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第三十話

 「やあ、ドリュアス。久しぶり」


 キマイラが出て行って少し経った館。

 そこに見慣れない男が現れた。

 

 「貴方は…誰ですか?」


 初めて見る人間にミリーは怯えながらもドリュアスの前に立つ。


 (ドリュアスは大けがしたばかり…私が守らなきゃ)


 「ああ、お前がキマイラの嫁か」


 やれやれといった風に腕を広げながら近づいてくる男。


 「私は嫁じゃありません」


 「愛いね。まあそう警戒しないでくれ。俺はキマイラの友人、エイルバー・マグワイヤだ。よろしく」


 「ミリー、これの言うことは本当じゃ。だが警戒はしてくれ」


 「……」


 隣にいるクラウは今まで見たこともないほど敵意をむき出しにして、目の前の男には見えないように短刀を逆手に構え、首筋を見据えている。


 「クラウちゃん…」


 「やあクラウ。久しぶり」


 「何をしに来たのですか?エイルバー」


 「もう、『兄さん』とは呼んでくれないのか」


 寂しそうな表情を浮べるエイルバー。


 「兄さん?」


 「なんだ、言ってなかったのか。クラウは俺の…」


 「何をしに来たのかと聞いているんです!!」


 声を荒げるクラウ。

 その瞳は怒りに燃え、嫌悪をむき出しにしている。


 「…交渉に来た。俺がキマイラに援軍をよこす代わりに、俺が今後する行動の一切を制限するな。というわけだ。どうだ?」


 「それを飲むわけにはいかん」


 「ドリュアス。この人は一体…」


 事情が呑み込めない、目の前にいる人物は一体何なのか…


 「こいつはエイルバー。この国の犯罪組織、生き残りの魔術師の9割以上を束ねる男じゃ。罪のない人間を殺して回っておる」


 「え?」


 「おいおい、語弊のある言い方をするなよ」


 「事実です。それとその条件は呑み込めない」


 「………」


 「貴方にこれ以上人殺しはさせない」


 「お前に俺は止められん。…まあ、お前たちの答えは聞いた。後悔するなよ?」


 そう言うと彼はクラウと同じように空間を歪ませ消えた。


 「くたばれ…クソ野郎」


 汚い言葉で罵りながら短刀を収める。


 「我々も早く行きましょう。ここに敵がまたこないとも限らない」


 「…キマイラさん一人置いていくなんてできないよ」


 彼はただ一人で敵を相手にしている。

 彼がいくら強いといっても苦戦するだろう、悪ければ死んでしまう。


 (クラウちゃんに見せてもらった時、キマイラさんはぼろぼろになってた。人間相手でも確実に勝てる保証は無い…)


 彼女の中の不安は増すばかりである。


 「だったら私が行こう」


 「エイラさん!?」


 館のそばの茂みから頭に葉っぱを付けてエイラが出てきた。

 

 「エイラ…いいの?」


 「ああ、エルフリーナから受けた借りを返す」


 遠慮がちに問いながら頭についた葉っぱをとるクラウ。

 

 「あの…キマイラさんが言ってました。『立場がかなり複雑なんだ』って」


 「…ああ、そうだな」


 珍しく歯切れの悪い反応、やや視線を反らした。


 「私はさっきの男、エイルバーと協力していた。ギースの行方を知るためにあいつの情報網を利用してたんだ。その過程で、あいつに手を貸したこともある」


 「…………」


 「そんな私をキマイラは信用してない。…当然だな。あいつの考えに乗っておきながらそんなことをすれば」


 「エイラさん…」


 (だからキマイラさん、あんな言い方したんだ…)


 そいつを頼んだ、館を離れる二人に以前そう言っていた。

 あれはエイラの行動を監視させる為のものだったのだろう。


 「エイラさん…キマイラさんの助けに行ってくれるんですか?」


 「ああ」


 「信頼してもいいんですか?」


 「ああ、少なくとも私はあいつの友人だ。それにかつて世話になっていたエルフリーナの忘れ形見でもある。信用してくれて問題ない」


 真っ直ぐこちらの目を見ながら訴えるエイラ。

 

 「分かりました。だったら私も行きます」


 彼女の発言に怪訝な顔をする。


 「私も行くって…お前は戦えないだろう?それに戦う理由も無いだろうに」


 「戦う理由ならあります。私の村を襲った、親代わりの人間を殺した。それで十分です。それに…」


 おもむろに腕を明後日の方向に向けるミリー。

 そこから巨大な百足がいきなり生えた。


 「…ミリー、お前」


 「…体が熱いんです。恐らくもう、自由自在にキマイラさんと同じように力を振るえます」


 「連れて行くのは構わない、だが…」


 「だが?」


 「勝手に突っ込んでいくのだけは駄目だ。絶対にするな」


 「分りました」


 悲しい表情を浮べるミリーに一抹の不安を感じながら、エイラは彼女を連れて行った。

 

 


 


 

 

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