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第十八話

 「う…ん」


 ミリーは鉛のように重いからだを起こす。

 周囲を確認する…いつもの館の離れだ。

 空はすっかり暗くなり、夜になっていた。


 「気がついたか」


 「エイラさん…」


 「どうだった?」


 「…目の前で産みの親を殺されていたなんて」


 体験した時、ずっと彼等を見ていた。

 後半になるにつれ、見ているのも辛いし声も出なかった。


 「そうだな。アイツはキマイラを愛していたし、キマイラもアイツを愛していた」


 「………」


 「それを、あの男は私利私欲の為に殺してしまった」


 拳を固く握りしめながら、彼女は憎々しげに言った。


 「キマイラさんは…今何処に…」


 「館の屋根を見ろ」


 言われて彼女は目を凝らす、彼は館の屋根の上で白髪をたなびかせ空を見上げていた。

 

 「ちょっと、行ってきます」


 「ああ」






 「キマイラさん!」


 壁をつたって登って行こうとしたが…

 どうにも上手くいかないものだ。

 

 「…………なんだ?」


 結局下から声をかけるが彼は相変わらずの仏頂面。

 顔だけ出して不機嫌そうである。


 「その…降りてきて話しませんか?」


 「話すだけならこれでいいだろう」


 「それはそうなんですけど…ああもう!」


 彼女は周囲を見渡すと1本の木が目に入った。

 

 (屋根と少し離れてるけど…飛び移れば大丈夫?かな?)


 枝を掴んで、登っていくミリー。

 

 「今行きますね」


 「…………」


 やっとの思いで登りきり、屋根に飛び移ろうと覚悟を決める。


 「やっ」


 短い掛け声と共に飛んだ。


 (あ、届かないや)


 飛距離が足りず彼女はそのまま落下、地面に叩きつけられるはずだっただろう。

 しかし…


 「あ、あれ?」


 「何をやってるんだ。お前は」


 彼女の胴に、キマイラの腕から出た蛇が巻き付いていた。


 「わっ、と…」


 そしてそのまま彼はミリーを引き上げ、屋根に降ろした。


 「ありがとうございます」


 「…話はなんだ?」

 

 「あ…」


 (何話すか考えてなかった)

 

 互いに向き合ったまま、一呼吸ほど沈黙。

 そして…


 「綺麗な星空ですね」


 星空を見上げて一言。


 「…は?」

 

 「ここでよく星を見てるんですか?」


 (何でこんなこと聞いてるの私は)


 夜空を眺めながら、そんなことを聞いてみた。

 彼の顔は見えないが恐らく呆れていることだろう。


 「星はよく見ている。そんなことを聞きに来るためにお前は落ちそうになってたのか?」


 「ええ、はい…」

 

 「馬鹿だな」


 「あはは、そうかもですね」


 呆れながら、彼は屋根の上に寝っ転がった。

 それを見届けたのち、ミリーも屋根に腰を下ろす。


 「星、分かるんですか?」


 「…いや」


 顔を向けず、感情のこもっていない声で答える。


 「北に見えているのが旅人が方向を知るための星、そこから少し南に見えている星座が獅子…それから…」


 「お前は学者か何かだったのか?」


 「え?いや違いますけど。私たちは一定の歳まで学校で物事を学ぶのが義務になってますから。星に関してもそこで習ったものです」


 「そうか…呑気に星座なんて習う暇があるのか」


 「そんなこと言わなくても」


 嫌な言い方をされた、彼女は言い返そうとしてキマイラの方を向く。

 彼は意外な顔をしていた。


 「………」


 無表情でも、仏頂面でもなく。

 ただ穏やかに笑っていた。


 「お前はもう寝ろ。また倒れるぞ」


 彼女の視線に気付いたのか、彼は元の仏頂面に戻り手払いしてきた。


 「はい。それじゃ」


 彼女は立ち上がり、屋根から降りようとして…


 「キマイラさん」


 「なんだ?」


 「降ろしてくれませんか?」


 「………」


 呆れられた。






 「どうだった?何か言えたか?」


 「いえ…」


 離れに戻るとエイラが膝を貸し、クラウが横になって寝息を立てていた。

 鎧を着けているが痛く無いのだろうか?

 

 「前途多難だな。まあいい。それ」


 「?」


 彼女は背中に置いていた麻袋をミリーに手渡した。

 自分の身長の半分程の大きさのそれは思いの外軽かった。


 「これって…」


 「私のお古で悪いが服と靴が入ってる。使うといい。流石にいつまでもボロ布一枚は辛いだろう?」


 「ありがとうございます」


 「クラウに言ってくれ、お前が寝ている間に取ってきてくれたんだ」


 「そうだったんですね。ありがとう、クラウちゃん」

 

 疲れたのだろう、まだ寝息を立てている彼女の茶色い頭を優しく撫でた。

 

 「さて、私達は明日にはここを出ていく。暫く会えないだろうが、まあ、上手くやってくれ」


 「はい。色々ありがとうございました」


 うむ、笑顔でそう返すと、彼女も目を閉じた。

 

 「私も、そろそろ寝よう」


 石畳に横になりながら、館の屋根を見る。

 まだキマイラはそこにいる。


 「………………」


 静かに空を見上げる彼は、何を考えているのだろうか…

  

  


 



 

 


 



 

 



 


 

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