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第二十一話

 「帰りました、キマイラさん」


 夜明け前、村から帰ってきて離れに行くと井戸の水で体を洗っているキマイラが居た。

 長い白髪を振り回し、乾かそうとしている。

 

 (犬かな…)


 「なんだ、帰ってきたのか」


 「はい、帰ってきました」


 「儂もなー」


 こちらに気付いた彼はこちらに向き直ることもなくそう言った。

 そっけないが、それが彼なんだろう。


 「色々もって帰ってきました。生活に必要なものとか…」


 「そうか」


 鬱陶しそうに髪を後ろに撫でつけ、いつものように上を羽織る。


 「ドリュアス、留守を頼んだ」


 そういうと彼は、背中から翼を生やした。


 「ああ、分った」


 「?」


 何処かに飛び去って行った。

 





 「ねぇドリュアス?キマイラさんって何処に行ったの?」


 離れで家から持ってきた荷物を整理しながら、ドリュアスに尋ねる。


 「さあ?」


 「さあって…心配じゃないの?」


 空を飛ぶ人間なんて見つかれば騒ぎになるだろうに…


 「心配?いざとなれば暴れて全て無に帰すわ」


 「それが心配なんだけど…」


 「余計なことは考えるでない、あいつもたまには羽を伸ばしたいときもあろう」


 「そんなものなのかな…あ」


 荷物の中に入れていた小さな銅の札に目が留まる。

 麻の紋章と文字が刻印されたもので、革紐がついている。


 「何じゃそれ?」


 「持ってきちゃったんだ…無意識のうちに」


 「だからなんじゃそれ?」


 興味津々に札を見つめるドリュアス。

 

 「この国の、医療関係の仕事をする人間の証。国家試験に合格したら、これがもらえるの」


 「ほー、簡単に作れそうな証じゃな」


 銅を溶かして、型に流し込んで、文字の刻印、確かに簡単だろう。


 「無理、登録するときは似顔絵と個人情報記録されて3年ごとに更新しなきゃならないもの」


 「何とも手間なことを…」


 「この制度になる前は何の効果もない雑草を売ってたり、何の知識もない人が治療してたりしたから。仕方ないよ」


 彼女は札を、机の上に無造作に投げた。


 「おいおい、大事なものじゃろう?しまっとけ」


 札を拾い、再び握らせるドリュアス。


 「もう、使うこともないから」


 彼女自身はもう人間じゃない、あの村に戻るつもりもない。

 人間に薬草を処方することもないのだから、必要ない。


 「ミリーよ。お前さん他の村で薬草屋することもできるじゃろう?この札があるんじゃから」


 「……」


 確かにできないことはない、だが…


 「人間が怖いのか?」


 「…もう、裏切られたくないから」


 「そうか…じゃがこれは持っとれ。きっと役に立つ日が来る」


 手のひらに握らされた小さな札、かつてはこれが彼女の誇りだった。

 なのに今は…価値の無いゴミに見える。


 「…とりあえず荷物の整理と、あとは掃除しとかなきゃ」






 「すまない。この近くにエイルバーという男が住んでいると思うんだが…知らないか?」


 ところ変わって帝都、キマイラはそこにいた。

 白服、長い白髪、おまけに紅い目と目立つ格好で露店の店主に話しかけている。

 

 「知らねぇな。大体ここは帝都だぜ?人なんて沢山いる。いちいち覚えてられねぇよ」


 がやがやとうるさい帝都、見渡すかぎり人、人、人…これでは知らなくても仕方ない。


 「そうか…なら孤児院を知らないか?」


 「孤児院?ああ、あるぜ。そこの立て札見て行きな。地図書いてある」


 売り物の大鍋に入った粥をかき混ぜながら突然話しかけてきた男に訝しげにしながらも彼は教えてくれた。

 粥からは香草の臭いがして大変食欲をそそられる。


 「ありがとう」


 「ああ、それとお前さん粥買っていかねぇか?」


 店主は鍋を指さしながら笑顔でそう言った。


 「…金を持っていない」


 「んじゃとっとと行っちまえ」


 店主の笑顔が消えた。

 彼は特に気にすることもなく教えられた場所にある立て札を見る。


 「…………」


 (読めない…)


 文字や記号が立て札には書かれていたが、彼にはそれを読み取ることができなかった。


 「どうするか…」


 「お兄さんどうしたの?」


 立て札の前で悩んでいるところ、小さな少女が話しかけてきた。


 「孤児院を探している」


 「ここに書いてあるよ?」


 「………」


 少女は地図の隅を指さすが、全くわからない。


 「もしかして字分からないの?お兄さん」


 「…ああ」


 「駄目だよ学校サボっちゃ。仕方ないから、今日は私が案内したげる」


 そういうと少女は元気いっぱいに走り出した。

 それを彼は歩いて追いかける。


 「早く早く!置いてっちゃうよ!!」


 「……」


 自分よりも圧倒的に若い人間に助けられ、屈辱感を抱きながら追いかけた。

 

 

 

 

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