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第十二話

 麻の服に葉っぱと小枝を張り付けた2人組が山の中を行く。


 「ひどい匂いだ…」


 皇帝が化け物が潜むという山に訪れると、強い腐敗臭が鼻をつく。

 ふもとの村にもわずかながら臭いがあったが、ここに比べれば天と地ほどの差があるだろう。


 「陛下、危険すぎます。何も直々に出向くことなど…」


 護衛の兵士が心配そうにこちらを見る。


 「安心しろ。私が死んでも、他の者がきっと私の意志を継いでくれる」


 「陛下を死なせはしません。何があろうとお守りします」


 「忠臣を持って私は幸せだ。だがここからは声は控えてくれ」


 「はい」


 彼はそばに転がっている死体を観察してみる。

 城で見たのと同じように酸で溶かされたような遺体だ。

 後方にいた兵士たちは鉄の鎧を踏み砕かれて死んでいる、粘土を踏んだようにぐにゃりと歪んでいる。


 (あっちだ)


 彼は聞こえるか聞こえないかの声量で右前方を指さしながらゆっくり音を立てずに進んでいく。

 

 (なぜわかるのです?)


 (日にちは経っているがうっすらと足跡、というか小枝がおられたりしてる。こっちに人が通った証だ)


 (なるほど…)


 (しかし不思議だ、これ程の毒を広範囲にばら蒔いてなぜ動植物が無事なのだ)


 周囲を見渡すと烏が遺体を啄んでいる、草木は枯れても朽ちてもいない。

 死んでいるのは人間だけだ。


 (…警戒しろ)


 (はい)


 




 山に入って数時間、開けたところを見つけた。


 (見えるか?)


 匍匐前進しながら目を細める。

 木立の向こうになにやら建物が見えていた。


 (ええ、館…でしょうか?)


 少し離れた前方にある館、元はかなり立派な作りだったのだろう。

 今は荒れ果てまさに化け物が出てきてもおかしくなさそうな雰囲気ではある。


 (…誰か出てきたな。長い白髪、白い服の男…あれが件の化け物か)


 (撤退しましょう。近づきすぎています)


 (いや、もう遅い)


 彼等の方を、紅い瞳が睨んでいた。

 無言ではあったが間違いなくこちらに気付き、明らかにこちらに近寄ってくる。


 「それなりに隠れるのには自信があったのだがな」


 「陛下!?」


 皇帝は隠れても無駄なのを悟り、そのまま白髪の男の前に出ていく。


 「誰だ?貴様は」


 「私はこの大陸を統べる皇帝、ルチルス=ヴァニーニである。そなたは…『化け物』で相違ないか?」


 「…皇帝だと?あの臆病者の子孫が今更何の用だ?」


 訝しげに目を細めたあと、目の前の男はそう言った。

 てっきり殺しにかかってくるかと思っていたが、意外な言葉が帰ってきた。


 「そなた、私の先祖を知っているのか?」


 「俺は何の用かと聞いたんだ。答えるか、消えろ」


 「そなたは本当に化け物なのか?私の民を殺したのか?」


 皇帝の言葉に、目の前の男は黙って…


 腕から巨大な虫の足を出した。


 「ッ!?」


 驚愕する彼の首筋に男は出した虫の足を突き付けた。


 「…俺は人を殺した。そして貴様は今人殺しの化け物の前にいるんだ。さあ、どうする?」


 「私に仕えないか?」


 「………は?」


 突然の言葉に、彼は目を丸くした。


 「我が国には今、海から来る蛮族に悩まされておる。3000の兵士を退けたそなたが味方になればこれ程頼もしいことはない」


 「ふざけているのか?」


 「いや、真面目だ。どうだ?」


 「断る。貴様の先祖が起こした戦争のせいで、俺は大事な人を失った。子孫とはいえ、貴様に付き従うなど反吐が出る」


 「…交渉決裂か。なら一つ約束をしてくれ。私の民を傷つないでくれ。さもなくば私はそなたを滅ぼすことになろう」


 「俺は後にも先にも自分から人間を襲ったことなどない。貴様等が危害を加えないならその約束を守ろう」

 

 「良いだろう。ではな…あー名前を聞いていなかったか。そなたの名は?」


 「…さっさと失せろ」


 「そうしよう。いやまて、そこにいる女人は人間か?」


 「………」


 キマイラの後ろ、ずっと黙りこんでいて動きもしないが確かに人がいる。

 …いや、人に見える者がいる。

 赤毛の女でぼろ布を纏った少女だ。


 「彼女が人間ならば、帰してやってくれ」


 「…皇帝陛下」


 ずっと黙っていた少女が口を開いた。


 「そなたは、人なのか?」


 「…元は人でした。ですが今は違います」


 「元は?」


 「彼に命を救われました。その時に…」


 (人間を助けたのか?)


 驚きながら彼とこの少女を交互に見る。

 まさか恋仲なのか?


 「そうなのか…元居た場所に帰りたいとは思わないのか?家族も心配しているであろうに」


 「私に家族はおりませんし。なにより今の私に居場所はありません」


 「…分かった。今日のところはひとまず帰ろう。そなたは気が変われば私の城に来るが良い。あー、名前は…」


 詳しく事情を聞こうとは思わなかった。

 彼女があまりにも悲しげな顔をしていたから。


 「ミリエラと申します」


 「良い名だ。ではな」


 彼はそのまま踵を返すと、そのままもと来た道を帰って行った。

 

 

 

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