とても寂しかった…… 2
隠れているうちに落ち着きを取り戻したエヴァンは、家内へ戻った大我と目まぐるしく回る状況に戸惑いを隠せないティアと共に、食器の片付けられたテーブルを会議のように囲んでいた。
リアナとエリックは、朝の家事を終えた後、二人の仕事の準備の為に外へと出向いている。
「…………で、なにがあったんですかアレ」
「ああ、うん……ちょっとどう話せばいいかわからないけど……真面目に聞いてくれるかい?」
「そりゃまあ」
「私達はちゃんと真面目に聞いてますよ?」
何を当然のことをと言わんばかりのきょとんとした返事を返す二人。
少しだけ右に口角を上げながら、右手で頭を数秒抱えた後、その重い口を開く。
「…………えっとね、朝目覚めたら、いきなり全裸にリボンをぐるぐる巻にしたアリシアが覆い被さっていたんだ」
「ええっ!?」
あまりにも現実味の無い話に、思わず驚きの声を上げてしまうティア。
両手で口を閉じ、ゆっくりと大我の方を向く。
「うん、俺も見た。マジでびっくりした」
「俺も見た」
「ええ……」
目撃者が少なくとも三人いる確固たる事実。まさかあのアリシアがそんなとんでもないことをと、ティアは空想としか思えない信じられないことにただ気の抜ける声を出すしかなかった。
「それで突然のことにビックリしちゃって、慌てて抜け出したら誕生日プレゼント受け取ってって言いながらものすごい勢いで追いかけてきて」
まるでゾンビ映画の逃走者から話を聞いている気分になる大我。
あの身体能力が抜群に高いアリシアが、ものすごい勢いでという装飾が付くほどの速さで追いかけるのをなんとか逃げ果せたのだから、エヴァンの実力がこんなところでも垣間見える。
「プレゼントって、まさかプレゼントは私みたいな奴が?」
「多分そうだと思う」
「マジでやる奴いたか……」
いくらファンタジー溢れた世界とはいえ、そこまでの漫画的行動を本当に行うものが現れたという事実に、大我はなんだか驚けばいいのか戸惑えばいいのかよくわからない感情に襲われた。
「まあ、今までが巨大猪の丸焼きとかアーマークラブの丸焼きとか、そういうものばかりだったからものすごくびっくりしたよ」
「……なあティア、もしかしてアリシアって、料理下手」
「はい、すっごい下手です」
あの優しいティアが、フォローも無く断言する程の料理下手。実の兄からの話を聞いているだけでも、その実感が嫌という程に湧いてきた。
「ああ、思い出してきた。懐かしいなあ、味付けもない素材そのままの味でね……僕一人じゃ食べ切れないからおすそ分けして、たまに生焼けのプレゼントがあったりして……」
苦い思い出が、今の状況から蘇ってくる。立て続けに異変が起きているこの状況でのそれは、もうしんどいものがあるだろうと心中察する三人。
「さて、僕の思い出話はこれくらいにしよう。アリシアがどうしてあんな……にいっ!?」
ひとまずの昔話は隅に置き、どうしてアリシアが突然こんなことをし始めたのかという話を始めようとしたその時、四人が囲うテーブルの中心に、突如一本の矢が突き刺さった。
その矢は全体が赤く光っており、木製のテーブルが刺さったところから焼け焦げ始めている。
四人は即座に、その矢が放たれた方向へと視線を移した。
「みーツけた」
開けっ広げられた大我の即席部屋のドア。その奥に僅かに確認できる割れた窓。
そこには、目を光らせてほんの少しだけ見える兄の姿を捉えたアリシアの姿があった。
弓矢の装備をしていないその状態から放たれたのは、かつてエヴァンが教えた、いざという時に使うマナを固着させた矢だった。
「うそでしょ……!」
エヴァンは赤く光る矢をナイフで一閃。瞬時にその矢は光を失い、霧散していった。
とりあえずの処理を終えたエヴァンは、こんな誰かの家の中で暴れることになっては非常にまずいと、即玄関に向かい一目散に逃げていった。
「あっはハははハは!! 待っテよお兄ちゃーーーーん!!」
それまでの凛々しい声とは随分違う、どこか違和感の覚える大きな甘え声で、アリシアはエヴァンを追いかけてフローレンス家の自宅の窓から去っていった。
「な、なんだったんだ……」
まるで嵐が過ぎ去ったような静けさに、ふっと力が抜けた三人。
直後、ティアがはっとした顔で慌てて立ち上がった。
「こうしちゃいられないですよ! 早く二人を追いかけなきゃ!!」
「えっ、どういうことだ」
「だって、こんな攻撃も辞さない行動し始めたアリシアが、すっごく強いエヴァンさん追いかけてるんですよ!? その上、あんなとんでもない格好で街中を飛び回るってなったら……」
「…………………やばい!!!」
ティアの一言一言を脳内で具体化し、これから起こることをイメージする。
大我の脳内に現れたのは、エヴァンを追いかけて魔法攻撃をガンガン放つほぼ露出狂と化したアリシアが、その姿を晒しながら街中に被害を及ぼす情景だった。
一見すると非常に間抜けかつぶっ飛んだ光景だが、視覚的にも損害的にも中々に危ないものがある。
しかも、もしアリシアが正気でないならば、正気を取り戻した際の本人の羞恥心へのダメージは計り知れないだろう。
これ以上街の被害を拡げないためにも、何よりアリシア自身の尊厳とプライドを守るためにも、三人は急いで家を飛びだした。
「どっち行った!?」
「ダメだ、もうどこ行ったのかわかんねえ」
「手分けして探しましょう!」
既に二人の姿はどこにも見えなかった。こうなってしまうと、この広い街で特定の二人を探すのは至難の業となる。
今の状態だと非常に目立つものがあるために、住人の目を引くことは間違いないため、大我とエルフィ、そしてティアのそれぞれに分かれ、二人を探すことにした。
「もし見つけたら上空に合図送るから、そっちもそれで頼む」
「わかりました。どうか、アリシアのためにも早く見つけましょう」
「もちろんだ。じゃあ行ってくる!」
手がかりが見つかれば合図を送ることを約束し、大我達は一気に走り出した。




