第二十四話
「あ、アンタ!この子だけは逃がしてあげて!」
「そうよ!代わりに私が相手になるわ!だからお願い!」
意外なことが起きた。
村人達がミリーの解放を要求したのである。
「……………」
だが、彼等はそんな女達の言うことに耳を貸す気は無い。
先ほどから叫び声以外にまともに喋っていない所を見るに、恐らく言葉が通じていないのだろう。
「…なんで」
「ミリー、ごめんなさい。貴女を信じてあげられなくて」
「皆で話したの。もう無理かもしれないけど…ミリーが帰ってきたら謝ってまた一緒に暮らそうって」
クルトがしたような質問を涙ながらに女達が言ってきた。
「…出来ると思うの?私は、もう化け物なんだよ?」
「受け入れる。貴女をそうさせたのは私達なんだから」
「けど、まずはここから逃げないとね」
周りを囲む暴漢達を見ながら彼女が憎々しげにつぶやく。
「移動するぞ。立て」
「アンタ喋れたんだ」
村人を連れて行こうと歩き出す彼ら。
そんな彼らに向かって物陰から誰かが突っ込んできた。
「くたばりやがれッ!!このクソッたれ共が!!」
クルトだった。
「ギャアッ!?」
両手で斧を振り下ろし、不意打ちで頭をたたき割る。
断末魔を上げる暴漢をよそに、斧を引き抜き次の獲物目掛け突貫していくクルト。
「何だこいつ、おい殺せ」
「皆を離しやがれ!クソ野郎!!」
2度目はなかった。
振りかぶろうとしたクルトは腹を槍で一斉に突かれ、その場に倒れ伏した。
「ッガ…ああ、くそッ」
槍を引き抜かれたと同時に腹から鮮血が迸る。
「クルトッ!」
「行くぞ」
殺されていく彼を見てミリーが叫ぶ。
地面に倒れ、血を流し、苦しみ悶えるクルトを見て、彼女の中で何かどす黒い感情が生まれる。
身を任せろ、あいつ等を殺せ…
そんな言葉が聞こえてくるようだ。
身体が熱い。
かつて処刑されかけた時に感じたのと同じだ。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ミリーが獣のような咆哮を上げる。
そして咆哮を上げるのと同時に、彼女自身の身体が変化していく。
あっという間に家屋ほどの大きさに巨大化し、足と腕が獅子のような足になり、肩からはミリー自身の物とは別にもう一つ、犬の頭が生えた。
「何だこいつは!?」
鬣の代わりに首からは夥しい数の蛇が生え、暴漢達を威嚇する。
「侵攻していった兵隊を呼び戻せ!化け物だあッ!!」
変貌したミリーを見て暴漢達が初めて恐怖する。
完全に変化を遂げた彼女は、手当たり次第に暴漢達を殺しまわった。
爪で引き裂き、牙で噛み砕き、悲鳴を上げながら家屋に逃げ込んだ者は体当たりで家屋もろとも粉砕した。
「み、ミリー…アンタなのかい?」
村人たちに一瞬、怯えたような表情が見られた。
「敵ハ……ドコダ」
金属を擦りあわせたような不快な声。
禍々しいうなり声を上げながら他に敵が居ないかを確認し始める。
「あ、ああ…」
「………………」
やがて、敵が居ないことが分かると彼女は死にかけているクルトの所へ向かう。
「み、ミリー」
「…………クルト…オジサン」
致命傷だ。
止血しても無駄なほどの出血、本人ももう気力だけで持っているようなものだ。
「ミリー、すまねぇな…お前が嫁入りするまで面倒見るって、お前の親父と約束したのに…破っちまった…」
「…………」
「元気でな、ミリー」
そう言ったあと、クルトは静かに息を引き取った。
「馬鹿な人…あんなことされて、私が許すとでも思ってたの?」
いつの間にか、彼女は元の姿に戻っていた。
クルトの額に付いた血を拭い、頬を撫でる。
憎いと思っていた男が死んだ。
ただそれだけのはず。
なのに…
なんで涙が出るのだろう?
「ミリー!待って!」
クルトを抱き抱え、その場を去ろうとする彼女を村人達が声で制す。
不思議と重さは感じない、
「私の居場所はここじゃない。だから…」
「ミリー…」
「さようなら」
そう言い残すと、彼女はクルトを抱え山の中に消えて行った。




