第十話
「やれやれ、あれから3日もかかるとは…」
「へとへとです」
「………………………」
汗やら土埃やらでドロドロの2人、それと疲労で瀕死の1名。
エイラ、クラウ、ミリーである。
庭を直して、今しがた離れも修理が終わった。
庭は埋め立てるだけで済んだが離れはそうはいかなかった。
最終的には屋根の修理、それと塀の積み直しで満足することにした。
「人が住める状態じゃないからな。寝床すらない」
「藁は無いですし、暫くは雑魚寝ですね。それと…」
「うん?」
「なんだか…ふらふらします」
そう言うと、ミリーは倒れた。
「ミリー!?おいどうした!!」
慌てて彼女に駆け寄るエイラ、しゃがみこんで確認すると目は開いている、だが焦点が合わない。
おまけに顔色も悪い。
「クソッ。どうしたら…クラウ!治癒のま」
「退かんか、阿呆」
しゃがんでいたエイラを蹴り飛ばし、何処からかドリュアスが現れた。
なぜか手には籠が握られている。
「ほれ、ミリー。飯じゃ食え」
「……………」
籠の中には幾つかの果物が入れられている。
だがそれを差し出しても、ミリーは反応しない。
「全く、世話のやける…」
そう言うと彼は籠から梨を出してそれをそのまま口に放り込んだ。
「…?ドリュアス?」
すると彼は咀嚼しながらミリーに口移しで飲ませた。
ゆっくりと嚥下していくのを見計らって彼はまた梨を口に入れる。
「まさか……」
「空腹と疲労じゃよ。腹が空けば勝手に食うかと思って放っておいたが、まさか倒れるまで動き回るとは」
「気付かなかった」
「まあ、仕方ないわな。お主等は飯は要らぬし、キマイラもそこらの草でも食っとけば満たされるからの。さて二人共、ミリーを連れて来てくれ。ここは体に良くはない」
「…ここは?」
「お、起きたか」
目を覚ますと何時のまにやらベッドに寝かされていた。
埃まみれではあるが雑魚寝よりは何倍もましだ。
傍らにはドリュアスもいる。
「…私は」
「空腹で倒れたんじゃよ。何か食う暇ぐらいあったじゃろう?腹も減っとらんのか?」
「こんな体になったから、食事なんて要らないって思ってた…空腹感も体が勘違いしてるんだと思って…」
「馬鹿じゃのう。まあ良い、ほれ食え」
ドリュアスは先程持っていた籠をミリーに手渡した。
「ドリュアスが助けてくれたの?」
「ああ、そうじゃよ」
えっへん、胸を張りながら誇らしげに語るドリュアス。
「ありがとう」
栗色の頭を、ミリーは優しく撫でた。
「…子供扱いするでない」
「ごめんね。ふふっ」
拗ねている彼は可愛いものだ。
「うん、甘くて美味しい」
籠から梨を取り出して一口囓る、食感がまろやかで甘味も香りも強い。
いい梨だ。
「…?」
ふとあることに気付く、手にした梨の反対側が既に囓られているのだ。
「私いつの間に食べたっけ?」
「ん?ああ、それはさっきお前さんに食わせた梨じゃな。全く、わざわざ口移しで食わせてやったんじゃ。もう少し感謝せぇ」
何でもないように言うドリュアスに彼女は赤面した。
「く、口移し…」
「ん?何じゃ、恥ずかしいのか?」
「う、うん、まぁね。…初めてだったし」
思わぬ反撃を食らった、という気分だ。
「ふむ、すまなんだの。恨むなよ」
全く悪びれていない。
「ううん。助けてくれたんだもの。そんなこと思ってない」
「なら良い。今は休め。キマイラと同じじゃ、飯も食わねばならぬし、休みも要る。そうしなければ死ぬぞ」
「キマイラさん、食事するんだ…」
「まあな」
「でも、彼が物を食べてる所なんてみたことないけど…」
「ああ、そこいらに生えとる雑草むしって食うとるからの」
「…………………………………………………………え?」
なんと言うか、彼が雑草をむしってそのまま食べている所を想像すると…
複雑な心境だ。
「じゃあの。養生せぇ」
彼はそう言うと柱に手をあて、そのままずるりと柱へ入っていった。
「…ここに居ていいのかな?」
周りをよく見ればここはキマイラが住んでいる本館だ。
彼は離れなら住んでいいと言っていた。
(ここに居たら殺されるんじゃ…)
そう思ったミリーはベッドを抜け出して…
「うわっ!?」
盛大に転んだ。
「イタタ…」
まだ少しフラフラしている。
心なしか視界も歪んでいるような…
(…あ、駄目だこれ)
視界が真っ暗になる寸前、誰かが館に入ってきた。
そしてそのまま、彼女は意識を失った。
「………う、ん」
再び目を覚ますと、彼女は先程いたベッドにまた寝かされていた。
「…キマイラさん?」
ベッドの角に、こちらに背を向けて座っているキマイラの姿があった。
背中越しなので見えるのは長い白髪だけで表情は見えないが…
「えっと違うんですキマイラさん!私気付いたらここで寝かされてて別に自分から入って来たわけじゃ!すいませんすぐ出ます」
慌ててベッドから出ようとした。
だが…
「休め…」
そっぽを向いた状態で腕だけ伸ばし、額を人差し指で押されそのままベッドに逆戻りした。
「あ、あの…」
(まさかキマイラさんがはこんでくれたの?)
「お前は俺と同じ化け物だ。だがほとんどは人間、食べなければ死ぬし、疲弊もする」
「………」
「回復するまで寝ていろ。いいな?」
「は、はい」
彼の表情は全く見えないが、これは気遣っているのだろうか?
それから彼は一言も喋らないまま次の日までベッドに座っていた。




