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気がつけば、新世界!?  作者: 土装番
この拳は何を穿つために
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この拳は何を穿つために 10

 湧き上がる気力、加速する攻め手。痛みの蓄積した右手を庇いながらの蹴撃、投技、体当たりと思いつく限りの方法はとにかく使い続ける。

 あまりにも強大な数との対峙からどれ程経ったかわからない。だが目標とする敵の数は確実に減り続け、小さな傷をいくつも作りながら、大我の周囲には無数の屍、金属の残骸が地獄のように積み上がっていた。

 何か危ない成分でも混入しているのではないかと感じてしまう程の体力の復調ぶり。今この時はそんな細かいことなど気にしていられない。

 これ程の回復力、栄養としての吸収力があるならば、もしかしたら持久力の心配は必要無いしれない。

 大我はわずかな手応えを掻き集めながら縦横無尽に暴れまわっていたその時、不穏な気配を前方から感じ取る。


「マジかよおい、あんなの俺一人にか」


 隊列を崩しながらも弓を構え、弦を引き矢尻を上空へと向ける無数のカーススケルトン。

 その光景は過去に創作物の中で見たことがある。数え切れない程の凶器が空を埋め尽くし、必殺の一撃が豪雨のように降り注ぐ予想された未来。

 遠距離装備の無い兵隊の軍を一方的に殲滅するには有効な殺戮法。それをたった一人に対して放たれることはオーバーキルという他この上ない。

 一人に向けられるにはその殺傷能力は充分すぎる。周囲に隠れられる場所も逃げ場もなく、耐えられるような防御兵装も無い。


「まずい……どうすりゃいい……どうすりゃ……」


 全力で横方向へと逃げられれば回避は可能かもしれないが、どの範囲まで拡散するように放たれるのか見当もつかない。端から端までカーススケルトン達が向ける方向を確認しようとしてもそんな時間にはあまりにも足りなさすぎる。

 第一波の骸骨達を全滅させられるまでもう間もなく。そんな状況に入り込んだ横槍、当然の妨害。一旦の急速回復を挟んでノっていた大我に、強いブレーキがかかった。

 周囲に確認できる残された敵の数は五体。武器も持っておらずほぼ丸腰。先に叩くか防御の手段を編み出すか。悩む時間は無い。


「やるしかねえ、色々考えるのは後だ!」


 無数の矢を射られるまでの僅かな時間。大我は全身の筋肉を振り絞り、一切の自律思考なく近づくカーススケルトンへの迎撃体制を取った。


 一体、警戒も無く無防備に近づく顎を狙い、刺突の如く鋭い爪先の蹴り上げを叩き込み、頭部を吹き飛ばす。

 一体、その後方から続いて接近する敵の頭部めがけ、振り上げた脚部を全力で叩き落とし、頭頂部から大きく凹ませ内部を粉砕する。

 一体、地面を踏み抜いた右脚の力、勢いを全身と左足に乗せて全力の足刀蹴りを放ち、大我の後方へ残り一歩まで近づいた骸骨の胸部を変形させながら大きく吹き飛ばした。

 一体、大きく伸ばして地面に付いた左足。身体が伸ばされた分勢いを付ける余裕が生まれる。体勢の条件が整ったテレフォンパンチ。対人ならば通用しないが、モンスター相手ならば関係ない。本能のままに放たれた右ストレートは、拳に生じる痛みと共に遠くぶっ飛ばされた。


 そして残るは槍を持った一体。だがその撃破を完遂する直前、大我一人へと向けられた殺意を具現化したかのような、拡散された矢の雨が一斉に放たれた。

 その落下位置は正確に大我の周辺、広範囲へと降り注ぐ。動く者が殆ど残されていない、残骸だらけの廃棄場のような大地。

 矢尻と骨格が擦れぶつかり、乾いた音が鳴り響く。地面に刺さり、残骸の隙間に入り込み、串刺しの森が作り上げられた。

 砂塵が吹き上がり、虫一匹すら残らず貫かれたとしてますおかしくは無い光景。最後に残ったカーススケルトンすら、眼窩に突き刺さり、骨格の隙間へと挟まり稼働を阻害され、実質的な機能停止へと陥った。

 しかしその中に、大我の姿は指一本すら見受けられない。まるでその場から消滅してしまったかの如く、跡形も無く姿を消した。

 魔法も使えるはずもない。煙が晴れた後の状況を認識し動作を止めたカーススケルトン達。

 その時、積み上げられた残骸が突然盛り上がり、極小の部品や鋼鉄の骨格、隙間に刺さった矢その他無数の塵芥と共に勢いよく吹き飛び散らばった。

 その中から現れたのは、複数カ所に血が滲む程の切り傷を作りながらもぴんぴんしていた大我だった。


「はぁ……はぁ……助かった」


 空へ放たれた矢尻が地表へと向き始める前、大我は足元に唯一の逃げ場を見出した。

 それは無数の屍の山から成る金属の防壁。数の暴力を討ち倒した褒美とも言える環境だった。

 完全には防げない可能性は十二分。隙間もカバーできるかは運に左右される。だがこの脆い肉体を確実に貫かれ、死んでしまうよりは何倍もマシ。大我は閃きの直感に従い、急いでその死体の下へと潜り込んだ。

 その重量に圧迫されたダメージと、僅かな隙間を縫って傷つけられはしたが、四肢の大怪我や致命傷を負わずに済むこととなった。


「うおおおおおおおりゃああああああああああ!!!!!」


 一度の大掛かりな波状攻撃を交わすことが出来たならば、その直後こそが大きなチャンス。これを逃す手はない。

 大我は両手にへし折り手に入れた脚部の鉄骨を握り、次の射出が行われる前にと、肺の奥から吐き出されたような叫びと共に弓兵部隊への接近を開始した。

 大きく距離を離し、肉弾戦に気を取られている中で一方的に射抜き続けるという確実な殺傷策。遠方から見たところ、細かな形状までは判別できないもののナイフのようなリーチの短い接近戦用の装備も武装していることが確認できる。

 だがその敵の数は、ただひたすらに耐久レースのように打倒し続けてきた先方部隊のように多くはない。

 その奥にはさらなる敵が待ち受けている可能性は残るが、それでも終わりまでの一歩は間違いなく進んだ。

 大我は勢いのままに突っ走り、次の一撃を叩き込む相手を見定める。


「射たれる……! させっかよぉ!!」


 蓄積した疲労が身体の状態にも影響を始めたか、戦闘の当初よりも冷静に視界内の情報を見定めることができない。

 それと引き換えに、シンプルに思考を行き渡らせるようになった。

 あれはまずいと肌に感じれば、即行動に移す。大我は次の一発を真っ直ぐ自分めがけて放とうとしたカーススケルトン目掛けて、握った鉄骨を縦回転させながらぶん投げた。

 その一発は構えていた弓矢をへし折りながら腕へ命中。本体の破壊には至らないものの、よろめかせ怯ませるには充分な成果だった。


「俺はまだいける! この先にいるんだろ、こいつらの主が!!」


 会話の成立しない敵へと言い放つ、改めての自らを鼓舞する叫び。

 たいしたことのない雑兵の群れだったことも手伝ってか、予想外な程に順調な殲滅ペース。大我はその攻撃をついに厄介な弓矢持ち達の中へと叩き込んだ。

 

「多すぎるんだよお前らは!! 大人しく倒れやがれ!!」


 内心、軽く小突いただけでも動けなくなってほしいという淡い願望を懐きながら、その屍の数を増やし、その屑鉄の山を増やしていく大我。

 どれだけ倒したかわからない程の骸骨達を相手にしたからか、自分の身体を休めながらの戦い方もこなれたものになり、手が痛くなれば足で、足が痛くなれば投げて、腕が疲れればタックル。

 戦いの中で粗くも磨かれ始めた体術を駆使して次々と薙ぎ倒して行く。どこか楽しいという感情も抱えながら、全身に重なる疲労とも歯を食いしばり付き合い、もう一個グミを食しつつ次々と残骸を増やしていった。

 戦いの最中、ほんの少しだけ周囲を確認する余裕の出来た大我は、この弓矢部隊の先には何が待ち受けているのか、どれだけの敵が残っているのかを確認するため、進行方向の先、果てのわからないバレン・スフィアの向こう側へと視線を移した。


「……まだあんなのかいるのかよ」


 その視界に映し出されたのは、黒い翼をはためかせて大我達を見下ろす無数の槍兵。

 遠くからでははっきりと確認できなかったが、その槍兵は女性の容姿を持っており、一応の漫画アニメからの知識として入っていたワルキューレというフィクションの存在の特徴そっくりだった。

 さらに後方には、巨大な像のように動く様子すら見られない黒紋の巨人二体。遠方から見た時との印象はさほど変わらないが、その姿の禍々しさが増したような印象を受けた。

 残された敵はこれだけなのかと何度か見渡したその時、ワルキューレ達よりも遠く、巨人よりも近い距離、呆然と立ち尽くす三人の人影を確認した。


「なんだあれは、人影?」


 少なくとも今自分の周りにいるような骸骨たちではない。はっきりとその姿を確認できなくとも、そんな程度の存在をたった三体置いておくとは思えない。

 接近する敵を蹴散らしながら、視線をその人型へと集中させる。そして、そのピントがほんの一瞬合ったその時、その眼に写し出されたのは紛れもない人の姿だった。


「なっ……!」


 バレン・スフィアの中心であろうあの声の主に操られているのか、それとも……。一瞬の動揺が大我の集中を途切らせる。

 その時、大我の背後から一体のカーススケルトンが、鋭利なナイフを突き立て至近距離まで接近してきた。


「しまっ……!」


 ほんの小さな動揺と油断が、デッドラインまでの接近、そして攻撃動作まで許してしまった。

 大我は慌てて後方へのステップで距離を取ろうとしたが、既に間に合わない。

 刃は致命的な刺突は避けられたものの、その胸から鳩尾まで一閃の傷を作り上げた。


「があっっ……」

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