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第二十二話

 「こっちだよー」


 「……」


 息を切らしながら走る少女を、仏頂面のキマイラが追いかける。

 からかわれているようにしか見えないが、今はこの少女が頼りだ。

 

 「ここには人がいないんだな」


 周りを見渡すが、人の喧騒が消えている。

 

 「あ、あそこあそこ!」


 「…あれか」


 小高い丘の上、赤煉瓦の大きな家が見えてきた。

 屋根が崩れかかっていたり、家の周りの柵が朽ちかけていたり、やたらとおどろおどろしいが…


 「ありがとう、お前はもう帰れ」


 「うん?あたしの家はここだよ?」


 「……」


 だから案内できたのか。

 内心でそう思いながら、彼は館の門まで来た。


 「せんせー。アマデオせんせー」


 「おお、ジータ。お帰り…はて?その人は?」


 「道に迷ってたの。ここに来たかったんだってー」


 「ほお、それはそれは」


 庭で小さな畑を耕していた老人がこちらに来た。

 白髪交じりの茶髪と開いているのかわからないほど細い目の老人、柔和な笑みを浮かべている。


 「…ここにエイルバーという男はいないか?」


 「はて?エイルバー?そんな男は知らんですなあ」


 顎に手を当てながら即答された。


 「いや、ここで間違いない」


 「いや、居ませんぞ」


 「ここにいる」


 頑ななキマイラ、そんな彼に呆れたような顔をしつつこう言った。


 「仕方ないのお、ついてきなされ。職員名簿がある。それを見ればそんな人間がいないことがわかるじゃろう」


 「ああ、頼む」


 家に向かって歩いていくが…


 (遅い…)


 老人の歩く速度が亀だ。

 とても遅い。


 「ああ、クルツ。後でお茶を持ってきておくれ」


 通りすがりに若い男性に話しかけてた。






 「こっちですじゃ」


 「……」


 家の中に入ると、ボロボロではあるがちゃんと掃除がされていて綺麗だ。

 ある程度歩くと一つの部屋にたどり着いた。

 扉には何か文字が書かれているが、読めない。


 「よいしょと」


 ギギギギ、不快な音を立て扉を開ける。


 「さあ、入ってくだされ」


 「ああ」


 老人と一緒に部屋に入り、扉を閉める。

 窓が一つあるだけの薄暗い部屋だ。


 「…そろそろ本性を現したらどうだ?エイルバー」


 「…やれやれ」


 そうつぶやくと目の前の老人が突如若い男に変貌した。

 先ほどの老人とは似ても似つかない。

 くしゃくしゃの明るい茶髪に細い目、キマイラと同じぐらいの背丈の男だ。


 「変身魔術か。最初は気付かなかったな」


 「うまくなっただろう?けど今度から外では『エイルバー』の名前で呼ぶのはやめてくれ。ギースに気付かれる」


 「そうだな。すまない」


 「分ったならいいさ。…久しぶりだな、キマイラ」


 「ああ、久しぶりだ。エイルバー」


 お互いに笑顔で挨拶をかわし、彼は窓際においてある机から葡萄酒の瓶を取り出した。


 「たしか500年ぶりか。お前と会うのッ…はッ…」


 力を込めて栓を抜こうとするが、全然抜けていない。


 「そうだ、あの日。エルが死んだ日だ」


 キマイラは彼から瓶を受け取り、代わりに栓を抜いた。


 「お前は魔術の才能はあるが単純な力は弱いな」


 「まあな。で、用事はなんだ?引きこもっていたお前がわざわざ出てきたんだ。何かあるんだろう?」


 行儀悪く机に座り、杯に入れることなくそのまま飲む。


 「…俺と一緒に来る気はないか?」


 酒を飲むエイルバーの手が止まる。

 黙って酒瓶をもらい、キマイラもそのまま一気に酒を飲んだ。


 「クラウから聞いている、お前、また無関係の人間に手をかけているそうじゃないか。それに各都市の犯罪組織ともかかわりがあるらしいな?」


 「クラウか…懐かしい名前だ。」


 「はぐらかすな」


 「そうしてでも果たしたいのさ、キマイラ。あの男を、ギースを殺す。お前だってそうだろう?エルフリーナ嬢の仇を討ちたくないのか?」


 彼から酒瓶を受け取り、再び傾けるが中には一滴も残っていなかった。

 残念そうな顔をしながら、また机の中を覗き込む。


 「……」


 「それに、俺はギースを許せん。何が何でも殺してやる。たとえ人間を犠牲にしてでもな」


 「戦争になるぞ。今度は魔術師と人間でだ」


 「そうなることも厭わない」


 酒瓶を今度は2本取り出し、キマイラに渡して開けてもらう。

 片方を受けとってそのまま飲んだ。


 「やはり、お前とは相容れないな」


 「ああ、そうだな。…今日は飲もう。久々に会えて嬉しいのは事実だからな」


 「…ああ」


 二人は黙って酒瓶で乾杯した。


 「そういえばお前、人間の女の子を家に連れ込んでるみたいだな。恋人か?」


 「違う。…やむを得ず置いているだけだ」


 ふーん、そう言いながらにやにやとした笑顔を浮かべる彼。


 「ん?誰だ?」


 ふいに、扉をたたく音がする。

 

 「入ってくれ」


 「失礼します」


 そういいながら入ってきたのは先ほど彼がお茶を頼んでいた青年。


 「紹介しよう。ベッファだ。エルフリーナ嬢が討たれた時、そばに居た」


 「あの時か」


 青年は変身魔術を解き、本来の姿に戻った。

 黒髪、黒目の青年だ。


 「お久しぶりです。キマイラ様」


 「正直覚えていないが」


 「そうでしょうね。あの時しか会っていませんから」


 「それでベッファ、一体何があったんだ?」


 「いや、お前が茶を持って来いって言ったんだろう?」


 だが、彼の手にお茶などない。


 「あれは俺たちの隠語さ。『人払いをしろ』そういう意味だ」


 「少しエイルバー様のお耳に入れたいことが…」


 そう言うと彼はエイルバーにだけ聞こえるように手で口元を隠しながら耳元で囁いた。


 「…分った。下がってくれ」


 「はい」


 彼を下がらせると、エイルバーは深刻そうな顔でキマイラに向き直る。


 「キマイラ、すぐに帰ったほうがいい。東が攻撃されている」


 「何だと?」

 


 


 


 


 

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