プロローグ
「なあ、あの山の話聞いたか?」
酒が入った男達で賑わう酒場、樽を机の代わりにしながら3人が飲んでいた。
「聞いたさ。山に居る化け物をぶっ殺したら報酬は思いのままってやつだろ?」
ビールを飲みながら赤ら顔の男が話す。
「それもなんだがな。あの山に貴族様が私兵を2000ばかし向かわしたんだと」
「ほう、それで?」
「だれも帰って来なかったんだと。…ああいや嘘ついた。一人帰って来てこう言ったそうだ。あの化け物には近寄るな、あいつは剣でも弓でも殺せない、と」
「おっかねぇな!酒の肴には丁度いい。お前はいつも人を脅かすのが下手なんだよ!ふはははは」
「全くだ。へへっ」
「どうせもう化け物なんざぶっ殺してるさ。金を稼ぐ為に噂ながしてるだけだよ」
話をしている赤ら顔の男以外誰も信じていなかった。
かくいう彼自身も半信半疑、酒の席だから話しただけのことだ。
そして3人は笑いながらビールを煽った。
「突然すまん。今から化け物退治に行くが兵士が足りない!この中に腕のたつ者がいるなら名乗り出てくれ!報酬は前金で金貨3枚、終わったらさらに3枚くれてやる!」
男達が酒を飲んでいる最中、鎧姿の兵士が現れこう言った。
金貨3枚、平民が半月働いた分の給料と同価値の金を前金で出すとこの兵士は言ったのだ。
「おい、俺達も行こうぜ!」
「景気のいいはなしだな。乗った」
「俺は止めとくよ。こんな話、裏がありそうだ」
「今から出発する!行くものは早くこい!」
山に到着した瞬間、兵士達はざわついた。
先に来ていたであろう兵士の死体が山を成していたのだから。
吐き気を催す死臭が漂うなか、木々の間から毒々しい斑模様の鱗が視界に入った。
「消えろ………逃げる者は追わない」
木々の間から現れた化け物はそういった。
胴体と思われる部分からは出鱈目に蛇の頭が生え、足は鳥のような物が一本、それとは別に烏賊の足のような物が無数に生えている。
そんな異形の生物に集まった兵士たちは驚愕した。
「化け物よ!私は貴様を倒しに来た!!わが王のため手ぶらでは帰れぬ。貴様の首もらい受ける!!」
「ならば死ね」
兵士たちの前に現れ竜が描かれた盾を構えた将軍に蛇の頭が襲い掛かる。
「くそ、不意打ちとは卑怯な!!」
「黙れ、消え失せろ」
兵士たちに向けられた無数の蛇の頭からどす黒い霧が勢いよく吐かれた。
「なんだこれは!?うっ、ごほっ」
黒い霧に触れた兵士たちは瞬時に皮膚がただれ、口から血を吐いた。
至近距離から受けたものは幸せだっただろう、苦しむ間もなく即死できたのだから。
それがかなわなかった兵士たちの生き残りは地獄の苦しみの中で地面をのたうち回っている。
「ば、化け物めェッ!!」
「無駄だ」
振り下ろした剣を枝を払うように無造作に触手でないだ。
「もう一度言う消え失せろ。力の差は明白だ。総員全滅など誰も願うま…」
化け物の言葉をさえぎるように化け物の胴体めがけ巨大な石が降り注いだ。
「は、ははは。そうだ!投石器で遠距離から狙え!化け物め、くたばるがいい」
「……本当に、人間は度し難い」
化け物は胴体にめり込んだ石を退けると兵士たちが石を投げてきたところに向かって猛然と突進した。
「uraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
絶叫と同時に木々をなぎ倒し、猛然と突き進む化け物。
それに接触した者は鎧もろとも粉々に砕かれ鮮血を大地にぶちまけた。
「逃げろ!!早くしろ!!」
生き残った僅かな兵士たちが散りじりになって撤退していく。
「最初からそうすればよかったのだ」
化け物は蛇の頭、無数に生えている触手を胴体に引っ込めた。
肉塊と化した胴体はすこしの間蠢いたかと思うと突如形を変えた。
白髪をたなびかせ、紅い瞳を持った人間へと…
「お、お前。人にも化けられるのか」
恐怖で震える男をゴミを見るような目で睨んだ。
「まだいたのか、人間」
逃げ遅れた男が、腰を抜かしながら化け物だったものに問うた。
「失せろ。それ以外言うことはない」
これ以上戦う気のなかった化け物は背中を向け、森の奥へと帰っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
よろしければ評価、感想をお願いいたします。