。


 「すまない。もう少し近づいてみてくれ。頼む」


 「狼と話せるんですか?」


 一つ思い出した。

 彼がミリーを村へと送った時に、狼たちと話しをしていた。

 あの時は彼女自身が襲われそうになっていたから気が付かなかったが。

 

 「こいつは俺の友達だ。ついてきてくれるとは思っていなかったが」

 

 彼は狼を撫でながら嬉しそうに語る。


 「そうなんですね」


 表情が普段と比べて柔和だ。

 

 「で、クラウは何処に?」


 「あっちです」


 




 「キマイラさん、皇帝と会ってきました」


 「どうだった?」


 キマイラがクラウの元に到着するやいなや、彼女は報告を始めた。

 先程までミリーに抱きついて震えていた人間と同一人物とは思えない。


 「共闘の申し入れは受けてくれました。それと貴方に会いたいとも言っています」

 

 「よくやってくれた。クラウ」


 「それで、そちらは…」


 「一時的に海岸付近の村へ別れて撤退している。掘や柵を築いて守りの構えだ」


 流れるようにキマイラも報告する。


 「東の公爵は…」


 「橋の付近まで後退した後、補給と交代をしたあと再度攻撃に向かっている。一撃離脱戦法を取ってるな。俺たちは皇帝と合流し、その後の作戦を練るぞ。もう一度聞くがエイラ。お前は本当に信用していいんだな?」


 「ああ、安心してくれ」

 

 「…分った。ミリー、皇帝と会う前に話がある。来てくれ」


 「はい、わかりました」


 




 「まずは礼を言う。だが今度からはやめてくれ」


 「え?」


 クラウ達から見えないところまできたミリーとキマイラ。

 キマイラはいつになく真剣な表情で言ってきた。


 「ミリー、俺を助けた後どうなった?」


 「体から血が出て…それで…」


 倒れた…


 「俺の体の中には『熱核器官』と呼ばれている臓器が存在している。そしてこれはお前にも存在する」


 「熱核器官?」


 聞きなれない単語に困惑するミリー。


 「エルが俺を作った時、身体を制御するために入れたものだ。これが破壊されれば俺は体を変化させることができなくなる。まあ、破壊されても一定時間があれば再生するが…」


 「それが私の中に…」


 「ある。だがミリーの物は不完全だ。恐らく四半時も持たん。元々俺のように作られた存在じゃないお前には体がもたないんだ」


 「四半時…」


 だから彼を救出した後、ああなったのか…


 「そして限界を超えれば、恐らく…お前は死ぬ」


 「キマイラさんは…」


 「俺も限界時間があるがその時は人間の形態に戻るだけだ」


 死ぬ、その言葉が頭の中でぐるぐる回っている。

 元々村で焼かれて死ぬ運命ではあったが…


 「ミリー、お前はドリュアスを、そして俺も救ってくれた。だからお前には死んでほしくない。クラウのところに逃げてくれ」


 「…いえ、私もここに居ます」


 彼女の言葉に、キマイラは目を丸くする。


 「何故だ?死ぬのが怖くないのか?」


 「…奴らは、蛮族達は私の村を襲った。私の親代わりになっていた人を殺した。そしてこの国すら踏みにじるつもりです。それを私は許せない」


 自然と握りしめた拳に力が入る。


 「死ぬんだぞ?そうなったら終わりじゃないか」


 「ここで逃げても、私の中で何かが死にます。たとえ僅かでも奴らと戦えるだけの力があるのなら、私は戦いたいんです」


 「覚悟の上なんだな?」


 「はい」


 はっきりとした口調で、彼女は答えた。


 「…分った。だが無茶はするな。お前を失いたくはない。…皇帝のところに行くぞ」


 「はい」

 

 キマイラとミリーはクラウ達が居るところへと戻った。

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