第二話
夜、虫や梟の鳴き声が響く中、月明かりに照らされた部屋で話をしていた。
ぼろぼろの椅子に座り、3人で一緒にだだっ広く殺風景な大広間にいる。
奥に階段があるのが見えるが動かないほうが良いだろう。
「そういやお前さん、名前なんて言うんじゃ?」
会話しやすいドリュアスがいて助かった、彼がいなければ今頃キマイラの放つ殺気で失禁してしまいそうだったからだ。
「えっと、ミリエラ、ミリーでいいです」
「そうかそうか。というか借りてきた猫みたいになっとるのう」
無邪気に話す老人口調の少年、自由自在に体を変化させる化け物、赤毛で何の力もない少女。
この場にいるのは一人を除いて人間じゃないという事実に頭がいたくなる。
周りを見ればタイトルすら分からない本が開いたまま放置されていたり、蛾や蠅の死骸が床に散らかっている。
ミリー自身、館に入ってから頭に蜘蛛の巣を何度もくっつけた。
その荒れようはここは廃墟です、なんて言われても納得がいくほどである。
「…その、明かり付けていい?」
ここはあまりに不気味で、明かりを着ければ少しは気も紛れるだろうとおもったのだが…
「迂闊に動くと目を付けられるぞ」
「…………」
ミリーと同じ部屋には先程威嚇してきたキマイラがいる。
なぜかとても綺麗にしているロッキングチェアに座り、同じく不自然なほど綺麗な毛布に裸の上半身を包んでいた。
「……」
「あの、何で人間を嫌うんですか?」
意を決してミリーはキマイラに聞いてみた。
彼が人間を嫌っている原因が分かればそれを改善し、仲良くなれるかもしれない。
「…さっさと寝ろ」
「少しの間だけでもここにいさせてもらうんです。貴方とも仲良くなりたいです」
「こんなことをされてもか?」
そうキマイラが言った瞬間、彼の背中から蛇が飛び出し、ミリーの首を絞め上げた。
「…ッ!ガハッ」
呼吸が止まり、意識が朦朧とする、締め上げている蛇を外そうと手を掛けるが鉄の鎖の様に固い蛇はびくともしない。
「いいか、俺は基本的に人間を自分から襲うことはしない。だが貴様等人間となれ合うつもりも仲良くする気もない」
「………ッ!?」
「関わるな、俺に」
ドサッと、ミリーを締め上げていた蛇を引っ込め椅子に乱暴に落とした。
「ごほっ、ごほっ」
「言わんこっちゃない」
ミリーが酸欠で朦朧としているなか、ほらな、と言わんばかりにドリュアスは肩をすくめていた。
「さて、儂も寝るよ。おやすみ」
先ほどのことなど無かったかのように呑気に欠伸をするとドリュアスは柱に手を置いた。
「な、なにするんですか?」
「ん?儂は樹木の精霊、木と一緒でないと落ち着かんのじゃ。さてミリー、明日まで死んでくれるなよ。寝覚めが悪くなるからのう」
不吉なことを言い残し、彼は体を木製の柱にズルリと滑り込ませた。
この場にいるのはミリーとキマイラのみとなった。
「……………………」
「……………………」
(…き、気まずい)
「……………」
ドリュアスが居なくなってしばらくたった。
キマイラは目を閉じ、静かに眠っているようだ。
(こんな風にしてると、本当にただの人間にしか見えない)
絹のように白い髪、それに出会った時にはあまり観察など出来なかったが目鼻立ちの整った綺麗な顔立ちをしている。
黙って歩いていたら女性を虜にするだろう。
「………………ル」
「ん?」
顔を観察しているとキマイラがなにか寝言を言った。
「…エ…………ル………」
「……エル?」
誰かの名前だろうか?
キマイラはそれきり、朝になるまで何も喋らなかった。