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気がつけば、新世界!?  作者: 土装番
この拳は何を穿つために
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この拳は何を穿つために 21

 コツコツと前方から聞こえてくる、足音と一人の女性の声。大我はその声に聞き覚えがある。

 倒れた少年の前に冷笑混じりの称賛を交えて現れたのは、大我が生きていた時代、現代的な漆黒の洒落た服装に身を包んだ、推定年齢二十歳程の銀髪ショートヘアーの女性だった。

 世界樹ユグドラシルを中心に広がる巨大なファンタジー世界の一帯。その世界観に似つかわしくないその服装。そしてアリアが構築した世界の法則に真っ向から押し曲げる力を持つバレン・スフィア。

 まさしくその女性こそが穢れの塊の主、数え切れない人々を恐怖と不安に落とし、この世の地獄を構築したフロルドゥス本人だった。


「せっかく集めた雑魚を壊されたのは癪だけど、まあどうせ集めちゃえばいいし、ワルキューレも造ればいいし。あの三人は……スペックは下がるけど繋ぎ合わせて直すとするわ」


 地面に虫の息で突っ伏した大我をよそに、どこか楽しそうにこれからの補充案を話すフロルドゥス。

 まるでこれまでの戦いなどどうでもよかったかのように、ただの余興でしかなかったかのように軽い感情で、倒れた大我に言い聞かせるように口にする。


「さて、これからどうしようかしら。遥か昔に絶滅した筈の生身の人間がこうして生きてるなんて、保護してあげなきゃいけないくらいの貴重品だけど……あんた、私にとっては邪魔でしかないのよ」


 声色がこれまでの楽感的な物から、不快さの籠められた低い声に移り変わる。

 自覚無き機械人達の内面へと一方的に侵略が出来るというあまりにも優位な能力。それが通用しない、確固たる意志と力を持った相手の存在は、例え一体でも邪魔でしかない。

 蟻一匹の侵入をも許さない堅牢な城塞に一箇所、脆く劣化してしまった部分が生まれてしまったようなものである。

 不穏分子は早急に排除するに限る。フロルドゥスもその考えを持っているが、一つの言葉がそれを小さく縛っていた。


「けど、あんたは殺さないようにって言われてるのよね。どんな状態でも、四肢を切り落としてでもいいから生かせって。はぁ……貴重な人類だからなのはわかるけど、今更生かしてどうするんだか」


 フロルドゥスの独り言を、だんだんと遠くなる耳でぼんやりと聞き続ける大我。

 全身がぐちゃぐちゃにされているような苦痛と雑念と濁流に飲み込まれていくような揺らぐ思考。今自分が生きているのかという確証すらもわからない。

 だがそんな中でも、とても単純に感じることがある。ぼやける視界にほんの僅かに写る足と聞こえてくる声。

 それは間違いなく、このバレン・スフィアの主。今倒すべき敵。ここまで来た最終目的だ。


「この世界に勝つように私は造られてるし、事実勝てるのは神しかいない。……ふふっ、ただの人工知能なのに、結果的に神を名乗るなんてお笑いだわ」


 大我はか細い蜘蛛の糸を手繰り寄せるように、ポケットにゆっくりと手を伸ばす。もう殆ど余力は残されておらず、石ころ一つ掴めるかも怪しい。

 そんな事切れる直前のような状態で残された最後の手段に、大我は直感的かつ単純な思考で手を延ばした。


「長い間準備を続け、来る時まで退屈だけどずっと待機し続けるなんて、どれだけかかるかもわかんなかったけど、あの命知らずのバカ達とあんたはいい暇潰しになったわ。もうすぐアリアは終わりを迎える。チェックメイトにも気づかずに」


 文字通りの見下しの目線を大我へと向け、一歩一歩近づいて爪先で煽りを込めて身体を突く。

 道路に転がる死にかけのネズミを弄ぶように、ただ一人の人類に無数の侮辱をぶつけ続けた。


「ねえ、あんたはどんな風に無様な姿を晒すのかしら? あはっ、もうボロ雑巾みたいだし、絞りカスも同然よね。ほら、もう少しくらい足掻いてみれば? 私達と違って、ちゃんと生物として動いてるんでしょ? 動物らしく意地汚く血吐いて、醜い抵抗を見せてよ。私達を造った遠い遠い過去の創造主様と同じ種族なんでしょ? 自分達が造った人形に敗けてどうするの? あっ、だから滅んじゃったのね! あっははは!」


 敵へのリスペクトも一切無く、何度も何度も爪先で蹴っては口角を上げ、今にもつばを吐きそうな表情で攻め立てる。

 自分が作った予備の軍勢に立ち向かい、全滅させてみせた相手が無様に倒れて事切れた姿を晒しているという愉快さが面白く、圧倒的な征服感に包まれながら、フロルドゥスは大我を一発思いっきり蹴り上げた。

 咳と共に血を吐きながら、一回転してうつ伏せの状態になる大我。その時の姿を見た瞬間、フロルドゥスの表情はほんの少しだけ冷め始めた。


「……まだそれ残ってたんだ」


 一瞬視界に写った力無く開かれた大我の口内には、噛み砕かれたばかりの最後の黒粒が顔を覗かせていた。

 それはバレン・スフィア内で二回目撃した、有機の肉体に爆発的な胆力とエネルギーを呼び起こす劇物。

 あれだけ拒絶していたのに、まだ口にするという見境の無さか、それとも舌や感情が麻痺してしまっているのか。フロルドゥスは無駄な足掻きだと小さく鼻で笑いながら、そのまま嘔吐してしまうのも面白いだろうと思いながらもう一発、横腹に蹴りを入れようとした。

 しかしその一発は到達することは無く、最後の絞りカスを捻り出すようにして動く右腕によって受け止められた。

 直後、まるで電気ショックによって跳ね上がったように、大我は獣のような叫び声を上げて起き上がり、その勢いを乗せてフロルドゥスの腹部へ原始的な頭突きをぶつけた。


「この……死にぞこないのくせに……!」


 そのたった一発が、フロルドゥスの怒りの琴線に触れた。大きく距離を離し、触れられないようにと対策を取る。

 彼女は造られて以降、一度もダメージという物を負ったことが無い。それこそ、この世界の住人に対する絶対的な能力及び、侵入してきた野生動物に対しても一方的な対処が行えたからである。

 そのような誰も触れることすら敵わないという自負とプライドもあってか、フロルドゥスの感情は一気にピークにまで達した。

  

「いいわよ。元々あんたを生きて返そうなんて思ってないんだから。化石は化石らしく、大人しく土に還るといいわ!」


 直前に口にしていた、何者かによる殺してはならないという命令を無視し、跡形も無く消滅させるという過剰なまでの処理に移行することにしたフロルドゥス。

 彼女は未だプライドの崩れない鋭い見下しの目つきのまま、両手と両膝を地面につき、顔を真正面に向けた。

 すると、両手の表面に無数の分割線が表れ、地面に突き立てる鉤爪のような形へと変化する。

 両足も同様に履いていた靴を吹き飛ばしながら変化し、足首から90度曲がっては地面に固定するパーツへと変形していく。

 最後に彼女の顎が大きく外れ、奥から砲身のような一部品が外気に晒された。

 今のフロルドゥスの姿は、まるで人の形をした固定砲台。自律した女性型兵器。魔法も何もあったものではない。


「塵一つ残さず燃え尽きろ!!」


 激しく鳴らされる駆動音と共に、砲口に少しずつ輝く光が集まっていく。

 若干のチャージ時間を要する超高熱のレーザー砲台。それがバレン・スフィアを操るフロルドゥスのもう一つの姿である。

 基本的にはこの能力は使うまでも無く、醜い姿を晒すことになる為に彼女の感情が沸点に達した時でも無ければ発動することはほぼ無い。

 それ程までに、大我に一撃を加えられたことが怒りに直結したのだった。

 この充填までの時間と音は、大我への処刑宣告。まともに動くことも出来ない今ならば、甘んじてこの時間を恐怖で埋め尽くすしかない。そう考えての発動でもあった。

 だが現実は、それとは真逆の方へと動いた。


「なっ……なんでよ……なんで動いてるのよ……!」


 ゆらりと立ち上がり、今にも落ちてしまいそうな瞼の隙間から、膝と手を地面に付き口から砲身を現すフロルドゥスをなんとか見据える大我。

 この時の大我は、怖いくらいに思考がクリアに澄んでいた。

 余計な雑念や思考を考えるような余地もない、ギリギリまで削られた生命の余裕。

 マラソンで走り尽くした後には周囲の出来事には頭を回せないように、その極限状態が、普段ならば僅かにも起こる恐怖を砂粒ほどにも起こさず、たった一つの目的のためにその身体を動かしていた。

 そして、命を削るように溢れる力を足に込め、大我は崩れたフォームながら全力で真っ直ぐフロルドゥスの方へと走り出した。

 この間、機械に対して以外は彼女は完全なる無防備。まさしく大我だけが、この隙に付け入ることができる。

 いつ絶命に至る光線を放たれるかわからないという恐怖を微塵も感じず、それを押し退けるが如く、大我は亡者のように走っていった。


「チャージ完了……! あの世へ……がぁっ……!」


 熱線の発射準備が整い、発射されようとしたその一秒前。

 タイムリミットに怯むことなく限界近い脚で走った大我は、その勢いを一切緩めないままに、その開放された顎へと強烈なアッパーを叩き込んだ。

 溢れる生命力をその拳に込めたかのように、フロルドゥスの身体は宙へと舞いながら、その砲口は上空へと向けられる。

 そしてその大我を抹殺せんとする一発は、空へ登る星となって雲を突き抜け消えていった。


「この死にぞこな……ぎいっ!?」


 四肢を変形させたために、咄嗟の抵抗の難しいこの危険な状況。怒りと不快感を纏った罵倒を発しながら体制を立て直そうとしたその時、一瞬の合間すらも許さないとアッパーの直後に飛び上がった大我が、熱せられた砲身を掴まないようにと銀髪に包まれた後頭部を右手で掴む。

 そして、その頭部を真っ直ぐ、胡桃を叩きつけるように地面へと満身の力で叩きつけた。

 二人しか残されていない空間に、乾いた金属音が響き渡る。


「あんた、ただで済むと……がっ!」


 何度も、何度も叩きつける。


「離せこの……あがっ! がひぃっ! 人間ふぜ……いだっ!」


 何度も、何度も打ち付ける。

 顔の皮膚が破れ、その内部が露わになる。


「やめっ……ぎゃっ……たすけ……ぎっ」


 眼球のレンズが砕ける。


「がっ……ぴっ……止め……いぎっ!」


 悲鳴に電子音が混ざり始める。

 何度も、何度も殴りつける。


「ヤだ……ぎぃっ! エらー……損しょ……#2@!」


 人間らしい発言も消え始める。


「起動しまシ……#&9!? =#1⬛!!」


 人の声が、聞き取れない音へと変わる。


「%03<! ⬛⬛&*9!!」


 胴体が不規則に痙攣する。

 何度も、何度も叩きつける。


「⬛⬛! ⬛⬛」


 電子音しか発しなくなる。

 それでも叩きつける。


「――⬛――⬛〜〜――⬛――」


 指が、足が、背中が、脊髄反射のように動く。

 それでもまだ壊し続ける。


「――――…………………………………………」


 そうして、何回、何十回と叩きつけたかわからない回数。

 大我はほんの僅かな電子音すら聞こえなくなるまで壊し続け、ついには小さな駆動音すら聞こえなくなった。

 フロルドゥスの顔面は跡形も無く破壊され、人間らしい面影はその形と頭髪にしか残っていない。

 首から下の身体もぴくりとも動かなくなり、それは完全な停止を意味していた。

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