第一章-6 契約のCRYSTAL
シャドウが使う〝魔法コード〟は、初期魔法でしかない
弱いステータスだけど、勝てる要素はあるのか……?
「《ミスト・スモーク》!!」
ボッ!!
「――――な!?」
彼の手の内に生成された白い水玉は、そのまま爆発する様に。
瞬く間に白い霧が、天烏兵の視界を覆い尽くす。
「み、見えない……!」
別にフレンド登録とかパーティー申請とかしてないので、アイリスも見えてない。
「………………」
唯一この場を把握できる彼はいち速く、〝モバイル〟からポーションを実体化させる。
フラフラな後退、3割も満たないHP。
飲んでも、5割に行くかどうか。
「……く」
死の緊張が、彼の胃を吊り上げる。
マップ阻害が続く中で、アイリスと合流する。
「……オイ、アイリス!」
「え、シャドウくん!?」
〝くん〟呼ばわりかよ
もうちょっと疑え
と、呆れながらも。
「……とりあえず、《鈍刀》をよこせ! 突っ切るぞ!」
「え? でも……あ」
言葉を濁していたアイリスの肩を掴む。
「……《ミスト・スモーク》の持続時間は短いんだ。このまま逃げても、他のヤツが犠牲になるぞ」
「ッ!?」
その言葉に反応するアイリス。
「…………」
見つめる彼の脳裏にクッシーが、メイの姿が思い浮かぶ。
だから、あんな言葉が出た。
「だから、突っ込む。アイツさえ潰せば、あとは――――」
感情的になり過ぎた。
すあ……!!
「……!」
掴んでいた肩を押すように、突き飛ばした後。
ザン!!
〝呪力〟で出来た斬撃が、飛んできた。
「……くっ!」
冷たい感触の様な察知がなければ、死んでいた。
ギリギリでかわした後、すぐに〝魔法コード〟を放つ準備を整える。
「…………」
もうすぐ、《ミスト・スモーク》の効果が切れる。
「――――」
彼のマップに、テロリストらしきアイコンがこちらに向かっていく。
ゆっくりと、足音が聞こえそうな速度で。
「……〝魔法コード〟」
ステータスを確認する。
……クソ、MPが……!!
最低値、一発分。
武器がない以上、かなりの制限がかけられる。
「……終わりだ」
姿が見えた。
「〝人神〟!!」
走って、斬り付けようと。
刀を振るってくる。
「……!!」
どうするか。
そう思考した瞬間に、また〝何か〟。
『――――』
繋がった。
「……はっ!?」
ノイズが視界を奪っている。
でも弾く音が聞こえた。
砂嵐が聞こえた。
「…………っ」
なん、だ……これ……?
力が奪われてる感じがする。
身体が動かなくなっている。
『――――』
ノイズの間に、真っ白い少女が見える。
表情が見えない。
画質が悪い。
「――――」
もはや、その顔を伺う事しかできない。
白い背景に、子供の緑色の眼光が目立つ。
『――――あな、たは』
声、と言うより頭の中で補完している様な響き。
『――――何?』
砂嵐が混じった質問に、悪寒とも言える感触が。
彼の身体中に駆け巡る。
「…………」
思考停止に陥った時に。
アイリスの声が。
「――――シャドウくん!!」
物が飛んでくる。
「……!」
眩い光を放ち。
こちらを呼応する様に、存在感を放つ。
「――――」
極めて異質で、黄緑色の光。
まるで、あの子供の瞳の様――――――
「……〝生命結晶〟だと!?」
驚愕した天烏兵にも目もくれず、〝光放つ水晶〟にも目も離せず。
伸ばした手が、〝水晶〟に触れようとした瞬間。
――――――《結晶化》が始まった。
「――――――」
凍る様な、盛り上がる様な、光が広がる様な。
視界だけでは、触覚だけでは分からない〝超常現象〟。
「《契約》して!!」
アイリスの声が聞こえる。
「〝その子〟はきっと、アナタの力になるから!!」
『――――――』
白髪の少女。
〝霊体〟で、ツインテールの様なまとめ方をした。
短髪の少女。
「――――――」
あなたは何?
その言葉が、引っ掛かる。
いや、〝意味〟が分かる。
……オレは……
何になりたかったのか。
過去の記憶が過る。
トラウマ、後悔、恨み。
ほとんどが〝負の感情〟で出来ている。
「――――――」
彼は手を伸ばす。
怒りや殺意で〝力〟を欲する様に。
でも。
『―――――』
友達の笑顔が。
妹の笑顔が、忘れられない。
一緒に遊んだ記憶が、彼の心を。
『――――』
本当に欲した〝力〟の《理由》を。
思い出していく。
「――――オレは――――」
〝何になりたかったのか〟。
正直に言えば、分からなかった。
何もない、無力な少年だから。
『――――』
それでも、彼は手を伸ばす。
「――――皆を守る、〝存在〟になりたい――――」
『――――』
それが、《望み》
そう告げられた気がした。
その本音に、白い女の子は微笑んでいた
次回もお楽しみに!!
更新は6月の12日か13日です